法定三帳簿って何?作成しないと罰則のおそれも
法定三帳簿は、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等の3つの帳簿を指します。これらは会社が作成することと、一定期間保存しておくことが義務付けられています。
今回は、この法定三帳簿の概要や保存期間、罰則について解説します。
法定三帳簿とは?
法定三帳簿とされている、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等について詳しくは次のとおりです。
労働者名簿
労働者名簿は、労働基準法第107条および労働基準法施行規則第53条において、事業場(企業単位ではなく、本社や支社、工場などの単位)ごと、かつ、労働者ごとに作成しなければならないとされています。
記載事項
労働者名簿には、次の事項を記載しなければなりません。
- 氏名
- 生年月日
- 履歴
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類(常時30人未満の労働者を使用する事業においては記入不要)
- 雇入の年月日
- 退職の年月日およびその事由(退職の事由が解雇の場合にはその理由を含む。)
- 死亡の年月日およびその原因
なお、記載していた事項に変更があった場合には、すぐに訂正しなければならないことになっています。
様式
労働基準法施行規則では、労働者名簿の様式として、次のようなものが示されています。
ただし、上記の記載事項を網羅するものであれば、形式が異なっていても問題ありませんし、労働基準監督署などの調査時に提出を求められた場合には、すぐに出力できるようにしておけば、紙ベースではなくデータで作成、保存しておいても構いません。
【出典】労働基準法施行規則 様式第19号(第53条関係)/e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/data/322M40000100023_20191216_501M60000100080/pict/2FH00000021206.pdf
賃金台帳
賃金台帳は、労働基準法第108条および労働基準法施行規則第54条において、事業場ごと、かつ、労働者ごとに作成しなければならないとされています。
記載事項
賃金台帳には、次の事項を、賃金を支払う都度、遅滞なく記載しなければなりません。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働時間数
- 休日労働時間数
- 深夜労働時間数
- 基本給や各種手当などの額
- 賃金から控除するものがある場合にはその額
様式
労働基準法施行規則では、賃金台帳の様式として、次のようなものが示されています。
ただし、労働者名簿と同様に、上記の記載事項を網羅するものであれば、形式が異なっていても問題ありませんし、データで作成、保存しておいても構いません。
【出典】労働基準法施行規則 様式第20号(第55条関係)/e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/data/322M40000100023_20191216_501M60000100080/pict/2FH00000021207.pdf
出勤簿等
出勤簿等は、上記の労働者名簿や賃金台帳と違って、労働基準法で作成が義務付けられている帳簿ではなく、これまでは、賃金台帳に付随するもの(賃金台帳には労働時間数などの記入が必要)として当然に作成すべきものとされてきました。
ただし、現在では、労働時間を把握することが会社の法的な義務になっているため、これに対応するためには出勤簿は必ず整備しなければなりません。
労働時間を把握するための帳簿
労働基準法に、労働者の労働時間を把握することについて明確な規定はありません。ただし、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者には労働時間を適正に把握する責務があるとされており、使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法は、原則として、次のいずれかの方法によることとされています。
- 使用者が自ら確認して、適正に記録すること。
- タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
また、2019年4月1日施行の改正労働安全衛生法第66条の8の3では、長時間労働の防止などを目的として、「事業者は、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。」と規定され、厚生労働省令の労働安全衛生規則第52条の7の3で定める方法は、客観的な記録が基礎となる次の方法とされています。
- タイムカードによる記録
- パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録
- その他の適切な方法
出勤簿等は、現在では法的にも整備することが義務付けられているということです。
> 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf
記載事項
出勤簿等として、記載しなければならない事項や様式などは定められていませんが、一般的には、正確な賃金計算などのために、出勤日ごとの始業・終業時刻、時間外労働時間などがわかるように整理しておく必要があります。
法定三帳簿の保存期間
労働基準法には、記録の保存(第109条)という規定があり、労働者名簿や賃金台帳、雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類(出勤簿等はここに含まれます。)は、3年間保存しなければならないことになっています。
※2020年4月1日施行の改正労働基準法では、条文上、5年間保存しなければならないことになっていますが、経過措置として、当面の間は、これまでどおり3年間で運用することになっています。
なお、この3年間の起算日については、労働基準法施行規則第56条において、次のように規定されています。
法定三帳簿の名称 | 保存期間の起算日 |
労働者名簿 | 労働者の死亡、退職又は解雇の日 |
賃金台帳 | 最後の記入をした日 ※「最後の記入をした日」とは、年度単位で賃金台帳を管理している場合には、年度末の賃金について記入した日になります。 |
出勤簿等 | その完結の日 ※「完結の日」とは、月単位で出勤簿等を管理している場合には、従業員がその月の最後に出勤した日になります。 |
法定三帳簿を作成、保存していないと罰則も…
労働基準法第120条では、法定三帳簿を作成していない場合や、作成していても、上記で説明した、3年間保存を守っていない場合には、30万円以下の罰金に処すると規定されています。
ただし、この罰則は、実際には労働基準監督署からの是正勧告に従わないなど、悪質なケースでない限り、適用されることは少ないと言えます。
まとめ
法定三帳簿は、法律上の作成義務にかかわらず、従業員を適切に管理していくためには、実務的にも必要となる重要な帳簿です。
アルバイトやパートタイムなどの雇用形態にかかわらず、原則としてすべての従業員について作成、保存しておかなければなりませんので注意しましょう。