労務の手続き⑱~70歳以上の人を雇う時~
少子高齢化の進展で、70歳以上の高齢者の方であっても、厚生年金被保険者として就労を続けるケースが増えてきました。
健康保険の被保険者の年齢上限は75歳まで、厚生年金の被保険者の年齢上限は70歳までですが、一部の例外があります。
労災保険・雇用保険には、年齢制限がありません。したがって、70歳以上の従業員を雇用した場合、多少の省略はありますが、基本的には、70歳未満の雇用とほぼ同様の手続きが必要になります。
以下にて、詳しく説明していきます。
70歳以上の方を雇用した場合の社会保険の手続き
厚生年金・被保険者資格喪失届70歳以上被用者該当届の提出
70歳になると厚生年金の被保険者資格を喪失するため、給料から厚生年金保険料を天引きされることはなくなります。しかし、70歳以上の厚生年金の加入基準を満たして働く場合で、老齢厚生年金を受けている場合には、70歳以上被用者として、在職老齢年金の制度が適用されます。
そのため、一定の場合に、「厚生年金・被保険者資格喪失届70歳以上被用者該当届」の手続きが必要になります。
提出先、提出期限、提出方法
本届出書の提出先は、管轄の年金事務所です。
提出期限は、退職者が70歳に到達した日(70歳の誕生日の前日)から5日以内です。
提出方法は、以下のいずれかによります。
- 管轄の年金事務所の窓口に出向いて担当者に手渡しする方法
- 管轄の年金事務所又は事務センターに郵送する方法
- 電子申請
様式の取得方法
本届出書の様式は、日本年金機構のホームページからダウンロードによって取り寄せることができます。記載例の閲覧もできますので、参照しながら作成しましょう。
届出が不要なケース
2019年4月からこの届出書が簡略化され、70歳前後で標準報酬(より正確には、70歳以上は、標準報酬とは言わずに標準報酬相当額といいます)が変わらない場合には、この届出は不要となりました。
健康保険・厚生年金・被保険者資格取得届・厚生年金70歳被用者該当届の提出
70歳以上の労働者を雇用する場合は、70歳になる以前から継続して雇用していた方を、70歳以降も雇用するケースが多いですが、70歳以上の方を新規雇用するというケースもあります。
新規雇用する70歳以上の方が、健康保険・厚生年金の加入要件を満たす場合には、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届・厚生年金70歳以上被用者該当届」を提出する必要があります。
健康保険の加入上限は75歳となっています。一方、厚生年金の加入上限は70歳までとなっていますが、70歳以上の方も、厚生年金の加入要件を満たして勤務し、かつ、老齢厚生年金を受給される場合は、保険料は徴収されませんが、在職老齢年金制度が適用されるため、この手続きが必要になります。
提出先、提出期限、提出方法
本届出書の提出先は管轄の年金事務所です。
提出期限は、70歳以上の方を新規に雇用した日から5日以内です。
提出方法は、以下のいずれかによります。
- 管轄年金事務所への持参
- 郵送(郵送の場合の送付先は、管轄年金事務所又は管轄事務センター)
- 電子申請
様式の取得方法
本届出書の様式は、日本年金機構のホームページからダウンロードによって取り寄せることができます。記載例の閲覧できますので、会社の事務担当者の方が作成することも十分可能です。添付書類も必要ありません。
作成上の注意点
この届出書の様式は、70歳未満の方の健康保険・厚生年金被保険者資格取得届と共通になっていて、70歳以上の方の手続きの場合は、この書面の一部に、70歳以上の被用者であることを記載する点と、標準報酬ではなく標準報酬相当額を記入するという点が異なります。
70歳以上の方を雇用した場合の雇用保険の手続き
平成29年1月1日より、65歳以上の方も、雇用保険の対象となりました。雇用保険の加入要件を満たす70歳以上の方を新規に雇用した場合には、雇用保険の加入手続きが必要になります。
70歳の従業員を新規に雇う場合でなくても、雇用保険被保険者でない65歳以上の者を雇用していた場合で、平成29年1月1日以降も継続してその者を雇用し、かつ、その者が雇用保険の加入要件を満たす場合にも、雇用保険の加入手続きが必要になります。
つまり、平成29年1月1日時点で、雇用保険の加入要件を満たす70歳以上の者がいれば、雇用保険の加入手続きが必要になります。
雇用保険・被保険者資格取得届の提出
従業員の雇用保険の加入手続きは、雇用保険・被保険者資格取得届を提出することによって行います。なお、届出書を提出する際には、労働者名簿、出勤簿、賃金台帳(一定の場合には雇用契約書も必要)を持参し、ハローワークの職員の確認を受ける必要があります。
提出先、提出期限、提出方法
雇用保険被保険者資格取得届の提出先は管轄のハローワークです。
提出期限は、70歳以上の従業員を新規に雇った日の属する月の翌月10日までです。
提出方法は、管轄のハローワークの窓口へ持参となります。
様式の取得方法
様式は管轄のハローワークの窓口で入手することができますが、ハローワークのホームページからもダウンロードによって取得できます。
ハローワークのホームページでは、必要事項をPC上で入力することによって、そのまま提出できる状態でプリントアウトできるサービスがあります。これを利用すると、書類作成が非常に簡単です。
70歳以上の方を雇用した場合の労災保険の手続き
70歳以上の方も労災保険の対象となります。ただし、事業場がすでに労災保険の加入手続きをしている場合には、労災保険の場合、個人の加入手続きはありませんので、特に手続きは不要です。
雇用者数が増えると、年度更新の時の確定申告保険料が、概算保険料より高くなり、その分、より多くの保険料を支払う必要がありますが、一部の例外を除き、それ以上の影響はありません。
それまで従業員を雇ったことがなかった事業主が、初めて従業員を雇い、その従業員が70歳以上だった場合には、事業場全体の労災加入手続きが必要になります。
まとめ
最近では、高齢者雇用に関する法的な整備が進んで、70歳以上の高齢者で働く方に対しても、さまざまな社会保険・労働保険に関する制度が適用されます。
70歳以上の方を新規に雇用する場合には、70歳未満の現役世代の方を雇用する場合とほぼ同様の労務に関する手続きが必要になります。今回の説明をご参考いただき、手続きを進めていきましょう。