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従業員が交通事故に…「療養(補償)給付」を受けるには?

会社の従業員が交通事故被害に遭った場合、会社としてはいかなる対応を取るべきでしょうか?

この記事では、そうした対応に迫られる前に備えておくべき必要な知識と対策をご紹介!

さらに、実際に従業員が交通事故に遭った際の対応法、手順について簡単にお伝えします。

事前の知識と対策

従業員が交通事故に遭った際にまず思い浮かべるのが労災保険でしょう。
この労災保険は「業務中」あるいは「通勤中」と認められる交通事故に使うことができます。

業務中か通勤中の交通事故なのか適切に判断できるようになっておく

業務中もしくは通勤中の交通事故か否かの判断は、最終的には申請をした労働基準監督署が行います。しかし、従業員に適切な保険給付を受けさせるためには、会社担当者もある程度の知識は身につけておくべきでしょう。

まず、業務中であるか否かは「業務起因性(業務と怪我とその間に一定の因果関係があること)」と「業務遂行性(事業主の支配・管理下にあること)」の2つの要素から判断されます。

したがって、基本的には、休日に交通事故に遭っても業務中とはいえませんから、労災保険を適用することはできません。

通勤中であるか否かは、大まかにいえば、就業のための合理的な経路及び方法による移動か否か、という観点から判断されます。通勤の範囲に関する詳細は、労災保険について規定した労働者災害補償保険法7条2項、労働者災害補償法施行規則(以下、施行規則といいます)18条等に規定されています。

従業員へ会社への報告を周知する

会社は、従業員が業務中もしくは通勤中に交通事故に遭った場合は、労災保険の手続きのためにも、従業員に会社に直ちに報告するよう周知徹底する必要があります。従業員の報告が遅れると、従業員に必要な給付を受けさせることができなくなるおそれがあり、トラブルの火種ともなりかねません。

従業員が交通事故に遭った場合の対応、手順

次に、実際に従業員が交通事故に遭った際の「療養(補償)給付」を受けるための対応、手順をご紹介します。

最寄りの病院を直ちに受診するように指示する

従業員から報告を受けたら、まずは、従業員に最寄りの病院を直ちに受診するよう指示します。

「直ちに」受診する必要があるのは、事故から受診までの期間が空けば空くほど、業務起因性、つまり、業務中の事故と怪我との因果関係を疑われ、従業員が必要な給付を受けることができなくなってしまうおそれがあるからです。

また、病院はなるべく労災指定病院(労災保険指定医療機関)で受診させましょう。労災指定病院以外の病院で受診すると、従業員が費用をいったん自己負担し、後日、立替え受ける流れとなります。しかし、金額が大きいと従業員にとって大きな負担となりますし、立替えのための手続きも面倒です。

さらに、従業員には病院での受付の際、病院側に「労災で受診しに来た」と伝えるよう指示しておきましょう。従業員が労災保険ではなく健康保険で受診すると、上記同様、従業員が一時的に費用を自己負担しなければなりません。後日、労災保険への切り替えや立替払いを受けることはもちろん可能ですが、そうした手間はなるべく省きたいものです。

従業員に「療養の給付請求書」を作成し、事業主証明を受けるよう指示する

従業員から交通事故に遭い、病院を受診する旨の報告があった場合は、従業員に「療養の給付請求書(業務中の交通事故の場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書」、通勤中の交通事故の場合は「療養給付たる療養の給付請求書」)に必要事項を記載し、事業主証明を受けるよう指示します(書式は厚生労働省のホームページなどからダウンロードできます)。

事業主証明とは、各「療養の給付請求書」の欄に事業主(実際は権限の委任を受けた労務担当者など)が署名することをいいます。

何を証明するのかといえば、業務中の交通事故の場合は、次のとおりです。

①負傷又は発症年月日
②負傷又は発病の時刻
③災害の原因及び発生状況。

この証明は、従業員が交通事故に遭った「事実」を証明するに過ぎず、当該交通事故が労災保険の適用対象となる業務中の交通事故あるいは通勤中の交通事故であることを証明するものでありません。認定機関はあくまで労働基準監督署です。したがって、署名したからといって、直ちに労災保険が適用されるわけではありません。

なお、施行規則23条2項では「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」と規定されています。

「療養の給付請求書」を病院へ提出させる

「療養の給付請求書」に事業主証明をしたら、書類を従業員に返して病院へ提出させます。提出後は病院経由で労働基準監督署に提出され、従業員は診察などを無料で受けることができます。

なお、「療養の給付請求書」は治療の途中からでも提出させることができます。また、はじめに健康保険で受診した場合でも、労災指定病院であれば、後日、「療養の給付請求書」を提出することによって労災保険に切り替えることも可能です。

まとめ

以上は、従業員が交通事故に遭った際に「療養(補償)給付」を受けるための会社の対応法、手順について紹介しました。しかし、労災保険で給付されるのはその他にも「休業(補償)給付」、「傷病(補償)年金」などさまざまあります。

給付内容によって作成すべき書類や提出先も異なりますから、この際に確認し対応に遅れが出ないようにしましょう。