取締役の欠格事由とは? 発生したら登記は必要?
取締役になることができない条件は、会社法に定められています。その条件を取締役の欠格事由といいます。
取締役に欠格事由が生じた場合は、その日をもって資格を失います。そのため、取締役を退任しなければなりませんし、それに伴う役員変更登記(退任登記)も申請しなければなりません。
ところが、取締役の欠格事由は会社法の条文を一読しただけでは分かりにくいところもあります。欠格事由が発生した場合にどのような対応をすればいいのかわからない方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、取締役の欠格事由について詳しく解説し、欠格事由が発生した場合の対応や登記に必要な書類についても紹介します。
取締役の欠格事由
取締役の欠格事由は、会社法第331条1項で次のように定められています。
(取締役の資格等)
第331条 次に掲げる者は、取締役となることができない。
- 法人
- 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱われている者
- この法律若しくは(中略)の規定に違反し、又は(中略)の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
- 前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
以上の欠格事由について、それぞれ説明します。
法人
取締役になることができるのは、個人(自然人)のみです。法人は他の会社の株主になることはできますが、取締役になることはできません。
成年被後見人・被保佐人
成年被後見人とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって物事の判断能力を欠く常況にある者として、家庭裁判所で後見開始の審判を受けて成年後見人が付された人のことをいいます。
被保佐人とは、成年被後見人のように判断能力を欠く常況にあるわけではないものの、著しく不十分であるとして家庭裁判所で保佐開始の審判を受けて保佐人が付された人のことです。
判断能力が不十分になると取締役としての職務を適切に行い得ないと考えられるため、成年被後見人や被保佐人は欠格事由とされています。
ただ、認知症を発症するなどして判断能力が低下しても、家庭裁判所で後見開始の審判や保佐人開始の審判がなされるまでは欠格事由に該当しません。
会社法違反など会社経営に関する罪を犯した人
罪を犯した人の全てが取締役になれないわけではありません。しかし、会社法や金融商品取引法など会社経営に関する罪を犯した人は取締役としての職務を行う適格を書くと考えられるため、一定の範囲で欠格事由とされています。
「刑に処せられ」た人が対象なので、罰金刑を受けた人や執行猶予が付いた人も含まれます。
「その執行を終わ」れば欠格事由ではなくなるので、罰金刑を納付済みの人や執行猶予期間を満了した人、満期出所した人などは取締役になることができます。
「その執行を受けることがなくなった」とは、執行猶予の言渡しを取り消されることなく執行猶予期間を経過したり、刑の時効を迎えるとか、恩赦によって刑の執行の免除を受けたりした場合です。そのときから2年を経過するまでは取締役になることはできません。
その他の罪を犯した人
会社経営に関する罪以外の罪を犯した場合は、禁錮以上の刑に処せられると欠格事由に該当します。
罰金刑を受けた人や、懲役刑や禁錮刑の言渡しを受けても執行猶予が付いた人は欠格事由に該当しません。
禁錮以上の刑を受けた人でも、刑期を満了したり、刑の時効が完成したり恩赦を受けて刑の執行の免除を受けたりした場合は取締役になることができます。
取締役が未成年者の場合
未成年者であることは取締役の欠格事由ではないので、未成年者でも取締役になることはできます。
ただし、未成年者は単独で法律行為をすることができないため、取締役に就任するためには親権者の同意を得ることが必要です。
また、欠格事由には該当しなくても、未成年者が取締役になることができない事実上の問題が2つあります。
年少者のケース
判断能力が低下した成年被後見人や被保佐人が取締役の欠格事由とされているように、十分な判断能力を有することは取締役になるための重要な要件です。
一般的に、年少であるために判断能力が不十分な人は、欠格事由に該当しなくても、意思能力を有しない者として取締役にはなれないとされています。
判断能力の成熟には個人差があるため、何歳以下は取締役になれないと一概に言うことはできませんが、10歳未満だと難しいでしょう。
印鑑が登録できないケース
取締役に就任する際には、印鑑登録証明書が必要になります。しかし、役所への印鑑登録は15歳以上の人でなければすることはできません。
15歳未満の人は印鑑登録ができず、そのため印鑑登録証明書を取得できないため、事実上取締役になることができません。
取締役が破産した場合
会社法が施行される前に適用されていた旧商法では、破産して復権するまでの人も取締役の欠格事由とされていました。
しかし、平成18年5月に施行された現在の会社法では、破産したことは欠格事由とはされていません。したがって、破産した人でも取締役になることはできます。
ただし、民法の規定に注意が必要です。
いったん退任しなければならない
会社と取締役とは、民法上の委任関係にあります。そして、受任者が破産すると委任関係は終了します(民法第653条2号)。そのため、取締役が破産した場合は、委任関係が終了するため、その時点でいったん退任しなければなりません。
ただし、破産したことは欠格事由に該当しないので、すぐに株主総会で再選任されれば改めて取締役に就任することができます。
取締役に欠格事由が生じたときの対応
それでは、実際に取締役に欠格事由が生じたときにどのように対応すればいいのかをご説明します。
退任手続きは不要
就任中の取締役に欠格事由が発生すると、当然に取締役ではなくなるので、退任手続きは不要です。
株主総会で決議する必要もありませんし、辞任届を出してもらう必要もありません。
ただし、取締役であった人が取締役でなくなるため、役員変更の登記をすることが必要です。
登記の方法
取締役に欠格事由が生じたときは、取締役の資格喪失を原因とする退任登記をする必要があります。
登記をする方法は、原因が発生した日から2週間以内に、会社の本店所在地にある法務局に変更登記申請書と必要書類を提出することです。
期限を過ぎてしまうと過料の制裁の対象となるので、早めに登記手続きを行いましょう。
登記の費用
登記手続きには、1件につき1万円(資本金1億円を超える会社については3万円)の登録免許税がかかります。
新たな取締役を選任する場合も1通の登記申請書で登記できるので、できる限りまとめて申請することで費用を抑えることができます。
登記の必要書類
資格喪失を原因とする取締役の退任登記を申請する際には、以下の書類が必要になります。
- 変更登記申請書
- 欠格事由に該当することを証明する書類
- 委任状(代理人に登記申請を委任する場合)
「欠格事由に該当したことを証明する書類」としては、成年被後見人や被保佐人の場合は家庭裁判所の審判書謄本や登記事項証明書、罪を犯した人の場合は判決書謄本などです。
欠格事由が生じた取締役が代表取締役であった場合は、代表取締役の退任登記も必要です。
ただし、取締役としての資格を失うと自動的に代表取締役としての地位も失うので、追加書類は特にありません。
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