【不動産登記法改正】形骸化した登記の抹消手続きの簡略化などを解説
ずっと昔に登記されて、すでに効力がなくなっているにもかかわらず、形式的に登記記録に残ったままになっている古い地上権や質権などが数多く存在します。
これらの古い地上権、抵当権などの登記を消すために、これまではとても手間のかかる手続きが必要でした。
その状況を改善するため、令和5年4月1日から不動産登記法が改正されました。
それ以外にもいくつかの改正点があるため、今回の不動産登記法改正のポイントについて紹介します。
不動産登記法とは
不動産登記法とは、土地や建物の物理的な状態(面積、種類、構造など)や権利関係(誰がどのような原因で所有しているか、担保にとられているかなど)について、国の帳簿に記録する「不動産登記」の制度について定めている法律です。
この法律では、登記するべき内容や登記する方法などについて定めています。
不動産登記の制度により、誰もが日本国内の土地や建物についての情報を確認することができ、不動産取引の安全性が担保されるなどのメリットがあります。
改正のポイントと注意点
令和5年4月1日施行の不動産登記法改正のポイントと注意点を紹介します。
存続期間が過ぎている地上権などの抹消登記の簡略化
地上権、賃借権などの権利には、存続期間が登記されている場合が多いです。
存続期間が過ぎていれば、すでにその権利は効力を失っています。
ところが、従来はこれらの権利の抹消登記をするためには、存続期間を過ぎていても、地上権などの権利者と不動産所有者が、共同で申請手続きをするのが基本でした。(裁判などを除く)
今回の改正により、存続期間が過ぎており、一定の手続きを経た場合、不動産所有者が単独で抹消登記を申請できるようになりました。
一定の手続きとは、以下の流れです。
- 権利者の所在を調査する
- 裁判所に公示催告の申し立てを行い、除権決定を得る
注意点
注意点として、存続期間が登記されていなければこの簡略化は認められません。
存続期間が登記されていない権利については、従来通りの手続きが必要です。
なお、権利者の所在の調査とは、住民票などの調査をすればよく、現地に調査に行くことまでは求められません。
抵当権者が法人の場合の古い抵当権の抹消登記の簡略化
抵当権、質権、先取特権の抹消登記の手続きについて、一定の条件が揃っている場合、手続きが簡略化されました。
通常、抵当権、質権、先取特権を抹消するためには、抵当権などの権利を持っている担保権者(銀行など)と抵当権などの権利がついた不動産の所有者の両者が共同で抹消手続きをする必要があります。(裁判などを除く)
ただし、以下の条件が揃っている場合、不動産の所有者が単独で抹消手続きをすることができるようになりました。
- 担保権者が法人(株式会社、有限会社など)であり、その法人が解散している
- 調査しても法人の清算人の所在が分からない
- 被担保債権の弁済期から30年以上経っている
- 法人の解散から30年以上経っている
注意点
注意点として、簡略化が認められるのは、担保権者が法人である場合に限られます。
担保権者が個人の場合には、この簡略化の制度は利用できません。
また、抵当権は認められますが、根抵当権には認められません。
遺贈による所有権移転登記の単独申請が可能に
遺言によって自分の不動産を特定の人に死後贈与する「遺贈登記」があります。
この遺贈登記は、これまでは受遺者(遺贈された人)と遺言執行者または相続人全員との共同での登記申請手続きが必要でした。
今回の改正で、相続人が受遺者となる場合、受遺者だけでの単独申請による遺贈登記ができるようになりました。
この改正により、相続人全員に手続きの協力を頼む手間がなくなり、実質的に手続きが簡略化されました。
注意点
注意点として、単独申請が認められるのは、受遺者(遺贈された人)が相続人である場合に限られます。
相続人以外の人が遺贈された場合には、これまで同様に、相続人全員もしくは遺言執行者との共同申請が必要です。
相続登記後の更正登記の単独申請が可能に
相続登記によって法定相続人の共有の登記などがされた場合に、後から遺産分割協議などによって不動産の持分が変わったり、相続人全員の共有から相続人の一人の所有に変わったりする場合があります。
そのような場合、所有権の更正登記を行う必要があり、従来はその更正登記は、更正前の共有者全員で共同して手続きをする必要がありました。
今回の改正により、更正後の所有者のみから単独で所有権更正登記が申請できるようになりました。
注意点
更正登記ができるのは、更正前と更正後に共通する所有者がいる場合です。
(たとえば、更正前の所有者がA、Bで更正後の所有者がAのみの場合)
共通する所有者がいない場合には、更正登記をすることはできません。
(たとえば、更正前の所有者がA、更正後の所有者はBという場合は不可)
登記簿の附属書類の閲覧制度についての基準の明確化
登記申請書やその添付書類については、一定の条件を満たせば閲覧することができます。
ただ、これまでは条件である「利害関係があること」についての基準が明確ではありませんでした。
この基準を明確にするため、当事者以外の第三者が閲覧請求をする場合には、「正当な理由があること」を証明する書類が必要になりました。
上記の書面には、訴状や当事者の陳述書などが該当します。
注意点
注意点として、正当な理由があることを証明する書類には、具体的な内容が記されている必要があります。
まとめ
今回の不動産登記法の改正によって、今まで煩雑な手続きが必要だった古い登記の抹消手続きなどのハードルが下がりました。
古い登記をそのままにしておくと、いざ売却などをするときに慌てて手続きをしなければならなくなってしまいます。
今回の改正をきっかけにして、古い登記が残っていないか自分の不動産の登記記録をチェックしてみてはいかがでしょうか。