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労務の手続き㉒~定年の延長などについて~

人口減少と少子高齢化の進展で、日本経済は将来に大きな不安を抱えていると言われています。特に、労働力の主体である生産年齢人口(15歳から64歳)の減少が大きな問題となっています。

この問題を解決するために政府は「高齢者の就業促進」を進めてきました。その柱となるものが定年延長や継続雇用制度です。

高年齢者雇用安定法(高齢法)では、2006年から年金支給開始年齢までの雇用確保措置を義務付けました。2013年には、改正高齢者雇用安定法が施行され、段階的に、希望者全員を65歳まで雇用することが企業に義務付けられました。

高齢法によって、企業は、60歳以上65歳未満の高齢者の雇用を促進することが求められており、それに応じた労務の手続きが必要になってきます。

そこで、今回は、定年の延長などに関する労務の手続きについて解説します。

65歳までの安定した雇用を確保する措置

高齢法により、定年を65歳未満に定めている事業主は、65歳までの安定した雇用を確保するために、次の(1)~(3)のいずれかの措置をとることが義務化されています。

(1)定年の引き上げ
(2)継続雇用制度の導入
(3)定年制の廃止

現在は、高齢法によって60歳未満の定年制を設けることが禁止されていますが、2018年2月に実施されたHR総研の「多様な働き方」実施状況に関する調査によると、65歳(それ以上も含む)定年制を実施している企業の割合は全体の10%にとどまっています。従って、多くの企業では、上記の(1)~(3)のうちのいずれかの措置をとることが必要になっています。

定年の引き上げ

定年の引き上げとは、例えば、就業規則に「満60歳で定年退職する」と規定している会社が、それを変更して「満65歳で定年退職する」という定めを設けるような場合です。

定年を引き上げる手続き

定年を引き上げる具体的な手続きは、定年に関する就業規則を変更することです。

例えば、就業規則に「第○条 従業員の定年は満62歳とし、62歳に達した月の末日をもって退職とする」というような規定を会社が、これを変更し、「第○条 従業員の定年は満65歳とし、65歳に達した月の末日をもって退職とする」とすれば、定年が65歳に引き上げられます。

就業規則を変更した場合には、従業員代表者の意見書を付けて、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

就業規則変更届及び従業員意見書の様式は、各都道府県の労働局のホームページからダウンロードによって取得することができます。

なお、就業規則変更届には、変更前の就業規則と変更後の就業規則(それぞれ定年に関する部分のみで可)を記載する必要があります。

継続雇用制度の導入

高齢法が義務化する65歳までの安定した雇用確保措置として、最もよく採用されている方法が、希望者全員の65歳までの継続雇用制度です。

この場合には、定年を65歳未満とすることは可能ですが、定年退職したものが希望する場合には、希望者全員を嘱託職員として再雇用するなどして、65歳まで雇用する制度を設ける必要があります。

前出のHR総研の調査によると、調査対象企業全体の約77%が継続雇用制度を採用しています。65歳までの定年延長や定年を廃止した場合、高齢者の幹部が会社に居残り、組織の活力を失わせるという問題がありますが、継続雇用制度をすれば、対象者を嘱託職員などとすることができますから、この問題は解決します。

継続雇用制度を導入する手続き

継続雇用制度を導入する場合には、就業規則に以下のような条項を追加します。

第○条 従業員の定年は満60歳とし、60歳に到達した月の末日をもって退職とする。ただし、定年に達したものから、引き続き勤務を希望する申し出があったときは、希望者全員を嘱託として、定年退職日の翌日から満65歳まで再雇用する。

就業規則を変更した場合には、従業員の意見書を添えて管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

就業規則変更届及び意見書の様式は、各都道府県労働局のホームページからダウンロードによって取得することができます。

定年の廃止について

日本では定年のない事業所というのは非常に少ないですが、イギリスやアメリカの英語圏の公務員には定年がありません。また、定年の廃止こそ、少子高齢化による人手不足解消の決め手となるという意見もあり、定年の廃止も、高齢法で義務付けられている65歳までの安定雇用制度のひとつと位置付けられています。

前出のHR総研の調査によると、定年制を廃止している企業は、全体の3%と非常に少数にとどまっています。しかし、このまま少子高齢化による人手不足が続けば、「定年廃止」が主流になる日が来るかもしれません。

定年を廃止する手続き

定年を廃止する場合には、就業規則にある定年に関する定めを削除します。退職に関する事項は、就業規則の絶対的記載事項ですから、就業規則には、例えば、「第○条 従業員の定年は満○○歳とし、○○歳に達した月の末日をもって退職とする」という規定があるはずです。定年制を廃する場合は、この条項を削除します。

就業規則を変更(一部削除も含む)する場合には、従業員代表者の意見書を付けた就業規則変更届を管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。

変更届及び従業員代表者の意見書の様式は、各都道府県労働局のホームページからダウンロードによって取得することができます。

定年の定めを廃止することは、従業員にとって有利な変更なので、従業員代表者が反対意見を述べる可能性は低いでしょう。

まとめ

少子高齢化の進展によって、今後の日本経済は、労働力不足によって活力が失われていく可能性が懸念されていますが、60歳以上の高齢労働者の活用も、この問題に対する重要な対策と位置付けられています。

高齢法が義務化する65歳までの雇用確保措置は、いずれも、手続き上は、就業規則を変更するだけの簡単なものですが、実際には、高齢労働者の賃金をどのくらいにするかとか、どんな仕事を任せたらよいのか、また、1年契約の場合、更新基準をどのようにしたらよいのか、など、さまざまな労務管理上の問題があります。

就業規則の変更などの手続きについては、事業主自らが行っても大きな問題はありませんが、労務管理上の問題については、社会保険労務士など専門家に相談してから決めたほうが安心です。