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社長が急死 法務担当者がすべきこと5つ

社長(代表取締役)が急に亡くなった場合、大企業であれば、社内の組織がしっかりしている分、急に会社の業務が停止してしまうということは考えにくいでしょう。それでも、会社の意思決定を行う代表者が不在となる期間が続くことは望ましくありません。

一方、中小企業の場合、大企業に比べて社内における社長の役割が大きくなりますので、社長の急死により、日常の業務執行が滞ることにもなりかねません。

社長が亡くなることにより、様々な法律問題が生じます。社長が亡くなり、社内で混乱が生じる中でも、法務担当者は落ち着いて対応することが大切です。

法務担当者がすべきこと5つ

社長が急死した場合に法務担当者がすべきこととして、主に次の5つがあります。

  1. 後任の社長(代表取締役)の選任手続き
  2. 登記の変更
  3. 会社の債権債務・財務状況の把握
  4. 社長個人の資産や債務状況の確認
  5. 社長の相続人や相続状況の確認

後任の社長(代表取締役)の選任

社長が急に亡くなった後、最初にすべきことは後任の社長を選任することです。

次の社長をどのように選任するかの手続きについては、会社が取締役会を設置している会社(取締役会設置会社)なのかどうかにより変わります。

取締役会設置会社では、取締役会の決議により、取締役の中から後任の社長を決めることができます(会社法362条2項3号、3項)。

ただし、亡くなった社長を含めて取締役が3人しかいなかった場合、社長が亡くなった後は、取締役が2名になってしまいます。取締役会設置会社においては、取締役は3人以上いなければならないことになっていますので(会社法331条5項)、この場合、新たに取締役を1名選任しなければなりません。

取締役会非設置会社では、定款の定めに基づき、取締役の互選または株主総会の決議により(ただし、会社の定款に特別な選任方法が定められていることもありますので、この点も確認するようにしましょう)、後任の社長を決めることになります(会社法349条3項)。この場合も、社長は取締役の中から選任する必要があります。

すでに選任されている取締役の中に後任の社長として適切な者がいない場合、新たに適任であるとされる人物を取締役として選任することから始める必要があります。

新たな取締役を選任するためには、株主総会の決議を行うことが必要です(会社法329条1項)。

ここで、注意しなければならないのは、亡くなった社長が会社の株主であった場合です。この場合、会社の株式は社長のご家族等の相続人に相続されます。しかし、相続された株式を行使する人物が決まらなかったり、株式を相続した人物が株主総会の出席を拒んだりする場合、株主総会の定足数を満たさず、株主総会で取締役を選任することができなくなる恐れがあります。

ポイント
取締役会設置会社では、取締役会で後任の社長を選任できます。取締役会非設置会社では、取締役の互選または株主総会で後任の社長を選任することになります。それぞれ、取締役会や株主総会を開催するために必要な手続きを確認するようにしましょう。

登記の変更

取締役の氏名、代表取締役の氏名及び住所は登記事項であるため(会社法911条3項13号、14号)、後任となる社長が選任されれば、取締役、代表取締役の登記を変更する必要があります。

下記の必要書類等を準備したうえ、法務局に株式会社役員変更登記申請書を提出します。

  • 登録免許税(資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円)
  • 添付書類(死亡届又は法定相続情報一覧図の写し・臨時株主総会議事録・株主リスト・就任承諾書・印鑑証明書・本人確認証明書)
  • 委任状(代理人に申請を委任した場合のみ)

登記の変更は、変更となる事項が生じた日から2週間以内に申請しましょう(会社法915条1項)。社長が死亡したことによる取締役変更の申請の場合、新たな取締役・代表取締役が株主総会の決議により選任された日から2週間以内です。2週間を過ぎても申請が却下されることはありませんが、代表者に対して過料の制裁が科される可能性があります。

ポイント
後任の社長が選任されてから2週間以内に、法務局へ法人登記の役員変更登記申請をしましょう。

会社の債権債務・財務状況の把握

大企業の場合、経理財務部門が会社の債権債務・財務状況を把握していると思いますが、中小企業の場合、社長一人が経理財務の全てを担当していることも多いです。その場合、会社が把握していない取引先との取引が発見されることもあります。会社の債務はどれだけあるのか、財務状況はどうなっているのかを確認する必要があります。

もし、会社が債務超過に陥っている場合には、破産申立等の倒産手続きを行う必要があるかもしれません。この場合、顧問弁護士に相談して手続きを進めることになりますが、その際、会社の経理関係の書類を確保するなど経理財務部門と連携する必要があります。

また、社長が死亡した場合、会社が死亡保険金を受取ることができる生命保険がかけられている場合もあります。この保険金が、社長が死亡したことによる代表取締役退任の退職慰労金や未払い報酬の支払い、取引先への未払債務、従業員への未払賃金等の支払いの原資となる可能性もありますので、請求を忘れないようにしましょう。

ポイント
経理財務部門と連携をして、会社の債権債務・財務状況について把握するようにしましょう。

社長個人の資産や債務状況の確認

特に中小企業では、会社の債権債務・財務状況のみならず、社長個人の資産や債務状況を確認することが必要な場合があります。

例えば、社長個人が連帯保証人となり会社の個人保証をしている場合や、社長が会社の株式を保有している場合、社長が会社に貸付を行っている場合(役員借入金)などがあります。後ほど説明する相続との関係でも問題になりますので、こちらも経理財務部門と連携をとって確認するようにしましょう。

ポイント
社長の個人保証、株式、役員借入金等についても確認するようにしましょう。

社長の相続人や相続状況の確認

社長が会社の債務について個人保証をしている場合、社長が会社の株主である場合、社長が会社に貸付を行っている場合(役員借入金)等、社長個人に債権債務が帰属している場合、これらの債権債務は社長のご家族等に相続されます。

会社として、これらの債権債務が誰に帰属するのかを確認しておく必要があります。

特に、株式については注意が必要です。

株式は、社長の死亡により自動的に各相続人に分配されるわけではなく、いったん相続人の間で共有状態になります。相続人が株式の議決権を行使する場合は、株式の議決権を行使する代表者を決め、会社に通知する必要があります(会社法106条)。代表者が決まらないと、上述のとおり株主総会を開くことができず、後任の代表取締役を決めることができない恐れもあります。

また、会社の同意がない限り、株主は株式を自由に譲渡することができないと定款で定められている場合(譲渡制限株式)、会社にとって望ましくない相続人に株式が承継されることを防ぐため、相続人に対して株式を会社に売り渡してもらうよう請求することができます(会社法174条)。

ポイント
社長が株式を保有している場合、特に株式の相続人や相続状況について把握しておきましょう。