適用事業所全喪届の「全喪の事由」には何を書く?(記入例つき)
会社が事業を廃止あるいは休止するなどにより事業所としての実態がなくなると、社会保険上の手続きとして、「健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届」(以下、「適用事業所全喪届」)を作成し、提出する必要があります。
この書類の作成で戸惑うことが多いのが、「全喪の事由」の欄ではないでしょうか。当記事では、全喪の事由の欄に書く内容も含め、適用事業所全喪届の作成・提出方法を、記入例も参考にしながら説明します。
適用事業所全喪届の概要
まずは、この適用事業所全喪届がどのような場合に提出しなければならないものであるのか、また、提出期限や提出先、添付書類などについて説明します。
適用事業所全喪届の提出が必要になる場合
適用事業所全喪届は、事業所に次の事実が発生した場合に提出しなければなりません。
①事業の廃止(解散)
②事業の休止(休業)
③他の事業所との合併により事業所が存続しなくなった場合
④一括適用により単独の適用事業所でなくなった場合
④の「一括適用」とは、本社、支社などの単位で適用事業所になっている場合、一定の要件を満たせば、支社などを本社に含めて一つの適用事業所にできる制度のことを言います。(このことにより各手続きを簡略化できます。)
被保険者資格喪失届とあわせて提出する
適用事業所としての実態がなくなると、その事業所で社会保険に加入している従業員は被保険者としての資格がなくなります。
このため、適用事業所全喪届を提出する際には「被保険者資格喪失届」もあわせて提出することになります。
「被保険者資格喪失届」は、一般的に従業員が退職したときなどに作成、提出するものです。詳細は【記入例つき】健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届の記入例でご確認ください。
提出期限・提出先・提出方法
適用事業所全喪届の提出期限は、事業の廃止などの事実発生から5日以内です。
この提出期限までに事業所の所在地を管轄する年金事務所に持参するか事務センターに郵送しなければなりません。紙媒体の提出だけではなく、一定の手続きを行えば、電子申請も認められています。
必要な添付書類
適用事業所全喪届には原則として次の①または②のいずれかを添付する必要があります。
①解散登記の記入がある法人登記簿謄本のコピー
(破産手続廃止または終結の記載がある閉鎖登記簿謄本のコピーでも可)
②雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピー
上記の書類を添付することができない場合には、次のいずれかを添付することが認められています。
- 給与支払事務所等の廃止届のコピー
- 合併、解散、休業等異動事項の記載がある法人税、消費税異動届のコピー
- 休業等の確認ができる情報誌、新聞等のコピー
- その他、適用事業所に該当しなくなったことを確認できる書類
適用事業所全喪届の書き方
適用事業所全喪届の書き方について、記入例を参考にしながらポイントを説明します。
記入例とポイント
適用事業所全喪届は次のような様式です。
記入項目の中でも「全喪の事由」については、年金事務所がその実態を把握するため、より詳しい記入が求められていますので注意が必要です。
①事業所整理記号・事業所番号
事業所が新規に適用されると、事業所整理記号と事業所番号が付与されますが、これらを記入します。
事業所整理記号は原則として「01-イロハ」のような数字とカタカナ(地区名の漢字とひらがなの組み合わせの場合もあります。)で、事業所番号は5桁の数字です。
事業所整理記号と事業所番号は、「適用通知書」や「保険料納入告知額・領収済額通知書」などに記載されています。
②全喪年月日
解散や休業、合併による全喪である場合は、その事実発生日の翌日を記入します。
「任意適用事業所」が任意適用の取り消しを申請し、それが認められたことよる全喪である場合は、認可日の翌日、また、「一括適用」による全喪である場合には承認日を記入します。
なお、「任意適用事業所」とは、社会保険が強制適用ではない、従業員が5人未満である個人事業所や農林水産業などの個人事業所で、認可を受けて社会保険の適用を受けている事業所のことを言います。
③全喪の原因
様式に記載のある原因の中から該当するものを〇で囲みます。
「任適脱退認可」とは、上記で説明したとおり、任意適用事業所が任意適用の取り消しを申請し、それが認められたことを言います。
「認定全喪」とは、適用事業所として稼働していない事業所を年金事務所(日本年金機構)が職権で全喪処理にすることを言います。
④事業再開見込年月日
全喪の原因が休業である場合のみ、事業を再開する見込み年月日を記入します。
⑤全喪後の連絡先
事業主の自宅など、全喪後に年金事務所または事務センターから連絡を受けられる住所、電話番号を記入します。
⑥全喪の事由
全喪の事由については、最初に説明したとおり詳しい記入が求められています。
記入例のとおり、全喪に至るまでの経緯(業績悪化の状況など)も含めて事実どおりに詳しく記入します。
なお、年金事務所はここに記入された全喪の事由や添付書類などで全喪の事実を確認しますが、不明な点があれば、実態調査が行われる場合もありますので注意が必要です。
⑦事業主の押印
事業主自らが署名した場合には押印は不要です。
まとめ
適用事業所全喪届は、事業の廃止などにより適用事業所としての実態がなくなった場合に提出するもので、それが事実であるかどうかは年金事務所でも確認を受けることになります。
年金事務所が社会保険事務所であった頃は、全喪についての確認、調査が徹底されていなかたこともあり、事業を継続しながら社会保険料の納付を免れる偽装脱退が問題になりました。
しかしながら、現状においてはより事実確認が徹底されています。適用事業所全喪届を提出する場合には、疑念を持たれないためにも添付書類をきちんと揃え、全喪の事由も詳しく記入して届け出るようにしましょう。