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労務の手続き

労務の手続き②〜労災保険・雇用保険の申告・納付について〜

労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称ですが、個人・法人に関わらず、事業に関して人を雇用する場合には、一部の例外を除いて、この労働保険に加入する必要があります。労働保険に加入した場合、当然、保険料の支払いが必要になるのですが、この保険料を支払う手続きは、労働保険(労災保険・雇用保険)の申告・納付です。

確定申告というと、所得税のことを思い浮かべる方が多いと思いますが、労働保険料の納付も、確定申告により行います。税金の確定申告は、1年間の収入を自発的に申告して、その申告に基づいて税額を自分で計算し、その結果算定された税額を支払うという形態です。

税務署は1人1人の年間収入を調査して、その把握した収入に基づき税額を計算し、納税通知書によって請求するという形はとりません。それと同様に、労働保険の場合も、1年間に支払った報酬総額と保険料の金額を事業主が自分で計算して労働基準監督署やハローワークに申告し、その申告した保険料金額を支払う形態をとっています。申告納税制度の労働保険版といったところです。

新規事業を始めた場合の労働保険料の申告納付手続き

労働保険の対象となる事業を開始した場合には、原則として、その開始から50日以内に、その年度の賃金総額見込額を用いて計算した労働保険料(概算保険料)を、概算保険料申告書(正式名称は「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」です)に添えて納付しなければなりません。

例えば、6月1日に労働保険の対象となる事業を開始した場合、6月から年度末(翌年3月)までの10カ月間に、労働保険に対象となる従業員の方に支払う賃金総額の見込み額に、保険料率(労災保険の場合は、事業の種類に応じて3/1,000~62/1,000、雇用保険の場合には事業の種類に応じて9/1,000~12/1,000)を乗じた金額を納付します。

税金とは異なり、支払った賃金総額が決まり保険料の金額が確定する前に、事業開始から50日以内という早い段階で、概算の金額で先に支払ってしまうのが労働保険の大きな特徴です。

申告書の提出先及び納付先は、最寄りの都道府県労働局、最寄りの労働基準監督署、日本銀行の本店、支店、その代理店又は歳入代理店である、全国の銀行、信用組合の本店・支店、郵便局となります。

なお、都道府県労働局や労働基準監督署に申告書を提出する及び保険料を納付する場合には、少し注意が必要です。黒色と赤色で印字してある申告書は、都道府県労働局や労働基準監督署のどちらに提出してもよいのですが、藤色と赤色で印字してある申告書は、都道府県労働局にしか提出できません。

一元適用事業と二元適用事業

一元適用事業とは、労災保険と雇用保険にかかる保険関係を1つの保険関係として取り扱かい、保険関係の適用及び保険料の徴収等の事務を一元的に処理する事業のことを言います。一方、二元適用事業は、本来1つの事業であるが、労災保険に係る保険関係と雇用保険に係る保険関係を別個に2つの事業とみなして、保険関係の適用及び保険料の徴収等の事務を当該2つの事業ごとに二元的に処理する事業を言います。

二元適用事業に該当するものは、次のとおりです。

  • 都道府県及び市町村の行う事業
  • 港湾労働法に規定する港湾運送の行為を行う事業
  • 農林、畜産、養蚕又は水産の事業
  • 建設の事業

二元適用事業に該当しない事業は、すべて一元適用事業です。

二元適用事業の場合、概算保険料申告書の作成及び納付は、労災保険分と雇用保険分と別々に行います。提出先は、所轄の都道府県労働局や所轄の労働基準監督署など同一で構いませんが、保険料の計算やその支払いは別々に行わなくてはなりません。

一元適用事業の場合には、概算保険料申告書は労災保険分と雇用保険分は一括して作成できますし、保険料も一括して納付することができます。事業を開始してから50日以内に行うこの手続き以外で、その後に行う保険料に関する手続きも、一元適用事業に属するものは労災保険分と雇用保険分を一括して行えますが、二元適用事業の場合には、それぞれ別個に行う必要があります。

ちなみに、一元適用事業と二元適用事業では、事業を開始した際に提出する保険関係成立届の提出先は異なりますが、申告書の提出先及び保険料の納付先は同一(最寄りの都道府県労働局など)です。

年度更新について

年度更新とは、毎年6月1日から7月10日までに実施する、労災保険・雇用保険の申告・納付に関する手続きで中心となるものです。

労災保険の保険期間は、毎年4月1日から翌年の3月31日までとなっていますが、毎年3月末で年度が終了するので、その保険期間に労働保険に被保険者に支払った賃金総額が確定します。そうすると、それに基いて計算される労働保険料の金額も確定します。

年度更新は、その確定した保険料を申告し、以前申告した前年度分の概算保険料との過不足があれば、不足分は追納し、払い過ぎの分があれば、還付を受けます。同時に、今年度分の保険料を概算で計算し、概算保険料として仮納付するという手続きです。

年度更新の時期に、前年度分の不足分の保険料の追納をしない、又は、今年度分の概算保険料を納付しない場合には、納付すべき保険料額に10%を乗じて計算される追徴金を課される場合がありますので、期日までに必ず手続きをしなくてはなりません。

年度更新に必要な書類については、毎年、年度更新の時期が近づくと、所轄の都道府県労働局から、書き方の手引きと共に郵送されてきますから、事業主の方が自分で入手する必要はありません。

概算保険料の支払金額が40万円以上(雇用又は労災の一方のみの保険関係が成立している場合には20万円以上)である場合や、労働保険事務組合に事務委託を行っている場合には、労働保険料の延納が可能です。

上記要件を満たしている事業主の方が、7月10日の納付期限までに保険料を支払うのが厳しいという場合には、延納制度を利用するとよいでしょう。

年度更新の手続き代行を希望する場合について

年度更新の手続きは、労働保険の他の手続きと比較すると煩雑なので、事業主の方がご自身で行うのは少し難しいかもしれません。事務が得意だという方であれば、最寄りの労働局から送られてくる申告書に書き方の手引きが同封されていますので、そちらを見ながら、自分で作成することもできるでしょう。しかし、書類を作ったりすることが苦手だという場合には、外部の専門家に頼んだ方がいでしょう。

労働保険の年度更新の手続きを依頼できる専門家として、社会保険労務士があります。事業所の近くに事務所を構えている社会保険労務士などに頼んでみるのも一つの方法です。ただし、実際には、多くの企業では、労働保険事務組合に年度更新の手続きを依頼するケースが多く、社会保険労務士に依頼するケースはそれほど多くはありません。