専門業務型裁量労働制を導入する手順
法令で定める専門的な業務が自社にあるのであれば、専門業務型裁量労働制を導入することで業務の効率化が図れるなど、さまざまメリットを得られる場合があります。
そこで今回は専門業務型裁量労働制について解説します。どのような制度なのか、また、導入する手順もご紹介します。
専門業務型裁量労働制とは?
専門業務型裁量労働制とは、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務につかせた場合に、実労働時間にかかわらず労使協定で定めた時間の労働があったものとみなす制度です。
例えば、1日の労働時間を9時間労働したものとみなすと労使協定で定めるとします。その場合、1日に7時間労働したとしても、その日の労働時間は「9時間」とみなされます。10時間働いたとしても、その日の労働時間は「9時間」です。
また、専門業務型を導入する場合、企業は労働者に仕事の進め方や労働時間について指示をしてはならず労働者の裁量に任せなければなりません。
この制度は会社によってマッチする場合とそうでない場合がありますが、うまく導入できれば、さらなる業務効率化や生産性の向上、また、割増賃金(残業代)の削減などが期待できます。
対象業務は19種類
対象業務は、厚生労働省令および厚生労働大臣告示によって定められている19種類の業務です。適用する業務と労働時間と見なす時間などを労使協定で定める必要があります。
専門業務型裁量労働制を適用できる19種類の業務については、厚生労働省のホームページでご確認ください。
>専門業務型裁量労働制/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/
割増賃金について
割増賃金については、労働時間とみなす時間を1日の法定労働時間である8時間とし、休日や深夜に仕事をさせない限り発生しませんが、労働時間とみなす時間を9時間とした場合には毎日1時間分の割増賃金を支払う必要がありますし、休日や深夜に仕事をさせた場合にも割増賃金を支払わなければなりませんので注意が必要です。
専門業務型裁量労働制を導入する手順
ここからは専門業務型裁量労働制を導入する手順を解説します。
手順①:導入の検討
上記で説明したとおり、専門業務型裁量労働制を適用できる業務は法令で定められているため、そもそも社内にそのような業務がなければこの制度は導入できません。
まずは、対象となる業務があるのか、あるのであれば、その業務遂行の手段や方法、時間配分をその業務に就いている従業員の裁量に委ねて問題なく運用できるのかどうかなどについて調査したうえで、導入すべきかどうかを検討します。
手順②:労使協定を締結する
検討の結果、専門業務型裁量労働制を導入すべきと判断すれば、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、従業員の過半数で組織する労働組合がない場合には従業員の過半数を代表する者との間で、次の7つの事項を定めた労使協定を締結し、従業員に周知します。
- 制度の対象とする業務
- 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分などに関して対象従業員に具体的な指示をしないこと
- 労働時間としてみなす時間
- 対象従業員の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
- 対象従業員からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
- 労使協定の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています。)
- 上記4.および5.に関して従業員ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること
そのほか、時間外労働や休憩時間、休日労働、深夜労働について、専門業務型裁量労働制の対象従業員と、対象ではない従業員とで異なる取り扱いをする場合には、それらについても労使協定で定めておいた方が良いと言えます。
なお、労使協定書に決まった様式はありませんので任意の様式で作成しても構いませんが、このあと説明する労働基準監督署に届け出る様式(専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13号))を労使協定書とすることもできます。
手順③:就業規則を変更する
専門業務型裁量労働制を適用する従業員には、一般的な始業・終業時刻(就業規則の絶対的記載事項)やその他のルールが適用されなくなりますので、就業規則にも専門業務型裁量労働制を適用する従業員に関するルールを追加しなければなりません。
就業規則を変更したあとは、労働組合または労働者代表の意見を聴いたうえで確定させ(「意見書」の作成も必要)、従業員に周知します。
※従業員数が10人未満の事業所については就業規則を作成する義務がないため、就業規則ではなく就業規則に準ずるものに定めても構いません。
なお、労働組合または労働者代表の意見書については以下からダウンロードできます。
>様式集 労働基準法関係/東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/youshikishu_zenkoku.html
手順④:協定届・就業規則を届け出る
労使協定の締結と就業規則の変更が完了すれば、「専門業務型裁量労働制の協定届(様式第13号)」と、変更した就業規則(「就業規則(変更)届」と労働組合または労働者代表の「意見書」を含む)をそれぞれ2部(届け出用+会社の控用)、管轄の労働基準監督署に郵送するか窓口に直接届け出ます。(会社の控え用には受理印を押されて返却されます。)
※労使協定を任意様式で作成した場合にはその内容を上記の協定届に落とし込む必要があります。
※従業員数が10人未満の事業所については就業規則に準ずるものの届け出は不要です。
なお、「専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13号)」および「就業規則(変更)届」については以下からダウンロードできます。
>専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13号)/e-Gov
https://elaws.e-gov.go.jp/data/322M40000100023_20210401_502M60000100203/pict/2FH00000036421.pdf
>様式集 労働基準法関係/東京労働局
まとめ
今回の記事では、専門業務型裁量労働制について解説しました。専門業務型裁量労働制は労働時間にとらわれず柔軟な働き方ができる反面、長時間労働を引き起こす可能性もあります。制度導入後は労働者の労働状況を把握し、適切に運営していくことが大切です。