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書類の書き方

労働条件通知書の書き方(記入例あり)

労働条件通知書とは、従業員を雇い入れる際に交付しなければならない書類で、従業員とのトラブルを防ぐためにも重要な書類です。

今回は、労働条件通知書の概要や作成方法などについて解説します。

労働条件通知書とは?

まずは、労働条件通知書が法律上どのような整理になっているのかなどについて説明します。

労働条件を明示するための書類

労働条件通知書とは、労働基準法第15条において「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」とされていることに対応する書類で、記載すべき事項は労働基準法施行規則などで規定されています。

労働契約の締結時に労働者に対して労働条件を明示することは、その労働者が生活していくうえで重要なことですし、会社にとっても後々のトラブルを防止することにもつながります。

従業員に交付する方法

労働条件通知書を従業員に交付する方法について、労働基準法施行規則第5条第4項では書面(労働条件通知書)による交付を原則としています。

ただし、2019年4月からは、その従業員が希望すれば、FAXやメールによる送信、また、SNSのメッセージ機能を利用して交付することも認められています。

※ メール送信などで交付する場合には、本人のみが閲覧できるような形で送信し、書面として出力できる(添付ファイルで送信するなど)ようにしなければなりません。

雇用契約書との違い

労働条件通知書と似たものに雇用契約書がありますが、雇用契約書は民法上の雇用契約(口頭のみの約束でも成立)としての契約書類であり、労働条件通知書のように作成・交付が義務付けられている書類ではありません。また、雇用契約書は労働条件通知書のように会社側からの一方的な通知ではなく、一般的には双方が署名、押印して保管しておく書類であるという違いもあります。

このため、トラブルを避けるために、「労働条件通知書兼雇用契約書」として、それぞれが署名、押印している会社も少なくありません。

労働条件通知書の記載事項

労働基準法施行規則第5条では、労働契約の締結の際に明示しなければならない労働条件が定められていますが、書面(労働条件通知書)に記載して明示しなければならない事項と、口頭で明示してもよい事項に分けられています。

※明示しなければならない労働条件は、労働者の雇用形態(短時間労働者や派遣労働者など)によって多少異なりますが、ここではフルタイム労働者に明示しなければならない事項について整理しています。

必ず記載しなければならない事項

次の事項については労働条件通知書に必ず記載しなければなりません。

  • 労働契約の期間
  • 有期契約の者については労働契約の更新基準
  • 就業場所
  • 従事する業務の内容
  • 始業、終業時刻
  • 所定時間外労働の有無
  • 休憩時間、休日、休暇
  • 交替制勤務をさせる場合は、就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
  • 賃金の決定方法、計算方法、支払方法、賃金の締切り、支払時期に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

口頭で明示してもよい事項

次の事項については口頭で明示してもよいことになっています。

  • 昇給に関する事項
  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定方法、計算方法、支払方法、支払時期に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
  • 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全、衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰、制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

なお、上記の昇給に関する事項については口頭で明示してもよいことになっていますが、必ず明示しなければならず、先に説明した必ず記載しなければならない事項とあわせて絶対的明示事項となっています。対して、上記の昇給に関する事項以外の事項については、その制度(例えば退職金制度など)を設けている場合に明示しなければならない相対的明示事項となっています。

労働条件通知書の記入例・記入のポイント

労働条件通知書の記入例と、記入のポイントについて説明します。

記入例

労働条件通知書は、上記で説明した記載事項が網羅されていれば、どのような様式でも構いませんが、厚生労働省が公開している様式で作成すると、次のような書類になります。

※ここでは、有期契約で雇い入れる従業員の労働条件通知書として整理しています。

様式は厚生労働省や各労働局のホームページから、雇用形態別に整理されたものをダウンロードすることができます。

主要様式ダウンロードコーナー/厚生労働省

記入のポイント

項目ごとの主な記入ポイントは次のとおりです。

①契約期間

契約期間の定めがあるのかどうか、また、定めがある場合(有期契約)にはその期間を記載します。さらに、有期契約である場合には、契約の更新の有無と、更新があり得る場合にはその判断基準も記載します。

なお、有期雇用特別措置法による特例の対象者とは、いわゆる無期転換ルール(5年を超えて契約を更新した場合は無期契約に転換するルール)を労働局に認定を受けたうえで適用しないこととする者のことで、高度専門職の者であるのか、定年後の高齢者であるのかなどの該当区分を記載します。

②就業の場所

雇い入れ後に就業することになる具体的な場所を記載します。転勤や配置転換によって就業場所が変更になる可能性については必ずしも記載する必要はありませんが、予定があるのであれば、トラブル防止のために併記しておくべきです。

③従事すべき業務の内容

雇い入れ後に従事することになる業務の内容を記載します。一般的には幅広く対応してもらうためにある程度幅を持たせるように記載します。

④始業・終業の時刻、休憩時間、就業時転換、所定時間外労働の有無に関する事項

始業・終業の時刻については、交替制(シフト制)の勤務者(※)や変形労働時間制を適用する場合 (一般の労働時間制度でも運用できる場合あり )、または、フレックスタイム制ほかの労働時間制度を適用する場合には、各制度上の始業時刻と終業時刻などを記載します。

※就業時転換に関する事項として、例えば、始業・終業の時刻は勤務割によって1か月ごとに定めること、また、その勤務割は対象期間の起算日までに書面で通知することなど、勤務パターンがどうなるのかについても記載します。

そのほか、休憩時間や所定時間外労働の有無(残業が発生する可能性があるのかどうかについてのみ)についても記載します。

なお、記載した内容の詳細については、就業規則の何条を参照すればよいのかについても記載しておきます。(以下で説明する項目も同様です。)

⑤休日

定例日として「毎週 土・日曜日、国民の祝日」などと曜日または日を特定して記載します。変形労働時間制を適用する場合には、非定例日として、休日が週・月当たり何日なのかなどについて記載します。

⑥休暇

6か月継続勤務した場合の年次有給休暇の日数については雇用形態に応じて記載します。正社員やフルタイムに近い者であれば、法定では10日ですが、所定労働日数が少ないパートタイムなどであれば、その所定労働日数に応じた年次有給休暇の日数になります。

代替休暇とは、残業が1か月あたり60時間を超えた場合に、その超えた労働時間分の割増賃金率を25%から50%に引き上げる代わりに与える休暇のことを言いますが、その制度を導入しているかどうかを記載します。(中小企業については、残業が1か月あたり60時間を超えた場合の割増賃金率の引上げも代替休暇制度の導入も2023年4月からの適用になります。)

そのほか、会社としての休暇があれば、その他の休暇として記載します。

⑦賃金

基本賃金(月給や日給、時間給など)や、諸手当(通勤手当など)の額または計算方法、所定時間外などの労働に対して支払う割増賃金の率(法定以上の率としている場合にはその率)、賃金の締切日・支払日・支払方法を記載します。

また、賃金から控除するもの(親睦会費など)や昇給、賞与、退職金があるのかどうか、あるのであればその内容を記載します。

⑧退職に関する事項

定年制を設けているのかどうか、設けていればその年齢を記載し、あわせて、継続雇用制度(一般的には65歳まで継続雇用)を導入しているのかどうかについても記載します。

また、自己都合退職の手続きとして、何日前までに届け出なければならないのかについてなども記載します。
※会社によっては「30日前まで」としているところもありますが、民法では「2週間前まで」に申し出れば、退職できることになっているため、トラブルが起こった場合には会社の規定によらず「2週間前まで」が有効になる可能性があります。

そのほか、解雇の事由及び手続きとして、どのような場合に解雇となるのかとその手続きについて記載します。

⑨その他

社会保険の加入状況や、雇用保険の適用があるのかどうかについて記載します。

また、パートタイムやアルバイトなどの短時間労働者である場合には、その者の相談の窓口となる担当部署名や担当者名なども記載します。

※この相談窓口は、2015年4月1日から設置が義務化されているもので、労働条件通知書にも記載しなければならないことになっています。

まとめ

労働条件通知書は、雇い入れる従業員に交付することが義務付けられている書類ですが、従業員とのトラブルを防ぐためにも重要な書類です。

記載すべき事項は労働基準法施行規則などに定められていますが、法改正によって変わることもありますので注意しましょう。