労務の手続き④~扶養親族に変更があった時~
会社などで加入する健康保険には、一定の要件を満たすと、被保険者1人分の保険料の支払で、家族全員が医療保険サービスを受けられるという、被保険者にとって非常に有利な「被扶養者」の認定が受けられます。
年金保険の場合も、被加入者が20歳以上60歳未満であるなどの一定の要件を満たす配偶者に限りますが、3号被保険者制度という、被保険者にとってお得な制度があります。
これら制度を利用するためには、健康保険被扶養者(異動)届出を健康保険組合などに提出する必要があります。また、被扶養者の構成に変動があった場合にも、この届出書の提出が必要です。
以下では、扶養親族に変更があった時の手続きとして、この届出書の書き方等について解説します。
健康保険被扶養者届・扶養者異動届について
提出期限と提出先
サラリーマンの方で、健康保険に加入している方の扶養親族に変更があった場合には、その事実があった日から5日以内に、健康保険被扶養者(異動)届を健康保険組合または管轄の年金事務所(協会けんぽの健康保険に加入している場合)に、郵送または持参で提出する必要があります。
届出用紙は、年金事務所や健康保険組合、協会けんぽの支部の窓口に備え置いてあるので、従業員の方の扶養者に変更があった場合は、それらの場所に出向いて用紙を入手する必要があります。
被扶養者が減った場合も必ず提出
今まで被扶養者だったものが、被扶養者の要件を満たさなくなったり、亡くなったりしたことによって、被扶養者が減った場合でも、この届出書を健康保険組合や年金事務所に提出する必要があります。その場合には、減った後の被扶養者の状況を届出書に記載して提出することになります。
なお、この届出書の名称は被扶養者(異動)届となっており、扶養している親族に増減があった場合でも、同じ様式の書類で手続きが可能です。
被扶養者のメリット
健康保険での扶養親族に該当し、その届出書を健康保険組合や年金事務所に提出した場合、その被扶養者は、保険証(被扶養者証)を受けとることができます。そうすれば、その被扶養者は、健康保険料を支払わなくても、医療費の原則3割を負担するだけで、病院などの医療サービスを受けることができます。
国民健康保険の場合、保険料が高額になるので、家族の方にサラリーマンとして働いている方がいらっしゃれば、その方の扶養に入ることができれば、社会保険料の負担をだいぶ減らすことができます。
被扶養者の認定基準
健康保険では被扶養者の範囲を以下のように定義しています。
1.被保険者と同居している必要がないもの
- 配偶者
- 子、孫及び兄弟姉妹
- 父母、祖父母などの直系尊属
2.被保険者と同居(同一世帯)している必要があるもの
- 上記1以外の3親等以内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
- 内縁関係の配偶者の父母及び子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合も含む)
配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属以外の3親等以内の親族が扶養親族となる場合には、被保険者(保険料を支払う人)と同居している必要があります。裏を返せば、配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属であれば、一定の要件を満たせば、被保険者と同居していなくても、被扶養者となることができます。
被扶養者となるには、さらに以下の基準を満たしている必要があります。
扶養となる予定の日から向こう1年間の収入見込額が130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は180万円未満)で、かつ、同居の場合は、被保険者の収入の2分の1未満、別居の場合は、被保険者からの仕送額未満であること。
ここでいう収入には、給与収入のほか、公的年金収入、健康保険からの傷病手当金や出産手当金、雇用保険からの失業給付なども含まれます。
健康保険被扶養者届・扶養者異動届の添付書類
健康保険被扶養者届・扶養者異動届には、次の①~③の書類を添付します。
①被保険者と、新たに被扶養者になる方との続柄が分かる戸籍謄本(戸籍抄本)
②被保険者の住民票(被保険者が世帯主で、被扶養者と同一世帯である場合に限る)
③被扶養者の収入要件確認のための書類
③については、具体的には、雇用保険受給資格者証(写)、年金額改定通知書(写)、退職証明書や雇用保険離職票(写)、確定申告書(写)、課税(非課税)証明書などのうち、被扶養者の状況に応じて適切なものを添付します。
なお、被保険者の配偶者、子、孫、兄弟姉妹については、別居していても、年収要件と、収入が被保険者からの仕送額未満であれば、被扶養者となることができますが、その場合の扶養異動届には、仕送の事実と仕送額を証明する書面を届出書に添付する必要があります。具体的には、「振込の場合の預金通帳等(写)」「送金の場合は現金書留(写)」などです。
また、内縁関係にあるものが被扶養者届を提出する場合には、内縁関係にある両人の戸籍謄本(抄本)と、被保険者の世帯全員住民票を届出書に添える必要があります。
添付書類を省略できるケース
届出書に、被保険者と扶養認定を受ける方の双方のマイナンバーの記入があり、かつ、扶養認定を受ける方の続柄が間違いないことを事業主が確認した旨が届出書に記載されている場合は、前出の①及び②の証明書の添付は省略できます。
②については、被扶養者が被保険者の配偶者、子、孫、兄弟姉妹で、別居している場合は不要です。
③については、所得税法上の控除対象配偶者又は扶養親族となっているものが扶養認定を受けようとする場合、その事実の事業主の証明があれば、収入要件確認のための書類の添付は省略できます。
国民年金保険の第3号被保険者について
国民年金では、納付書等で保険料を納める普通の被保険者を「第1号被保険者」、厚生年金や旧共済年金の被保険者を「第2号被保険者」、20歳以降60歳未満の第2号被保険者の被扶養配偶者を「第3号被保険者」と言います。
厚生年金の被保険者に、20歳以上60歳未満の被扶養配偶者がいる場合、配偶者の向こう1年間の収入見込額が130万円未満(障害者の場合は180万円未満)で、かつ、同居の場合は、被保険者の収入の2分の1未満、別居の場合は、被保険者からの仕送額未満であるという条件を満たせば、その配偶者は、国民年金の第3号被保険者となることができます。
第3号被保険者期間は、将来受け取る老齢基礎年金の年金額の計算において、保険料を負担することなく、第1号被保険者期間で保険料を全額納付した期間と同等の期間とみなされる、非常に有利なものです。
20歳以上60歳未満のサラリーマンの配偶者の方が健康保険の被扶養者となる場合には、認定基準が全く同一なので、同時に、国民年金の第3号被保険者にもなることができます。ただし、この3号被保険者になったことに関する単独の届出は不要です。
被扶養者異動届の構成
被扶養者異動届は、3枚複写になっていて、3枚目は、国民年金第3号被保険者に関する届出書を構成します。20歳以上60歳未満の配偶者が健康保険の被扶養者になった場合又は被扶養者から外れた場合、そのことを記載すると、複写によって、自動的に、3枚目が、国民年金第3号被保険者の資格取得届又は資格喪失届が作成されるようになっています。
厚生年金(旧共済年金も含む)の被保険者の20歳以上60歳未満の配偶者が健康保険の被扶養者となる届出が提出された場合、健康保険組合等では、届出書の3枚目を年金事務所の国民年金の担当部署に回送し、そこで、国民年金第3号被保険者への加入手続き又は脱退手続きが行われるという仕組みになっています。