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書類の書き方

被保険者報酬月額変更届の書き方(記入例つき)

「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」(以下「月額変更届」)は、従業員の報酬が昇給などによって大幅に変わったときに年金事務所または事務センターに提出するものです。

今回は、この「月額変更届」の概要と書き方について、記入例も参考にしながら説明します。

月額変更届の概要

健康保険・厚生年金保険の被保険者および70歳以上被用者(70歳で厚生年金保険の資格を喪失したあとも常勤的に働く者)の報酬が、昇給や降給などによって大幅に変わったときは、算定基礎届の提出による「定時決定」を待たずに、標準報酬月額を改定(変更)できることになっています。

これを「随時改定」といいますが、その手続きのための書類が月額変更届になります。

この月額変更届が具体的にどのような場合に提出するものであるのか、また、提出時期や提出先、添付書類などについて説明します。

月額変更届の提出が必要になる場合

月額変更届の提出が必要になるのは、従業員が次の3つの条件をすべて満たした場合です。

①昇給または降給などにより固定的賃金に変動があったこと

「固定的賃金」とは、基本給や役職手当、住宅手当などのように勤務状況などにかかわらず、毎月決まった額が支給される賃金のことを言います。

随時改定は、基本給などの「固定的賃金」に見直しがあったことが前提であり、例えば、残業手当のように毎月の残業時間の変動によって支給額が変わる「非固定的賃金」だけが増減した場合には対象になりません。

②変動月からの3か月間に支給された報酬(非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと

「標準報酬月額」とは、報酬月額を、健康保険は1等級の58,000円から50等級の1,390,000円まで、厚生年金保険は1等級の88,000円から31等級の620,000円までに区分したもので、社会保険料や厚生年金の報酬比例額の計算などに用いられます。

随時改定は、この標準報酬月額について、従前の等級と、変動月から3ヵ月間に支給された報酬の平均月額に相当する標準報酬月額の等級との間に、2等級以上の差が生じた場合に対象となります。

③3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること

「支払基礎日数」とは、給与の支払対象となった日数のことですが、月給・週休制の場合には暦日数になり、日給・時給制の場合には実際に出勤した日数になります。月給制の従業員の場合、中途採用者や休職者、また、欠勤が多い者でない限りは、この要件は満たします。

なお、「特定適用事業所」とは、事業主が同一である1または2以上の社会保険適用事業所であって、これに使用される通常の労働者及びこれに準ずる者の総数が常時501人以上の各事業所のことを言います。

年間報酬の平均による随時改定

随時改定は原則として報酬が変動した月から3か月間に支給された報酬で判断することになりますが、2018年10月1日から、一定の要件(毎年、定期昇給と繁忙期が重なるなど)を満たせば、年間報酬の平均による随時改定も可能になっています。

詳しくは日本年金機構のホームページでご確認ください。

提出時期・提出先・提出方法

月額変更届の提出が必要な従業員が出た場合には、当該届出書を速やかに事業所の所在地を管轄する年金事務所に持参するか事務センターに郵送しなければなりません。

提出方法としては、紙媒体での提出だけではなく、一定の手続きを行えば、CD又はDVDなどの電子媒体の提出や電子申請も認められています。

なお、健康保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)のものではなく、健康保険組合のものである場合には、その健康保険組合にも提出する必要があります。

必要な添付書類

添付書類はありません。

ただし、上記で説明した年間報酬の平均による随時改定である場合には以下の添付書類が必要となります。

①(様式1)年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
②(様式2)健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)

月額変更届を健康保険組合に提出する場合には、その健康保険組合独自の添付書類が必要となる場合がありますので、ご確認ください。

改定された標準報酬月額の適用時期

月額変更届を提出することで改定された標準報酬月額は、報酬が変動した月の4か月目から適用されます。それがいつまで適用されるのかについては、6月までに改定された場合には再び随時改定がない限り、当年の8月までの各月に適用、7月以降に改定された場合には翌年8月までの各月に適用されることになっています。

なお、定時決定としては年1回、毎年7月に算定基礎届を提出することになっていますが、決定された標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月までの各月に適用されることになっています。

月額変更届の書き方

月額変更届の書き方について、記入例を参考にしながらポイントを説明します。

記入例とポイント

月額変更届は、提出者となる会社の情報と対象従業員の報酬月額などを記入する欄に分かれています。

対象従業員は1枚あたり5人分までしか記入できませんので、それ以上いる場合には2枚目に続けて記入することになります。

主な項目の意味や、記入するにあたって注意すべきポイントを順番に説明します。

被保険者報酬月額変更届の記入例

①事業所整理記号
事業所が、初めて社会保険に加入する手続きをした時に付与された事業所整理記号を記入します。原則として、「01-イロハ」のような数字とカタカナです。

事業所整理記号は、「適用通知書」や「保険料納入告知額・領収済額通知書」などに記載されています。

②事業主の押印
事業主自らが署名した場合には押印は不要です。

③被保険者整理番号
被保険者が就職した時に付与された被保険者整理番号を記入します。

被保険者整理番号は、「健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通知書」や健康保険被保険者証(保険証)などに記載されています。

④生年月日
「該当する元号の番号(1.明治 3.大正 5.昭和 7.平成 9.令和)」-「生年月日」というように記入します。この際、年月日のいずれかが1桁である場合には前に0を付けて2桁とします。

⑤改定年月
報酬に変動があった年月から4か月目の年月を記入します。

⑥従前の標準報酬月額
現在の標準報酬月額を健康保険と厚生年金保険の別に千円単位で記入します。

⑦従前改定月
現在の標準報酬月額が適用された年月を記入します。

これまで定時決定のみであったのであれば、直近の9月になりますし、定時決定後に随時改定を行っているのであれば、その標準報酬月額が適用された年月になります。

⑧昇(降)給
昇給または降給のあった月の支払月を記入し、「1.昇給」または「2.降給」を〇で囲みます。

⑨遡及支払額
遡及分の支払いがあれば、支払月と支払額を記入します。

遡及分の支払いとは、例えば、3月に昇給したことによる増額分を3月に支払わず、4月に支払ったような場合を言います。

⑩給与支給月
賃金が変動した月から3か月を記入します。

⑪給与計算の基礎日数
月給・週給者は暦日数、日給・時給者は出勤日数など、報酬の支払いの基礎となった日数を記入します。

月給・週給者で、欠勤日数分の給与を差し引いている場合には、就業規則などで定められた所定労働日数から欠勤日数を除いた日数になります。

⑫報酬月額
対象となる3か月の報酬月額について、「通貨によるものの額」と「現物によるものの額」、その「合計」を記入します。

一般的には、「通貨によるものの額」だけに全額を記入し、「現物によるものの額」には0と記入する場合が多いですが、食事や住宅、被服などを現物支給するなど、通貨以外で報酬を支払った場合には、「現物によるものの額」に、厚生労働大臣が定めた額(食事、住宅については都道府県ごとに定められた価額、その他は時価により算定した額)を記入します。

⑬総計
対象となる3か月の報酬月額の総計を記入します。

⑭平均額
総計÷3(1円未満切り捨て)の額を記入します。

⑮修正平均額
遡及支払額がある場合には、その額を除いて算出した平均額を記入します。

⑯個人番号(基礎年金番号)
70歳以上被用者のみ、本人確認を行ったうえで個人番号を記入するか基礎年金番号を左詰めで記入します。

⑰備考
多くの場合には、「4.昇給・降給の理由」を〇で囲み、カッコ内に「基本給の変更」や「家族手当の支給」などと昇給または降給となった具体的な理由を記入するのみで足ります。

その他に該当する項目があれば、それを〇で囲み、必要に応じてカッコ内にも記入します。

各項目の意味は次のとおりです。

・「1.70歳以上被用者月額変更」
70歳で厚生年金保険の資格を喪失したあとも引き続き、厚生年金被保険者の基準を満たして働く「70歳以上被用者」の月額変更のことを言います。

・「2.二以上勤務」
2カ所以上の適用事業所で勤務していることを言います。

・「3.短時間労働者(特定適用事業所等)」
短時間労働者とは、「被保険者数が常時501人以上の法人・個人の事業所」、「労使合意に基づき申出をする法人・個人の事業所」及び「国及び地方公共団体に属するすべての事業所」で、勤務時間及び勤務日数が常時雇用者の4分の3未満で働く方のうち、以下の①~④の全ての要件に該当する方を言います。

①週の所定労働時間が20時間以上であること
②雇用期間が1年以上見込まれること
③賃金の月額が8.8万円以上であること
④学生でないこと

・「5.健康保険のみ月額変更(70歳到達時の契約変更等)」
70 歳到達時(厚生年金保険は資格喪失)の契約変更などの理由により健康保険のみ月額変更となる場合のことを言います。「1.70歳以上被用者月額変更」とは違い、あくまで、70歳到達時の契約変更などによる月額変更が対象となります。

・「6.その他」
月額変更の対象となる給与支給月に被保険者区分の変更があった場合、例えば、常勤の従業員から短時間労働者になったような場合が想定されています。このような場合には、「6.その他」を〇で囲んだうえ、カッコ内に「10/1→短時間労働者」などと記入します。

まとめ

月額変更届は、毎年7月に提出する算定基礎届と違って、従業員の給与支給額の動きを把握できていなければ提出できるものではありません。このため、何かしらのチェック体制を整えておく必要があります(給与計算ソフトなどを導入していれば、対象となる者を簡単にリストアップできます)。

この手続きは、会社と従業員が負担する社会保険料の額を変更するものであるとともに、従業員の将来あるいは現在の年金額にも影響する重要なものになります。忘れないように提出しましょう。