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労務の手続き⑦~従業員が退職した時~

従業員が退職した場合には、様々な手続きが必要になります。

退職者が健康・厚生年金・労災・雇用の各保険のすべてに加入していた場合、労災・雇用の労働保険のみに加入していた場合、労災保険のみに加入していた場合など、ケースごとに対応が異なるため、状況に応じて適切に手続きしなければなりません。

そこで、以下では、従業員が退職した時の労務の手続きについて解説していきます。

従業員が退職した時の社会保険の手続き

提出書類、提出期限、提出先

従業員が退職した時に、退職した方が社会保険(健康保険、厚生年金)に加入していた場合には、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を、退職した日から起算して5日以内に、管轄の年金事務所に提出する必要があります。

全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)の被保険者は、喪失届の提出時に健康保険証も返却します。もし、退職した方に健康保険の被扶養者がいる場合には、被扶養者証も一緒に返却します。健康保険証(被扶養者証を含む)を返却できない場合には、被保険者証回収不能届も併せて提出します。

届出書は、年金事務所の窓口で無料で入手できるほか、日本年金機構のホームページからダウンロードする方法もあります。

任意継続制度について

健康保険には任意継続制度が設けられています。この制度は、本来であれば、会社が加入している健康保険(社会保険)は、その会社に勤務するサラリーマンの方しか加入できませんが、退職日の翌日から20日以内に申し込むことによって、原則として退職日の翌日から最長2年間、退職前に加入していた健康保険に個人で任意に加入できるというものです。

退職後に国民健康保険に加入するよりも、この制度を利用したほうが保険料は安くなる場合が多いです。この制度について、会社が退職者に説明をする義務はありませんが、退職者の福利のためにも、案内をしてあげることが望ましいです。

退職者の社会保険料を徴収するときの注意点

社会保険の対象者であった従業員が退職した場合、退職した日の翌日が、社会保険で言う資格喪失日となります。社会保険料の徴収規則においては、資格喪失日が属する月は、保険料を徴収しないことになっています。

例えば、3月21日に退職した場合には、資格喪失日は退職日の翌日の3月22日ですから、3月分の社会保険料は徴収されないことになります。このケースでは、2月分の社会保険料のみを翌月末日の3月31日までに年金事務所に納めればよいことになります。

月末に退職した従業員がいる場合

一方、月末退職の場合には、資格喪失日が翌月1日ですので、退職月分の社会保険料を支払う必要があります。例えば、3月31日に退職した場合には、4月1日が資格喪失日となり、4月分の保険料は徴収されませんが、3月分の保険料は徴収されます。その場合には、3月分の保険料を4月30日までに年金事務所に納める必要があります。

要するに、月末退職以外の場合には、退職月分の社会保険料は支払う必要はありませんが、月末退職の場合には、退職月分の社会保険料を支払う必要があります。

従業員が退職したときの労災保険の手続き

年度更新の際に対応するケース

従業員が退職しても、事業所で雇用する労働者数が0人にならない場合は、従業員が退職した日が属する年度に対応する年度更新の際に、途中退職があったことで概算保険料額より少ない保険料額で確定申告を行えば、それで事足ります。

事業所で雇用する労働者が0人となった場合であっても、同時に事業を廃止しない限りは、直近の年度更新の時期に概算保険料より低い金額の確定保険料の申告を行えば、それで事足ります。

50日以内に対応が必要なケース

一方、事業所で雇用する労働者数が0人となった場合で、再び労災保険の加入対象となる労働者を雇う可能性がない場合には、退職の事実があった日から起算して50日以内に、労災保険の確定保険料申告書を、管轄の労働基準監督署や都道府県労働局などに提出して保険料の清算を行います。

また、保険料を清算した結果、すでに納付した概算保険料が確定保険料よりも多い場合は、労働保険料還付請求書を提出して保険料の還付を受けます。

従業員が退職した時の雇用保険の手続き

提出書類、提出期限、提出先

退職した従業員が雇用保険の被保険者である場合、退職日の翌日から起算して10日以内に、管轄のハローワークに、雇用保険被保険者資格喪失届を提出する必要があります。

退職者が離職票の交付を希望した場合は、資格喪失届とともに雇用保険被保険者離職証明書も提出しなくてはなりません。離職証明書は、ハローワークでの確認が済むと、事業所控えと退職者交付用(離職票)が戻ってきますので、退職者交付用は、郵送等で退職者に交付し、事業所控えは会社に保管しておきます。

離職証明書は、退職者が離職票の交付を希望しない場合には、資格喪失届に添える必要はありません。ただし、離職者が離職の日において59歳以上である場合には、本人が離職票の交付を希望しない場合でも、必ず、資格喪失届に離職証明書を添える必要があります。

従業員数が0人になった場合

従業員が退職することによって、雇用保険の対象となる従業員数が0人になった場合で、その年度の3月31日までに新たに雇用保険の被保険者になる労働者を雇用する見込みがないときは、同時に、雇用保険適用事業所廃止届を管轄のハローワークに提出する必要があります。提出期限は、従業員が退職した日の翌日から起算して10日以内です。

従業員が退職した場合に、会社が営業する事業が労災保険と雇用保険の手続きを別々に行う二元適用事業に該当する場合や、労災保険と雇用保険の手続きを一括して行うことができる一元適用事業であって、労災保険の方で、今後、労災保険の対象となる従業員を雇う見込みがなくなる場合には、従業員が退職した日から起算して50日以内に、労働保険料の確定申告を行う必要があります。

従業員が退職した後に、雇用保険対象の労働者数は0人となるが、事業所に労災保険の対象となる労働者が残る場合には、二元適用事業に該当する場合を除き、労働保険の保険料の確定申告手続きは不要です。

従業員が退職した場合の社会保険・労働保険以外の手続き

税金の手続き

従業員が退職した場合には、税金(所得税)の清算手続きを行い、源泉徴収票を作成して、退職者に交付する必要があります。

この源泉徴収票は、会社が支払った給与や賞与の支給総額や、その総支給額から差し引いた所得税額などを記載した書面です。退職した方が再就職する際や確定申告を行う際に必要になる大切な書類ですので、必ず交付しなければなりません。

年金手帳等の返還

年金手帳や雇用保険被保険者証を預かっている場合には、必ず退職者に返還します。年金手帳や雇用保険被保険者証は、退職された方が再就職したり、ハローワークで基本手当を受けたりする際に必要になりますので、忘れずに返却してください。

この他、会社が退職者から預かっている備品などがあれば返却します。反対に、退職者に交付した制服やパソコン等の貸与品などがあれば、退職前に回収しておきましょう。