労務の手続き⑲~高度プロフェッショナル制と導入方法について~
高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識を有し、職務範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象に、一定の手続きを踏んだ場合、労働基準法で定められた労働時間、休憩休日、深夜の割増賃金などに関する規定を適用しない制度です。
今回は、この高度プロフェッショナル制度の概要とその導入方法について解説します。
高度プロフェッショナル制度とはどんなものか
高度プロフェッショナル制度とは、一定の要件を満たした場合に、労働基準法に定められた労働時間、休憩休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。
一定の要件とは、以下のようなものです。
- 高度の専門知識を有する労働者を対象とすること
- 対象労働者の範囲を明確にすること
- 年収が1075万円の一定の業種であること
- 労使委員会が設置された事業所であること
- 年間104日以上の休日が確保されること
- 健康管理時間の状況に応じた健康福祉確保措置を講ずること
高度プロフェッショナル事業の対象業務について
高度プロフェッショナル事業の対象となる業務は以下のとおりです。
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務
- 資産運用の業務又は有価証券取引業務(ディーラー)の一部
- 有価証券市場におけるアナリスト業務
- コンサルタント業務
- 新たな技術、商品、役務の研究開発の業務
高度プロフェッショナル事業の対象業務は、金融市場や有価証券市場のアナリストや金融工学の研究者、コンサルタントなど、特殊なものに限定されていることがわかります。一般事務、製造業、営業などの普通のお仕事は、この制度の対象にはなりません。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者について
高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は、年収が1,075万円以上ある方です。1,075万円という金額は、1年間の基準年間平均給与額の3倍相当程度を上回る金額として厚生労働省令で定める金額ですから、平均的な労働者の年収の3倍程度の高収入を確保している人が、この制度の対象になります。
年収要件の他、その制度の対象となるものは、使用者と労働者との間の合意に基づき明確に定められている必要があります。この合意は、使用者が、対象労働者の業務の内容、責任の程度、職務において求められる成果等を記載した書面に、対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法によるとされています。
高度プロフェッショナル制度導入の流れ
高度プロフェッショナル制度を導入すると、労働基準法が定める労働時間や休憩休日、割増賃金に関する規定の適用除外となりますので、労働者の権利が大きく制限されます。
そのため、導入にあたっては、さまざまな手続きを踏む必要があります。
ステップ①:労使委員会を設置する
高度プロフェッショナル制度を事業場に導入するためには、まず、労使委員会を設置しなければなりません。労使委員会は、労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成されますが、労働者を代表する委員が全体の半数以上を占めている必要があります。
使用者を代表する委員は使用者が指名しますが、労働者を代表する委員は、事業場の過半数労働組合又は過半数労働組合がない事業場においては過半数代表者から、任期を定めて指名を受けなければなりません。労働組合がない事業場における過半数代表者は、投票や挙手の方法によって選出される必要があります。
ステップ②労使委員会で必要事項を決議する
労使委員会の設置が終わったら、次に、その労使委員会の委員の5分の4以上の多数により、以下の事項を決議する必要があります。
- 対象業務
- 対象労働者の範囲
- 対象労働者の健康管理時間を把握すること及びその把握方法
- 対象労働者に年104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること
- 対象労働者の選択的措置
- 対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
- 対象労働者の同意の撤回に関する措置
- 対象労働者の苦情処理措置を実施すること及びその具体的な内容
- 同意しなかった労働者に不利益な取り扱いをしてはならないこと
- その他厚生労働省令で定める事項(決議に有効期間等)
上記3.における「健康管理時間」とは、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外で仕事をしていたとみなされる時間の合計時間のことをいいます。この決議事項は、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
ステップ③:対象労働者の同意を書面で得る
使用者は、次の1.~3.の内容を明らかにした書面を作成した上で、対象労働者の署名を受けることによって、労働者の同意を得る必要があります。
- 同意した場合には労働基準法第4章(労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定)が適用されなくなること
- 同意の対象となる期間
- 同意の対象となる期間に支払われると見込まれる賃金の額
事業場が高度プロフェッショナル制度の採用を決めた場合であっても、個々の労働者においては、同意をしなければ、この制度の対象となることはありません。適用に対象労働者の同意が必要であることによって、この制度は強制的なものではなく、希望者のみに適用される選択的なものであることになります。
ステップ④:制度の運用を開始する
労働者の同意が取れて合意文書の作成が終了したら、後は、対象労働者を対象業務に就労させ、制度の運用を開始します。
制度の運用中は、以下の事項を実施する必要があります。
- 対象労働者の健康管理時間を把握すること
- 対象労働者に休日を与えること
- 対象労働者の選択的措置及び健康、福祉確保措置を実施すること
- 対象労働者の苦情処理措置を実施すること
- 同意をしなかった労働者に不利益な取り扱いをしないこと
労使委員会の決議の有効期間が満了すると、この制度の適用は終了します。
まとめ
高度プロフェッショナル制度が始まった直後の2019年5月に産経新聞が行った主要企業116社を対象としたアンケート調査によると、この制度の導入を予定している企業は全体の約1%程度となっています。
「長時間労働を助長する」や「サービス残業のリスクが高まる可能性がある」という意見が根強く、この制度が普及していくためには、そういった不安を適切に解消していく必要があります。