労務の手続き⑧~就業規則について~
会社を設立した後、業績が順調に伸びていき、従業員が増えて10名以上になると、就業規則を作成して労働基準監督署に届出をする必要が出てきます。
就業規則は、労務に関する基本的なルールを定めたものですが、会社とその会社で働く従業員の間でトラブルが起こった時に、そのトラブルを解決する際の指針となります。また、労務に関するトラブルを予防する効果もあります。
今回は、この就業規則について説明します。
就業規則とは何か
就業規則とは、使用者が定める始業および終業の時刻、休憩時間、休憩・休暇等、賃金の決定・計算及び支払いの方法等、事業場全体に適用される服務規律のことです。簡単に言えば、使用者が作成した職場の労働条件などを記載した文書のことです。
就業規則の作成義務
就業規則は、常時使用する労働者の数が10人以上となった場合に、作成義務が生じます。
従って、常時使用する労働者の数が10人未満の小規模な事業所では、就業規則を作成する必要はありません。しかし、就業規則があれば、職場で働くルールが明確になるため、小規模な会社であっても、任意で作成することは可能です。
就業規則の作成義務がある場合で、就業規則を作成した場合は、管轄の労働基準監督に届出る必要があります。その際に、その会社(事業所)で働く労働者の過半数を代表する者などの意見書を添付する必要があります。
就業規則の作成義務がない小規模な事業所が任意に就業規則を作成した場合は、労働基準監督署への届出は不要です。
就業規則で定める基準
就業規則で定める基準は、労働基準法で定める基準より労働者に不利なものであってはならないとされています。一方で、労働基準法で定める基準より労働者に有利な基準を就業規則で定めることは、一向に構いません。
ただし、企業の経営体力から、労働基準法で定める基準よりも有利な基準を就業規則で定めることができる企業は限られています。そのため、多くの会社の就業規則の大部分は、労働基準法の基準通りに作成されています。
結局、その会社の就業規則は、労働基準法のうちその事業所に適用される条項のみを抜粋した“ミニ労働基準法”的なものになる傾向があります。
就業規則の記載事項
就業規則の記載事項には、絶対的記載事項と任意的記載事項の2つがあります。
絶対的記載事項
絶対的記載事項は、就業規則を作成する場合には必ず記載しなければならない事項です。
必要的記載事項は、次のとおりです。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等
- 賃金(臨時の賃金を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇に関する事由を含む)
任意的記載事項
任意的記載事項は、使用者がそれに関する定めを設けない場合には、就業規則に記載がなくても問題はありません。
就業規則を労働基準監督署に届け出た場合、必要的記載事項の全てが記載されていない就業規則は受理しません。しかし、任意的記載事項については、その記載が全くなくても、必要的記載事項がすべて揃っていれば、提出された就業規則を受理します。必要的記載事項のみで構成された最小限の就業規則も成立し得るということです。
相対的記載事項は、次のとおりです。
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(退職手当に関する事項は除く)及び最低賃金に関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めに関する事項
- 安全衛生に関する定め
- 職業訓練に関する定め
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定め
- 表彰及び制裁の定め
- 上記以外で、事業場の労働者のすべてに適用される定め
小規模事業所が就業規則を作成するメリット
常時使用する労働者の数が10人未満の小規模事業所は、法律上の就業規則の作成義務がありません。こういった小規模事業所では、就業規則を作成するかどうかは、経営者の任意の判断に委ねられています。1人会社や、従業員全員が会社代表者の親族というような小規模な会社であれば、就業規則を作成する必要はないと思います。
しかし、ハローワークなどを通じて従業員を採用する場合には、会社での働く規則を明確にするために、就業規則を作成したほうが良いケースがあります。新規に会社を設立した場合には、初めて外部から従業員を雇用した時に、就業規則を作成するかどうかの最初の判断の時期ということになります。
就業規則を作成するメリットとしては、職場でのルールが明確になるので、会社と労働者とのトラブルが起こりにくくなることと、トラブルが発生した場合に、その解釈の指針があるので、問題が解決しやすくなることがあげられます。また、就業規則を作成していると、会社の信用力が増しますので、対外的なイメージアップが可能で、また、新規従業員を採用しやすくなる可能性もあります。
会社が就業規則を作成していないと、厚生労働省関係の助成金が申請できないというケースも結構あります。就業規則の作成義務のない会社が助成金を申請する場合、助成金申請のためだけに就業規則を作成することもあります。
就業規則を作成するとこういったメリットがあるので、作成義務のない小規模な会社を経営されている方でも、外部から長期雇用の従業員を雇う場合には、もし余裕があれば、作成しておいた方が良いでしょう。
就業規則はどうやって作成するか
インターネットからは、就業規則の雛形が簡単にダウンロードできます。特に、東京労働局のホームページからダウンロードできる雛形は、信頼性が高く、利用価値があります。
会社の経営者の方が、インターネットからダウンロードで雛形を取得し、それを自分の会社に合わせてカスタマイズしてそれを就業規則とすることも、もちろん可能です。そういった方法で作成した就業規則でも、要件をクリアしていれば、労働基準監督署で受理してくれます。
しかし、会社の重要文書である就業規則をそういった方法で作成するのは、いかがなものかという考えもあります。やはり、労働基準法に詳しい専門家に作成を依頼するのがよりよい方法です。業として就業規則の作成代行が可能な士業に社会保険労務士があります。
社会保険労務士に就業規則を依頼した場合には、専門家の観点から、依頼先の会社にカスタマイズした就業規則を作ることができます。また、助成金申請のために就業規則を作成する場合には、その後の助成金の申請手続きもセットで依頼することができます。