個人事業主から株式会社に法人成りの注意点
まずは個人事業主として仕事を始めて、実績を積んでから株式会社などの法人に事業の形態を変えることを「法人成り」といいます。
法人成りをする目的は様々ですが、法人になるためには登記などの手続きが必要で、自分で勝手に法人になったと名乗れるわけではありません。
また、法人成りすることによるメリットもありますが、人によってはデメリットの方が多いという場合もあります。
この記事では、法人成りすることのメリット・デメリットや、法人成りのタイミング、手続きや注意点についても解説します。
個人事業から株式会社にするメリット
個人事業から株式会社に変更するメリットには、主に以下のものがあります。
信用力アップ
個人事業に比べて、株式会社の方が一般的に社会的な信用度が高くなります。
個人事業の場合、どうしてもこじんまりとしたイメージがあり、その人に何かあったらすぐに事業がなくなってしまうのでは?と不安感を抱かれてしまいがちです。
そのため、新規で取引をするときや、金融機関から融資を受けるとき、補助金の申請をするときなどに不利になる場合があります。
株式会社になることで、事業に対する真剣さが伝わるなど社会的な信用が高まり、安心して取引してもらえる可能性がアップします。
節税効果
株式会社になることで、様々な節税対策が可能になります。
具体的には、主に以下のようなものがあります。
- 給与所得控除による節税
株式会社になると、社長の報酬は「給与」になり、「給与所得控除」を受けることができます。
個人事業の場合には、自分の収入は給与ではなく「事業所得」となり、給与所得よりも控除できるものが少なく、所得税が高くなってしまう可能性が高くなります。
- 配偶者控除・扶養控除による節税
株式会社になると、社長の給与に対し、「配偶者控除」を受けることができます。(ただし、所得金額1000万円以下の場合に限る)【https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm】
また、「扶養控除」を受けることもできます。(扶養控除については、社長の所得が1000万円以上でも可)【https://www.ht-tax.or.jp/topics/haigusha-kojo/】
それにより、所得から控除できる金額が増え、所得税を軽減することができます。 - 赤字の繰越期間の延長
株式会社になると、赤字の場合に赤字額を繰り越しできる期間が10年となり、個人事業の場合の3年よりも長くなります。
事業の引き継ぎができる
株式会社の場合、事業の引き継ぎをスムーズに行うことができます。
社長兼株主が事業を引き継ぐためには、後継者に株式を譲渡し、後継者を代表取締役に変更することで事業を引き継げます。
一方、個人事業主の場合には、そのような形で事業を引き継ぐことはできません。
個人事業から株式会社にするデメリット
会社設立費用がかかる
株式会社を設立するためには、定款認証、会社設立登記の手続きが必要です。
これらの手続きには20万円以上の費用がかかります。
社会保険の加入義務がある
株式会社は、たとえ社長一人だけの会社でも社会保険の加入義務があります。そのため、社会保険料がかかります。
法人住民税が発生する
株式会社は、法人住民税が発生します。たとえ赤字の場合でも、「均等割」という最低限の法人住民税(年7万円~)は必ず納めなければなりません。【https://the-owner.jp/archives/257】
法人成りのタイミング
いつ頃のタイミングで株式会社に法人成りするとよいのか、判断のポイントを解説します。
売り上げの状況
個人事業主は、累進課税制度により、所得が増えれば増えるほど所得税の税率が高くなります。
一方、株式会社の場合、所得800万円までは税率が一定で、それを超えると税率が少し上がるものの個人事業主ほどではありません。
そのため、株式会社にしたほうが節税できるケースがあります。
所得が約600万円以上からは法人成りを検討するのもおすすめです。
資金需要の状況
事業の規模が大きくなってくると、資金を調達する必要性が出てきます。
そして、資金を調達するためには個人事業主よりも株式会社の方が有利となる場合が多いです。
たとえば、金融機関から融資を受ける場合も、株式会社の方が審査は通りやすいと言われています。
また、株式会社の場合には、株式を発行することで株主を募り、第三者から出資してもらうこともできます。
各種の補助金、助成金の申請をする場合も、個人事業主よりも株式会社の方が通りやすいことがあります。
資金調達の必要性が出てきた場合には、法人成りを検討してもよいでしょう。
消費税対策
消費税は、基本的に2年前の売り上げが1000万円を超えると納税の義務が生じます。
ただし、個人事業主と法人成りした株式会社では、別の事業者という扱いになります。
そのため、個人事業主で売り上げが1000万円を超えたとしても、その後株式会社に法人成りした場合には、株式会社としては2年前の売り上げはゼロということになります。
そのため、株式会社になってから2年間は消費税が免除され、その間の消費税の節税というメリットがあります。
以上から、消費税発生のタイミングに合わせて法人成りをするケースも多く見られます。
申請手続き ・注意点 資産引継ぎの税務について
株式会社に法人成りする場合の登記申請手続き、注意点、資産引き継ぎの税務の概要を解説します。
法人成りするための登記申請手続きを紹介します。
①定款の作成
株式会社には、会社の基本的なルールを定めた「定款」を作成する必要があります。
定款には記載が必須の事項(商号、会社の事業目的、資本金など)があり、それに従って作成します。
②定款の認証
作成した定款は、公証役場で認証を受ける必要があります。
認証を受ける前に、あらかじめ定款の案を公証役場にFAXするなどして訂正の必要がないかの確認をします。
③資本金の払い込み
会社の資本金を発起人の口座に払い込みます。【https://gmo-aozora.com/startupuseful/case23/#:~:text=%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%80%81%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AE,%E6%8C%AF%E8%BE%BC%E3%82%80%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82】
払い込んだ通帳のコピー(通帳がない口座の場合、ネットバンキングの取引明細画面のコピー)は登記申請のときに必要です。
④書類の作成
登記申請に必要となる書類を作成、記載します。
通常必要となる書類は、以下のものです。
- 認証済みの定款
- 取締役の印鑑証明書
- 発起人の決定書
- 代表取締役・取締役などの就任承諾書【https://www.yayoi-kk.co.jp/kigyo/hojintoki.html#:~:text=%E6%B3%95%E4%BA%BA%E7%99%BB%E8%A8%98%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E4%BC%9A%E7%A4%BE,%E6%9B%B8%E3%81%8C%E7%99%BA%E8%A1%8C%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99】
- 資本金の払い込み証明書
- 印鑑届書【https://www.moj.go.jp/content/001364076.pdf】
⑤登記申請
管轄となる法務局に登記を申請します。
登記を申請した日が、会社の設立日となります。
会社の設立日は登記事項証明書(登記簿)に載るため、こだわりの日がある場合には、その日に申請できるように前もって準備しましょう。
注意点
法人成りする場合の注意点を紹介します。
①個人事業税の取り扱い
法人成りすると個人事業は廃業することになります。
そして、廃業した年についての確定申告をする際は、事業税の見込み金額をあらかじめ経費として計上します。
翌年は個人事業主として確定申告をすることがないため、廃業した年の確定申告で経費にしないと、その後に経費で処理することができなくなってしまうので注意が必要です。
②株式会社になると定期的に登記が必要
個人事業の場合と異なり、株式会社の場合には定期的に登記をする必要があります。
役員の任期が最長で10年なので、10年に一度は必ず登記が必要になり登録免許税がかかります。
それ以外にも、たとえば本店の場所が変わったり、事業目的が変わったりするとその度に登記が必要です。
株式会社の場合、個人事業とは異なり会社の一定の情報を登記することでオープンにしなければならないため注意が必要です。
資産引き継ぎの税務
個人事業主から株式会社に法人成りする際、個人事業主として使っていた設備や在庫といった資産をどうやって株式会社に引き継がせるかについて、簡単に解説します。
個人事業主の時に使っていた設備などを法人成りした株式会社で引き続き使う場合には、個人から株式会社に対して「売却」したものとして税務処理をします。
その際、売却価格が簿価よりも高い場合、売主である個人に売却益があったことになり、税金(譲渡所得税)が発生してしまいます。
そのため、実務においては、法人成りの場合は時価ではなく簿価で売却したことにするなどして対応します。
そうすると売却益はないため、譲渡所得税はかかりません。
(個人事業主が消費税の課税事業者の場合には、資産の譲渡について消費税はかかります)
ただし、売却価格をどの程度の金額にするのかは資産の内容などによって異なるため、自分で判断することが難しく、税理士に相談することをおすすめします。
また、売却以外の資産の引き継ぎ方法としては賃貸もあります。この場合も、賃貸料をいくらにするかなどは税理士へ相談した方が安心です。【https://office-wing.net/assuming-assets-and-liabilities/#:~:text=%E6%B3%95%E4%BA%BA%E6%88%90%E3%82%8A%E3%81%AE%E8%B3%87%E7%94%A3%E3%81%AE,%E8%B3%83%E8%B2%B8%E3%81%AE2%E3%81%A4%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82】