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労務の手続き⑫~時間外・休日労働をさせる時~

たいていの会社では、繁忙期になると、時間外・休日労働を命じるケースがあります。そのため、時間外労働や休日労働のない会社は、非常に珍しいと思います。

そのような状況を見越して、会社を設立した時や、従業員を初めて採用した時、または、就業規則の作成義務が生じたときに、時間外労働や休日労働を命じることができるような体制を作っておく必要があります。

今回は、従業員に時間外・休日労働を命じる際の、労務の手続きについて説明していきます。

法定労働時間とは

法定労働時間とは、労働基準法で定められている労働時間の上限時間です。その上限時間は、一部の例外を除いて、1日8時間、1週間で40時間です。

会社が、この法定労働時間を超えて従業員を働かせることは、基本的には違法行為となります。会社は、本来であれば、法定労働時間の範囲内で、従業員を働かせなくてはなりません。

しかし、法定労働時間のとおりの労働では、業務がうまく回らないケースは数多くあります。例えば、小売店で、閉店間際に大勢のお客さんが来店しても、従業員のほとんどがその対応すると法定労働時間をオーバーしてしまうので、買い物はお断りします、と言えば、その会社の経営はたちまち傾いてしまうでしょう。

そのような状況を防ぐために、一定の手続きを経れば、法定労働時間を超えた労働(時間外・休日労働)を命じても、法律違反にならないことになっています。

時間外・休日労働をさせる手続き

法定労働時間を超えた労働(時間外・休日労働、残業など様々な言い方があります)を適法化するには、まず、労働者の過半数を代表する者などと「36(サブロク)協定」を締結し、書面を管轄の労働基準監督署に提出します。

次に、就業規則等に、時間外・休日労働を命じることができる旨の条項を設けます。

最後に、時間外・休日労働をさせた場合に支払う割増賃金の計算方法を定めます。

これらの手続きが済んだ後であれば、従業員に時間外・休日労働をさせることができます。

36(サブロク)協定とは

36協定は、正式名称を「時間外・休日労働に関する協定」と言います。36協定と呼ばれるのは、労働基準法36条がこの協定の根拠条文となっているので、略称の方が正式名称よりよく知られています。

36協定とは、使用者と労働者の代表者が、使用者が法定労働時間を超えた労働を命じ、労働者がその命令に従って法定労働時間を超えて労働をすることに同意する協定のことです。

この協定は口頭ではなく、文書により行う必要があります。事業場で時間外・休日労働を命じる場合には、必ずこの協定書を作成する必要があります。

ここでいう労働者の代表者とは、事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には、労働組合の過半数を代表する者が該当します。

36協定を締結した場合には、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定の届出書の様式は、厚生労働省や各都道府県労働局のホームページからダウンロードすることができます。記載例を参考にしながら、自分の事業所に適したものにカスタマイズすることで、協定届を作成することができます。

労働基準監督署に提出する36協定に関する届出書には、36協定の協定書を添えるのが原則ですが、労働者の代表者等の記名押印がある場合には、協定書の添付を省略でき、届出書のみ提出すればよい取扱いになっています。

就業規則の改正手続き

36協定を締結し、36協定に関する届出書を労働基準監督署に提出しただけでは、使用者が労働者に対して時間外・休日労働を命じる権利は発生しません。この権利を発生させるためには、就業規則に、使用者が時間外・休日労働を命じる権利を発生させる条項を加える必要があります。

例えば、「会社は、必要がある時は、従業員に時間外・休日労働を命じることができる。労働者は、正当な理由がある場合を除いて、これを拒否することができない」などという条項を加えます。

多くのケースでは、就業規則を作成した時点で、使用者が時間外・休日労働を命じることができる旨の条項を入れておきますが、最初に作成した時点で、上記の条項が入っていない場合には、就業規則を変更して、上記の条項を加える必要があります。

就業規則を変更した場合には、変更届と変更後の就業規則を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

その際に、事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者の就業規則の変更に関する意見書をつける必要があります。

なお、就業規則の作成義務のない小規模な会社の場合には、この手続きは不要です。

割増賃金の計算方法を定める

時間外・休日労働を命じた場合には、労働者に対して、時間外割増賃金や休日労働割増賃金を支払う必要があります。割増賃金の割増率については、仮に就業規則または就業規則の賃金に関する部分を独立させた賃金規定に定めなくても、時間外・休日労働をさせた場合には、自動的に労働基準法で定める割増率の割増賃金を支払う義務が発生します。

従って、あえて就業規則等で割増賃金に関する規定を設ける必要はありませんが、ほとんどの会社では、就業規則又は就業規則の賃金に関する部分を独立させた賃金規定で定めています。

就業規則等で定める基準は、労働基準法が定める基準よりも労働者に不利であってはならないことと、労働基準法で定める基準よりも労働者側に有利な基準を設けることができるほど余裕のある企業が少ないことから、ほとんどの場合、会社で定める時間外・休日労働の割増賃金の割増率は、労働基準法で定める割増率と同じになっています。労働基準法で定める割増率以上の割増率を規定している会社は非常に稀です。

その結果、就業規則等でそれを定めた場合であっても、労働基準法の割増賃金率を労働者に周知する意味を持つにとどまるのが実情です。

労働基準法で定める割増賃金の割増率は、以下のとおりとなっています。

1日8時間・1週間40時間の法定労働時間を超えた場合(時間外労働)割増率25%
時間外労働が1月60時間を超えた場合割増率50%
休日労働(週1日の法定休日に労働させたとき)割増率35%

2019年4月の労働基準法改正で、特別の理由がない場合、時間外労働は1か月45時間、1年間で360時間を超えることができなくなりました(中小企業は2020年4月から適用)。また、時間外労働時間が1か月60時間を超えた場合の50%の割増率は、中小企業には当分の間、適用が猶予されています。

就業規則変更届等の提出

就業規則や賃金規定で新たに時間外・休日労働の割増賃金に関する規定を設けた場合には、就業規則変更届と、労働者代表者の意見書、変更後の就業規則又は賃金規定を管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。

最初から就業規則等に時間外・休日労働の割増率に関する規定がある場合には、これらの変更手続きは不要です。

なお、いずれの場合でも、労働者に時間外・休日労働をさせた場合には、労働基準法で定める割増率以上の割増賃金を支払う必要があります。

就業規則の作成義務のない小規模な会社の場合には、就業規則に関する手続きは不要ですが、時間外・休日労働をさせた場合には、労働基準法で定める割増賃金を支給する必要があります。