労務の手続き⑤~業務災害・通勤災害が起こった時~
労災保険は、労働者が安心して働くために非常に重要な役割を担う保険です。
労災保険から保険給付を請求する手続きは、本来は被災労働者が行うべきものとされていますが、病気やけがで体が弱っている被災労働者が労災の手続きをするのは大変なので、事業主が被災労働者に代わって手続きすることも多いようです。
そこで、以下では、業務災害・通勤災害が起こった時にしなければならない手続きについて解説します。
業務災害が起こった時
業務災害が起こった時、被災労働者が労災指定病院で治療を受ける場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」を作成して、被災労働者が治療を受けた病院の窓口に提出します。
病院の窓口に提出した申請書は、病院を経由して所轄の労働基準監督署に回送されます。そこで業務上外の認定が行われ、労災と認定された場合には、労災保険から治療費の全額が病院に支給されるため、被災労働者は無料で治療を受けることができます。
労災認定されるか微妙な場合
「プレス機械で指を負傷した」「荷物を自動車で運搬中に交通事故で負傷した」といったケースは労災だとはっきり分かりますが、労災かどうかが微妙なケースの場合、とりあえず病院に「療養補償給付たる療養の給付申請書」を提出します。その後、労災ではないと判断されたら、健康保険に切り替える手続きを踏みます。
労災指定病院ではない医療機関で治療を受けた場合
早急に治療を行う必要がある場合で、労災事故が起こった現場の近くに労災指定病院がない場合には、労災指定病院ではない病院で治療を行うことがあります。
そのケースでは、自費で治療費の全額を負担し、後に治療費の領収書と共に「労用補償給付たる療養の費用請求書」を管轄の労働基準監督署に提出します。労働基準監督署が労災と認めた場合は、治療費全額の支給を受けることができます。
治療する医療機関を変更する場合
労働災害による病気やけがの治療のために、労災指定病院等を変更しなければならない場合には、「療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を、新しく療養を受けようとする病院等を経由して、管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
「療養補償給付たる療養の給付申請書」や「療養補償給付たる療養の費用請求書」は、本来であれば、被災労働者が自分で作成し、事業主は事故があったことの証明を行うだけですが、被災した労働者が自分で書類を作るのは大変なので、事業主が被災労働者に代わって書類を作成し、病院や労働基準監督署に提出するケースが多くなっています。実際にこの手続きは事業主が行うと言ってよいでしょう。
通勤途中に事故が行った場合
通勤途中で起こった交通事故などによる負傷も場合によっては労災保険の対象となるので、労災保険の手続きが必要になることもあります。
このケースでも、本来は被災労働者が自ら請求手続きを行うべきものなのですが、けがをした労働者が自分で手続きを行うことは大変なので、大抵の場合、事業主が被災労働者に代わって手続きを行います。
通勤途中の事故で被災した労働者が、労災指定病院で治療を受けた場合には、「療養給付たる療養の給付請求書」を作成し、病院の窓口に提出します。この請求書は、病院を経由して管轄の労働基準監督署に送付され、監督署が労災と認めた場合には、治療費の全額が労災保険から支払われるため、被災労働者は無料で治療を受けることができます。
事故現場付近に労災指定病院がない場合
事故現場の近くに労災指定病院がない場合は、やむを得ず、労災指定病院以外の病院で治療を受けることになります。その場合は、被災労働者が治療費の全額を病院に支払います。
その後、労働基準監督署に治療費の領収書と共に「療養給付たる療養の費用請求書」を管轄の労働基準監督署に提出します。労働基準監督署が労災と認めた場合には、監督署から被災労働者に対して、治療費の全額が支給されます。
療養給付たる療養の給付(療養の費用)請求書には、事故の状況を記載する欄がありますので、必ず事故現場に出向いて、事故の状況を詳しく確認しておきます。
治療する医療機関を変更する場合
通勤事故によるけが等の治療のために、労災指定病院等を変更しなければならない場合には、「療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を、新しく療養を受けようとする病院等を経由して、管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
休業補償給付について
労働災害や通勤災害によるけがや病気のために、被災労働者が会社を休むということはよくあります。労働災害によるけがや病気の治療で休業した期間が4日未満の場合には、その休業中の賃金の補償は労災保険からではなく、事業主が行う必要があります。ただし、通勤災害の場合は、事業主は休業中の賃金の補償をする必要がありません。
労働災害等による休業が4日以上となった場合には、4日目以降は、労災保険の休業補償給付(通勤災害による場合には休業給付)の対象となります。
提出書類と支給額
労働災害による治療のための被災労働者の休業日数が4日以上となった場合には、「休業補償給付支給申請書(労災の場合は様式第8号、通勤災害の場合は様式第16号の6)」を管轄の労働基準監督署に提出します。
労働基準監督署が労災と認めた場合には、1日当たり給付基礎日額(平均賃金相当額)の60%が労災保険から支給されます。
同じく、通勤災害による治療のための被災労働者の休業日数が4日以上となった場合には、「休業給付支給申請書」を管轄の労働基準監督署に提出します。このケースでの補償金額も、労働災害による場合と同じ金額です。
なお、労働災害の場合も通勤災害の場合も、社会復帰促進事業として休業1日当たり給付基礎日額の20%が休業特別支給金として支給されます。労災保険からの給付と合わせると、休業4日目以降は、1日当たり平均賃金の80%が保証されることになります。
労働者死傷病報告について
労働災害によって、被災労働者が4日以上休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告を管轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。この書類は、労働基準監督署の窓口で手に入れることができるほか、厚生労働省のホームページからダウンロードすることも可能です。
労働災害で被災した労働者がいるが、その休業期間が4日未満の場合には、1月~3月、4月~6月、7月~9月、10月~12月の4半期ごとに、3か月に起こった労働災害についてまとめて、各期の最終月の翌月末日までに、労働基準監督署に報告しなければなりません。
労働災害が起こった場合(通勤途中の事故によるものは除く)には、何らかの形で、監督官庁である労働基準監督署に報告する必要があります。