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株券発行会社とは(変遷、会社法上の経過措置、不発行会社の周辺)

株券は「株主の地位である株式を表章する有価証券である」と定義されています。

一般的なイメージでは、「株券イコール株式」という感覚が強いですが、現在では、上場企業の株式はすべてコンピューター・データで構成される振替株式となっておりますし、普通の株式会社でも、定款に株式を発行する定めを設けない限り、株券を発行できません。会社法では、株式には株券が発行されないのが原則となっています。

本記事では、この株券を発行する株券発行会社について、その変遷や会社法上の経過措置、株券不発行会社の周辺などについて書いていきます。

株券発行会社の変遷

2004年の商法改正前は、すべての株式会社に株券発行が義務付けられていました。

しかし、非公開会社の場合、株式の譲渡が頻繁にあるわけではないので、株券を発行するメリットはあまりありません。さらに、上場企業のような株式の取引が頻繁に実施される会社の場合、株券発行費用の負担が大きいことと、大量取引の際に大量の株券を移動させる場合に危険を伴うということで、すべての会社で株券を発行しなければならないとする規定に対して不満の声が上がっていました。

そこで、2004年の商法改正で、株券は発行しないことが原則となり、定款に株券を発行する旨を定めた場合にのみ、株券が発行できると改められました。同時に、非公開会社の場合は、定款に株券を発行する旨を定めた場合であっても、株主からの請求があるまでは、株券を発行しないことができることも規定されました。

2009年1月には「社債株式等の振替に関する法律」が施行され、上場会社においては、株式の譲渡はすべて同法に定める振替制度によって行われるとことになりました。これにより、上場会社において、株券が発行されることはなくなりました。

株券発行会社に係る会社法上の経過措置

2006年の会社法施行時にも株券発行に係る2004年商法改正の内容はそのまま引き継がれました。ただし、会社法では、会社法施行時に存在する株式会社において、株券を発行しない旨の定款の定めがない場合には、その会社には株券を発行する旨の定款の定めがあるとみなされるという経過措置が設けられました。

この経過措置が設けられた理由としては、2004年の商法改正までは、株券を発行することが原則であったのが、2004年の改正で180度転換し、株券を発行しないことが原則と変わりました。会社法が施行されたのはそれから約2年後と日が浅く、その時点で既存の会社については、株券は発行するのが当たり前という意識が残っているところが多いため、一定期間は、新たに株券を発行しない旨の定款の定めを設けない限り、2004年の改正前と同じように、株券を発行する会社とみなすとされたことがあげられます。

株券不発行会社の周辺

2006年5月の会社法施行以後に設立された会社は、株券を発行する旨の定款を定めない限り、株券を発行できません。定款に株券に関する定めが設けられていない場合には、自動的に、株券不発行会社となります。株券を発行するためには、株主総会の特別決議(株主総会で議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行う決議)をもって、株券を発行する旨の定款の定めを設けることが必要です。

株券を発行する意義は、株式が譲渡された場合に、誰が株主であるかを分かりやすくし、株式の譲渡を容易にすることです。株券発行会社においては、株券を占有する者は、適法な所持人であると推定されます(会社法131条1項)。また、株式の譲渡は、株券を交付するだけで成立します(会社法128条1項)。さらに、株券を所持している場合、その者は単独で、株式会社に対して株主名簿の名義書き換えを請求できるとされます(会社法施行規則22条2項1号)。

株券を発行するメリットは主に株式の譲渡に関するものなので、株式の譲渡が少ない会社、例えば、個人事業から法人成りした直後で、創業者一族が株式の大部分を保有しているような小規模な非公開会社の場合は、株式の譲渡がほとんど行われないので、株券を発行するメリットはほとんどないと言えます。

反対に、上場会社の場合、株式の譲渡が頻繁に行われるので、株券発行のメリットが多いようにも思われますが、取引が頻繁過ぎて株券の管理が難しくなったり、大量の株券を移動させる物理的な困難や、盗難や紛失のリスクが高まり、こちらも株券の発行が適切とは言えません。なお、現在では、上場企業の株式はすべてペーパーレスの振替株式で構成されることが法律で定められていますので、上場株式は株券を発行できません。

結局、株券を発行するメリットがあるのは、上場企業ほどではないが、株式の譲渡がある程度の頻度で行われる、中規模の公開会社ということになります。

株券と株主名簿の書き換え

株主名簿とは、株主の氏名又は名称・住所・持ち株数など株主の所属性を明らかにする帳簿です。会社法121条において、株式会社の株主名簿の作成義務が定められています。株主名簿に氏名等が記載された者は、株主の権利を行使するときに、自らが株主であることを会社に対して証明する必要はありません。また、株主の会社に対する権利行使は、株主名簿の記載・記録に基づいて行う必要があります。簡単に言えば、株主名簿に記載されていないと、株主は会社に対して株主としての権利を行使することはできません。

ところで、株券発行会社においては、既存の株主から株券の譲渡を受けた者は、譲渡の際に交付を受けた株券を会社に提示すれば、譲渡人から譲受人への株主名簿の名義の書き換えを請求することができます。

一方、株券不発行会社の場合、原則として、株式を譲渡により取得したものが譲渡人から譲受人に株主名簿の書き換えを請求する場合は、譲渡人と譲受人が共同して行う必要があります。この点では、株券発行会社の方が、株主名簿の書き換えが容易です。

株券を発行をする旨の定款の定めを設けた場合の変更登記

2006年5月の会社法施行以降に設立された株式会社の場合、定款に株券を発行する旨の定めがない場合には、株券不発行会社となります。そこで、会社の設立時には、その定款の定めを設けずに株券不発行会社であった会社が、新たに株券を発行するには、新たに、この旨の定款の定めを設ける必要があります。株券を発行する旨の定款の定めは登記事項となっていますので、この定めを設けた場合には、変更登記が必要になります。

株式会社が新たに株券を発行する定款の定めを設けた場合の変更登記の一例を上げると、次のようになります。