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健康診断の実施は企業の義務 違反したら罰金も

企業が対象となる従業員に健康診断を実施することは法律上の義務であり、実施しないと罰則を科されることもあります。

今回は、健康診断の実施義務の概要や、各種健康診断の詳細について解説します。

企業の義務である健康診断の実施、その概要とは?

労働安全衛生法では、事業者は対象となる労働者に対して医師による健康診断を行わなければならないことが規定されており、企業が健康診断を実施することは法律上の義務になっています。

※原則として対象となる労働者にも健康診断を受診することが義務付けられています。

まずは、健康診断の実施対象となる従業員の範囲など、企業が認識しておくべき健康診断の実施義務の概要について説明します。

健康診断の種類

企業に実施義務がある健康診断の種類については、このあと詳しく説明しますが、大きく分けると、一般業務に従事する労働者に実施しなければならない一般健康診断と、一定の有害な業務に従事する労働者に実施しなければならない特殊健康診断に分けられます。

対象となる従業員の範囲

健康診断の実施対象となる従業員の範囲は、上記の一般健康診断と特殊健康診断によって変わってきますが、それぞれ次のように整理されています。

一般健康診断

まず正社員には必ず実施しなければなりません。さらに、無期契約従業員契約期間が1年以上の有期契約従業員契約期間が6か月以上1年未満の有期契約従業員(※)のうち、週所定労働時間が正社員の4分の3以上である者にも実施が必要です。

※このあと説明する「特定業務従事者」に限り健康診断を実施する義務があります。

なお、無期契約従業員、契約期間が1年以上の有期契約従業員、契約期間が6か月以上1年未満の有期契約従業員(※)のうち、 週所定労働時間が正社員の2分の1以上4分の3未満である者については実施することが望ましいとされています。

※上記と同様、このあと説明する「特定業務従事者」に限り健康診断を実施することが望ましいとされています。

特殊健康診断

契約形態および週所定労働時間によらず、あくまで有害業務に常時従事する労働者には必ず実施しなければなりません。

費用・受診に要した時間の賃金の考え方

健康診断の費用や受診に要した時間の賃金をどのように考えるのかについては、少し古いですが、厚生労働省(当時は労働省)の通達「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」(昭和47年9月18日・基発第602号)で次のように示されています。

①健康診断の費用

労働安全衛生法に基づいて実施される健康診断の費用は事業者が負担すべきである。

②一般健康診断の受診に要した時間の賃金

労使協議により定めるべきものであるが、事業者は受診に要した時間の賃金を支払うことが望ましい。

③特殊健康診断の受診に要した時間の賃金

特殊健康診断は事業の遂行上、実施するものであるため、事業者は受診に要した時間の賃金を支払わなければならず、それが時間外に行なわれた場合には割増賃金も支払わなければならない。

罰則

対象となる従業員に健康診断を実施しないと、労働安全衛生法違反となり、50万円以下の罰金に処される可能性があります。

※健康診断の実施対象となる従業員が受診を拒否した場合の罰則は定められていません。

また、健康診断を実施して、その結果などの情報を漏洩した場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性もありますので、その情報管理の徹底も必要です。

実施義務がある健康診断①:一般健康診断

労働安全衛生法第66条第1項では、事業者は労働者に対して医師による健康診断を行わなければならないと規定されています。

この健康診断は一般健康診断と言われていますが、次のような種類があります。

雇入時の健康診断

常時使用する労働者を雇い入れる際に実施しなければなりません。

定期健康診断

常時使用する労働者については、1年以内ごとに1回、定期に実施しなければなりません。

特定業務従事者の健康診断

次の業務に常時従事する労働者については、当該業務への配置替えの際、その後6月以内ごとに1回、定期に実施しなければなりません。

  • 多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務
  • 多量の低温物体を取り扱う業務および著しく寒冷な場所における業務
  • ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • 土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所における業務
  • 異常気圧下における業務
  • さく岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
  • 重量物の取り扱いなど重激な業務
  • ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  • 坑内における業務
  • 深夜業を含む業務
  • 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  • 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務
  • 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
  • その他厚生労働大臣が定める業務

海外派遣労働者の健康診断

海外に6か月以上派遣する労働者については、派遣する際、また、帰国後に国内業務に就かせる際に実施しなければなりません。

給食従業員の検便

事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者については、雇入れの際、当該業務への配置替えの際に検便による健康診断を実施しなければなりません。

実施義務がある健康診断②:特殊健康診断等

労働安全衛生法第66条第2項および第3項、また、その他の法令では、一定の有害な業務に従事する労働者に対して、医師による特別の項目についての健康診断を行わなければならないと規定されています。

この健康診断をまとめて特殊健康診断と言うこともありますが、ここでは次のとおり、労働安全衛生法第66条第2項を根拠としている健康診断を特殊健康診断とし、じん肺健康診断と歯科医師による健康診断を分けて説明しています。

特殊健康診断

次の有害な業務に常時従事する労働者については、原則として、雇入れの際当該業務への配置替えの際その後6か月以内ごとに1回、定期にそれぞれ特別の項目についての健康診断を実施しなければなりません。

  • 屋内作業場等における有機溶剤業務
  • 鉛業務
  • 四アルキル鉛等業務
  • 特定化学物質を製造または取り扱う業務
  • 高圧室内業務または潜水業務
  • 放射線業務
  • 除染等業務
  • 石綿の粉じんを発散する場所における業務

じん肺健康診断

常時、粉じん作業に従事する労働者および従事したことのある労働者については、次の健康診断を実施しなければなりません。

①就業時健康診断

新たに常時、粉じん作業に従事することになった労働者については、その就業の際に実施しなければなりません。

②定期健康診断

常時、粉じん作業に従事する労働者および過去に常時、粉じん作業に従事していた労働者については、管理区分(※)に応じて1年から3年以内ごとに1回、実施しなければなりません。

③定期外健康診断

常時、粉じん作業に従事する労働者が一般健康診断などで「じん肺の所見あり」または「じん肺の疑いあり」と診断されたときに遅滞なく実施しなければなりません。

④離職時健康診断

常時、粉じん作業に従事する労働者および過去に常時、粉じん作業に従事していた労働者が離職の際にじん肺健康診断の受診を希望したときに遅滞なく実施しなければなりません。(前回のじん肺健康診断から一定期間が経過しているなどの要件あり)

管理区分とは、粉じん作業に従事する労働者ごとに、じん肺の進行度合いに応じて決定されている管理1から管理4までの区分のことを言います。以前の健康診断で、「じん肺の所見なし」と診断されれば、管理1となり、「じん肺の所見あり」と診断されれば、都道府県労働局がエックス線写真などをもとに管理2から管理4のいずれに該当するのかを決定することになっています。

歯科医師による健康診断

塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りん、その他歯またはその支持組織に有害なガス、蒸気、粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者については、雇入れの際、当該業務への配置替えの際、その後6か月以内ごとに1回、定期に歯科医師による健康診断を実施しなければなりません。

まとめ

企業には、正社員および正社員に近い労働時間であるパートタイム従業員などに健康診断を実施する法的義務があります。

対象となる従業員に健康診断を実施しないと、罰則を科される可能性がありますし、その従業員が健康を害した場合には企業として安全配慮義務違反の責任を問われる可能性もあります。健康診断は法律に従って適切に実施するようにしましょう。