会社の事業年度を決める際の注意点とは?
会社を設立すると、事業年度を決めなくてはなりません。事業年度については、事業期間を12か月(1年)以内にしなければならないという制限は設けられていますが、それを満たす限り、何月から何月までというその時期については、会社の経営者が自由に定めることができます。大企業や官公庁に合わせて、4月から翌3月でもいいですし、1月から12月まででも構いません。6月から翌5月でもよいし、2月から翌年1月でも大丈夫です。
事業期間についても、12カ月より短い分については全く問題はありませんので6カ月間でも4カ月間でも問題ありません。ただし、あまり期間が短いと、決算業務が大変になるので、中小企業の場合はほとんど12か月で設定されています。
個人所得税の課税期間が1月~12月までの1年間になっているので、個人事業の場合は、それにあわせて1月~12月までを事業年度とするケースがほとんどです。しかし、法人の事業年度は、個人所得税の課税期間は関係がありせんので、会社によって様々な時期に設定されています。
会社の事業年度の決め方によって、支払うべき消費税や法人税の金額が変わってきたり、資金繰りが簡単となったり難しくなったり、決算期の業務が容易になったり難しくなったりします。大企業や官公庁に合わせて3月を決算期とする1年間ではなく、自分の会社にとって最もメリットの高い事業年度を選ぶといいでしょう。
事業年度の決めるときの注意点
消費税の免税期間
会社設立時の事業年度の決め方で注意すべき点は、消費税に関するものです。消費税は、前々事業年度の消費税課税売上高が1,000万円を超えた場合には、課税事業者となって納税義務が発生します。従って、開業当初の2事業年度目までは、消費税の課税事業者となることは基本的にありません(免税期間)。
ただし、事業年度期首から半年間(特定期間)の課税売上等が1,000万円を超える場合に、2年目から消費税が課税されることになるなど例外もあるので気を付けましょう。
資金繰り
たいていの会社では、6月と12月が賞与の支払時期となります。この時期に税金の納税時期が重なると多額の現金が必要になり、経営者が資金繰りに奔走になくてはならないということになります。
法人住民税や法人所得税などの法人税、消費税の納税期限は、事業年度終了から2か月以内です。例えば、6月賞与支払いの会社が、決算月を4月とすれば法人税・消費税の納税期限がその2か月後の6月末となり、6月に賞与支払い月と税金支払い月が重なります。このケースでは、6月に資金繰りが大変となることが予想されます。6月と12月が賞与の支払月の会社が、その間の9月末日が納税月となるように、7月決算(事業年度は8月から翌7月末)とすれば、大量の現金が必要になる月が分散されることによって、資金繰りが楽になります。
繁忙期を外す
ほとんどの事業では、1年のうちに繁忙期と閑散期があります。決算月を繁忙期に合わせた場合、繁忙期と決算月が重なって、その月が非常に忙しくなり、業務に支障が出てくることがあります。決算月と繁忙期が重なることを避け、決算月が閑散期に来るように事業年度を設定すれば、業務が各期間に効率的に割り振られ、経営効率が上がります。残業代なども減らすことができます。
繁忙期には売上げが伸びて利益が上がるのが普通ですが、閑散期に決算月が来るようにした場合、繁忙期と決算期の間には時間があります。時間をかけて経費を計上し、繁忙期に上がった利益を減らして税金を節税するといったことも可能になります。繁忙期と決算月が同時に来ると、繁忙期に上がって利益を調整することなく税金が計算されますので、節税対策を打つことができません。この観点からも、繁忙期と決算月はずらした方が良いと言えます。
なお、不動産業界などでは、例外的に、わざと繁忙期と決算期を合わせるケースがあります。それは、繁忙期に決算売り尽くし特別セールなどを行えるようにして、繁忙期に売り上げを一気に上げるという経営戦略に基づいています。こういった戦略がある場合は別ですが、普通は、繁忙期と決算月が重なることはあまり合理的とは言えません。
在庫高
営業する事業にもよりますが、在庫量の多い事業だと、決算月の在庫の棚卸作業が大変です。在庫量の少なくなる時期に決算期が来るように事業年度を設定することで、在庫の棚卸にかける時間と労力を削減し、業務の効率化を実現できます。
小売業やアパレル業界では、2月や8月に決算月が来るように事業年度を設定している会社が多くなります。こういったところでは、サラリーマンの賞与支払月である6月・12月の翌月である7月・1月にバーゲンセールを実施するので、その翌月である2月・8月は在庫量が少なく傾向があります。この時期に決算月を置けば、在庫棚卸に係る労力を減らして決算作業をスムーズに行うことができます。
事業年度は後から変更できる
事業年度は、事業期間を12カ月以内とするという決まりを守りさえすれば、経営者が自由に決めることができますし、一度決まった決算月を変更することもできます。例えば、消費税の免税期間を最も長くする事業年度を設定した場合に、設立から3事業年度目に入って消費税課税事業者になれば、当初設定した事業年度は役割を終えその意味を失ってしまいます。その場合に、その事業年度を、より会社経営から見て効率的な期間に変更することができます。
それ以外にも、最初に決めた事業年度が、実際に運営してみるといろいろと問題が起こる場合には、それを変更するということも自由にできます。株式会社においては、事業年度は定款の任意的記載事項となっていますので、事業年度を定款で定めた場合には、それを変更するためには定款の変更が必要なので、株主総会の特別決議(議決権を持つ株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成)が要ります。定款で事業年度を定めていない場合には、その変更は、通常の業務執行として、取締役設置会社においては取締役会の決議、取締役を設置していない会社にあっては取締役の過半数以上の承認があれば可能です。