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労務の手続き㉑~従業員が病気休業したとき~

会社を経営していると、従業員が病気を患ったり怪我をしたりして、長期欠勤者が出ることもあるでしょう。

欠勤の原因が業務によるものの場合には、労災保険から給付金が受けられます。また、私傷病の場合でも、一定の要件を満たす場合には、健康保険から給付金が受けられます。

私傷病による長期欠勤に対する健康保険からの給付金は、長期欠勤者自ら(又はその家族が)行うのが原則です。

しかし、単身の長期欠勤者が入院している場合や、長期欠勤者が健康保険から給付金が受けられることを知らないような場合には、会社が代理人として手続きをする場合があります。

また、長期欠勤者が自分で手続きする場合も、給付金の申請書には、事業主が証明する欄がありますから、会社がかかわりを持つ必要があります。

そこで、今回は、健康保険からの給付金受給手続きを中心に、従業員が病気休業した時の労務の手続きについて解説します。

業務外のケガや病気により従業員が療養休業した場合の健康保険の手続き

サラリーマンなど、健康保険被保険者が私傷病で、原則として4日以上連続して欠勤した場合、4日目から1日当たり標準報酬月額の45分の1(標準報酬日額の3分の2)の傷病手当金が受給できます。

健康保険・傷病手当金支給申請書について

傷病手当金を受け取るためには、「健康保険・傷病手当金支給申請書」を協会けんぽの各都道府県支部又は健康保険組合に提出します。

傷病手当金の支給を受けるためには、以下の4つの要件をクリアしている必要があります。

  1. 業務外の事由による病気や怪我のため療養中であること
  2. 就労不能であること
  3. 3日間連続して休み、4日目以降にも休んだ日があること
  4. 給与(報酬)の支払いがないこと
    ※休業手当などが会社から支給されていても、標準報酬月額の3分の2以下であれば、その差額分の傷病手当金は支給されます。

提出先、提出期限、提出方法

健康保険証に記載されている保険者が全国健康保険協会(協会けんぽ)となっている場合には、申請書の提出先は、事業所所在地を管轄する協会けんぽの各都道府県支部となります。保険者が健康保険組合(大企業に多い)となっている場合には、その健康保険組合の窓口に提出します。

提出期限は、特にありませんが、健康保険の給付金の時効は2年ですので、2年以上手続きが遅れた場合には、2年を超える分から、時効によって受給権が消滅していきます。あまり手続きが遅れると、欠勤された方の生活に支障が出ますから、できるだけ速やかに申請書を提出します。

申請書の提出方法は、協会けんぽの場合は、所轄の都道府県支部の窓口に持参又は郵送で行います。健康保険組合に提出する場合には、健康保険組合によって異なるので注意が必要です。

添付書類について

申請人が障害厚生年金を受けている場合には、年金証書及び直近の年金額改定通知書等のコピーを添付する必要があります。

老齢退職年金を受けている場合にも、年金証書及び年金額改定通知書等のコピーを添付する必要があります。

労災保険から休業補償給付を受けている場合には、休業補償給付支給決定通知書のコピーが必要になります。

ケガの場合には負傷原因届が必要です。交通事故など第三者による傷病が傷病手当金申請の原因の場合には、第三者行為による負傷届が必要になります(これらの様式は、協会けんぽの窓口等にあります)。

最後に、被保険者が亡くなられており、相続人が請求する場合には、被保険者と請求者の続柄を確認できる戸籍謄本等が必要になります。

様式の取得方法

協会けんぽに提出する傷病手当金支給申請書の様式は、協会けんぽのホームページからダウンロードによって取得することができます。記載例の閲覧も可能なので、記載例を見ながら作成するとよいでしょう。

健康保険組合に提出する申請書については、健康保険組合の窓口で交付を受けることができます。記載方法は、窓口の担当者から教えてもらいます。

【手続き上の注意点】

傷病手当金支給申請書には、医師の意見を記載する欄があり、そのため、その部分を欠勤者の治療を担当した医師に書いてもらい、その医師の署名捺印が必要になります。また、事業主証明欄もありますので、事業主の証明と署名捺印も必要になります。

申請書は、1か月単位で提出するのが一般的です。すなわち、傷病手当金の支給対象となる休業日があった月の翌月に、前月分の傷病手当金をまとめて請求します。

傷病手当金は、支給を始めた日から起算して最長で1年6カ月間受けることができますが、支給対象期間が1か月以内の短期の場合又は職場復帰した最後の月の申請分などは、職場復帰してからすぐに申請しても問題ありません。

業務外のケガや病気による療養による休業が長期にわたる場合

多くの会社の就業規則では、休職期間を設定しています。業務外のケガや病気の療養のための休業の場合、休職期間は1年又は1年6カ月となっていることが多くなります。休職期間が経過しても、病気等が回復しないで復職ができない場合には、原則として、退職となります。

傷病手当金の申請をしたものが、容易に回復せず、休職期間が経過しても復職できない場合には、原則として、その時点で退職となりますから、退職手続きを取る必要があります。

障害厚生年金について

就業規則で規定されている休職期間が1年6カ月の場合、傷病手当金の支給開始期間は、支給を始めた日から起算して1年6ヵ月ですから、傷病手当金を受け終わる頃に復職ができないと、傷病手当金も打ち切られ、会社も退職となり、対象者は生活の糧を失います。

その場合の対策として、障害厚生年金を請求する方法があります。傷病手当金の支給開始から1年6カ月を経過しても復職できない場合には、障害厚生年金の要件を満たしている可能性があり、その場合には、障害厚生年金を請求してみるといいでしょう。障害厚生年金の受給ができれば、退職後の従業員の生活が保障されます。

障害厚生年金の受給要件について

障害厚生年金を受給するためには、以下の3つの要件を満たしている必要があります。

  1. 厚生年金の被保険者期間中に、障害の原因となった病気や怪我について初めて医師の診断を受けた日(初診日)があること
  2. 障害厚生年金の障害等級の1級から3級に該当する障害の状態にあること
  3. 保険料納付要件を満たしていること

1.については、70歳未満のサラリーマンの方であれば、健康保険と厚生年金保険はセット加入が原則なので、健康保険の傷病手当金を受けていた方であれば、クリアしています。

2.については、原則として、初診日から起算して1年6カ月の認定日において、障害厚生年金の障害基準の1級から3級に該当している必要がありますが、3級の基準は、労働に著しい制限を受けるか、又は著しい制限を加えることを必要とする程度の障害にあることですから、医師が働けないと認める状態であれば、最低でも3級に該当する可能性があります。

3.については、初診日の属する月の前々月まで公的年金の加入期間の2/3以上が、保険料納付又は免除期間となっていれば、納付要件をクリアしていることになります。なお、初診日において65歳未満の場合は、初診日の属する月の前々月から遡って1年間に保険料の未納期間が無い場合にも、納付要件をクリアしていることとされています。

まとめ

病気や怪我による長期欠勤者が出た場合の手続きの中心は、健康保険の傷病手当金支給申請書を協会けんぽや健康保険組合に提出することですが、傷病手当金の支給期間(支給開始から1年6カ月間)が経過しても、被保険者が復職できない場合には、従業員の退職手続きが必要になることがあります。

傷病手当金の支給期間を経過した時点で、被保険者が就労できない状態にある場合には、障害厚生年金を請求することも視野に入れます。