リーガルメディア > 労務 > 労働関連 > 最低賃金制度とは?違反するとどうなる?
労働関連

最低賃金制度とは?違反するとどうなる?

最低賃金制度は、企業に対して一定以上の賃金を支払うことを法律により義務付けている制度です。

今回は、最低賃金制度の概要や、最低賃金に違反するとどうなるのかなどについて解説します。

最低賃金制度とは?

最低賃金制度とは、労働者の生活の安定を図ることなどを目的として、国が賃金の最低限度を定め、使用者にその最低賃金額以上の賃金を支払うことを義務付けている制度です。

使用者が最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には最低賃金との差額を支払わなければなりません。仮に、最低賃金額よりも低い賃金を使用者と労働者との合意のうえで定めたとしても、それは無効となり、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。

なお、最低賃金の対象になる賃金とは、毎月支払われる基本的な賃金であり、実際に支払われる賃金から割増賃金や精皆勤手当、通勤手当、家族手当などを除いた賃金が対象となります。

最低賃金の種類

最低賃金には地域別最低賃金特定(産業別)最低賃金の2種類があり、両方が同時に適用される場合には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないことになっています。

地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金について詳しくは次のとおりです。

地域別最低賃金

地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働く正社員やパートタイム、アルバイトなどすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金で、各都道府県に1つずつ、計47件の最低賃金が定められています。

この地域別最低賃金は、毎年、都道府県ごとに改定を検討することになっており、都道府県によってはそのまま同額とされる年もありますが、改定される場合には、毎年、10月からその額が適用になります。改定日は必ずしも10月1日ではなく、都道府県によって異なります。

都道府県ごとの地域別最低賃金の額について詳しくは、以下の厚生労働省のホームページでご確認ください。

>地域別最低賃金の全国一覧/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

特定(産業別)最低賃金

特定(産業別)最低賃金とは、特定地域内、かつ、特定の産業の労働者(18歳未満または65歳以上の方などを除く)と使用者に適用される最低賃金で、令和2年4月1日現在で、全国で228件の最低賃金が定められています。

228件のうち、227件は各都道府県内の特定の産業について定められており、1件は全国的に適用するものとして非金属鉱業について定められています。

この特定(産業別)最低賃金も、地域別最低賃金と同様に、原則として都道府県ごとに改定を検討することになっていますが、改定される場合には、概ね毎年12月中であることが多いと言えます。(厚生労働省が改定する場合もあります。)

都道府県ごとの特定(産業別)最低賃金の額、また、全国設定の特別最低賃金の額について詳しくは、以下の厚生労働省のホームページでご確認ください。

>令和2年度 特定最低賃金の審議・決定状況/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/dl/minimum-19.pdf

>全国設定の特定最低賃金/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-20.htm

最低賃金額以上であるかどうかの確認方法

従業員に支給している賃金が、最低賃金額以上であるのかどうかの賃金制度別の確認方法は次のとおりです。

なお、最初に説明しましたが、割増賃金や精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは最低賃金の対象になりませんので、それらの額を除いて確認する必要があります。

①時給制の場合

最低賃金は、一部の特定(産業別)最低賃金(時間額と日額があわせて設定されているものもある)を除いて、時間額で設定されていますので、アルバイトやパートなど、時給制の者については、次のとおり、時間給そのものが最低賃金額以上である必要があります。

時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)

②日給制の場合

日給制の者については、次のとおり、日給を1日の所定労働時間で割った額が最低賃金額以上である必要があります。

日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

※特定(産業別)最低賃金で、日額が定められているものについては、上記の計算によらず、その日額以上である必要があります。

③月給制の場合

月給制の者については、次のとおり、月給を1か月平均の所定労働時間で割った額が最低賃金額以上である必要があります。

月給÷1か月平均の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

※「1か月平均の所定労働時間」は、〔年間の所定労働日数(1年の暦日数から会社で定める年間休日の日数を差し引いた日数)×1日の所定労働時間〕÷12で算出します。

④年棒制の場合

年棒制の者については、次のとおり、年棒を12で割った額を、さらに、1か月平均の所定労働時間で割った額が最低賃金額以上である必要があります。

〔年俸÷12〕÷1か月平均の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

※年俸に賞与が含まれている場合には、月給の額を算出する時に賞与分を控除する必要があります。例えば、給与規定などで「年俸額を15分の1を 月給として支給し、15分の1.5 を年間2回賞与として支給する」などと規定されている場合には、上記の計算式は〔年俸÷15〕÷1か月平均の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)となります。

最低賃金に違反していることが発覚した場合

最低賃金に違反していることが発覚するケースとしては、給与計算担当者のチェックや従業員からの申告、 労働基準監督署の調査になど、様々なケースが考えられます。

その場合には、いずれにしても、次のとおり該当従業員に対して最低賃金との差額を支払わなければなりません。

最低賃金との差額を計算する

まずは、該当従業員に対して最低賃金を下回って支払った総額と、その額を最低賃金に置き換えた場合の総額との差額を計算する必要があります。

最大で過去2年分を支払わなければならない

上記で計算した、最低賃金との差額を該当従業員に支払うことになりますが、法律上、支払い義務があるのは最大で過去2年分です。

この「最大で過去2年分」というのは、労働基準法で賃金請求権の消滅時効時間とされていた2年からきているもので、あくまで現在の整理です。2020年4月1日施行の改正労働基準法では、賃金請求権の消滅時効期間は2年から5年(当面は3年)に変更されていますので、2022年4月1日以降に最低賃金との差額を支払う場合には、過去2年分以上の期間が支払い対象になりますので注意が必要です。

最低賃金に違反したまま放置しているとどうなる?

最低賃金に違反したまま放置していると、次のとおり、罰金を科されることもあり、対外的な信用も失うことになってしまいます。

罰金を科される

労働基準監督署から是正勧告を受けても最低賃金との差額を支払わないなど、悪質な場合には、罰則を科される場合もあります。

具体的には、地域別最低賃金および船員に適用される特定(産業別)最低賃金以上の賃金を支払わなかった場合には、最低賃金法第40条により、50万円以下の罰金を科される場合があります。

また、船員以外に適用される特定(産業別)最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合は、労働基準法第120条の賃金の全額払違反としての罰則が適用され、30万円以下の罰金を科される場合があります。

対外的な信用を失う

最低賃金との差額の支払いや、罰金以上にダメージがあるのが会社のイメージ低下です。
コンプライアンスが重視され、かつ、ネット社会であるいまの世の中で、最低賃金に違反すれば、瞬く間にその情報は拡散され、その会社で働きたいと思う人は減り、取引先など対外的な信用を失うことになります。

まとめ

最低賃金は、毎年10月以降に見直されますので、そのタイミングで最低賃金の額を下回る従業員の有無を確認する必要があります。

最低賃金を下回る賃金を支払っていれば、遅かれ早かれ、必ず、従業員や労働基準監督署から指摘されることになります。それでも放置し続ければ、罰則を科され、対外的な信用も失うことになりますので注意しましょう。