登記は必要?役員報酬を変更するときの手順
役員報酬の変更は、会社法や法人税法のルールに従って行わなければなりません。
今回は、役員報酬の決定・変更に関するルールを説明したうえで、役員報酬を変更するときの手順について解説します。
役員報酬の決定・変更に関するルール
役員報酬を決定・変更するためには、会社法や法人税法上のいくつかのルールがあります。まずはそのルールについて説明します。
役員報酬は定期同額であること
従業員に支払う給与は、原則としてその全額を税務上の損金(費用や損失など)に算入することができますが、役員報酬を損金に算入するためには、法人税法上、1年間、毎月同額が支払われるものでなければならないという要件があります。
これを定期同額給与と言いますが、会社としては法人税節税のためにも毎月支払う役員報酬はこの定期同額給与にすることになります。
損金に算入できる役員報酬としては、この定期同額給与のほかに、賞与として支払う場合などに活用する事前確定届出給与や、業績に連動して支払う業績連動給与というものもありますが、この記事では定期同額給与の変更について説明しています。
決定・変更については株主総会で決議すること
役員報酬は、会社法上、定款で定めるか株主総会の決議によって定めることになっていますので、会社設立時に初めて役員報酬を決める場合でも、その後、役員報酬を変更する場合でもこの手続きが必要になります。
ただし、役員報酬を定款で定めると、役員報酬を変更する度に定款も変更しなければなりませんので、一般的には株主総会の決議によって定めます。
変更は事業年度の開始から3か月以内に行うこと
役員報酬の変更は、原則として事業年度の開始から3か月以内に行うことが必要です。
例えば、事業年度の開始が4月1日の会社であれば、6月30日までに変更するということですが、これは、事業年度の開始から3か月以内に役員報酬を変更すれば、その事業年度の役員報酬の全額を損金に算入できるためです。
仮に、事業年度の開始から3か月を超えて役員報酬を増額すると、増額した分は損金に算入できず、事業年度の開始から3か月を超えて減額すると、減額前の役員報酬も含めて減額後の役員報酬を基準に損金に算入されますので注意が必要です。
役員報酬を変更しても登記手続きは不要
登記簿の役員に関する記載事項は、代表取締役や取締役、監査役、会計参与などの氏名(代表取締役については住所も記載事項)、就任日などです。
役員報酬については登記簿の記載事項ではありませんので、役員報酬だけを変更しても登記の変更手続きは不要です。
役員に関して、登記の変更手続きが必要になるのは、新たに役員が就任したときや退任したとき、また、重任(再任)したとき、婚姻その他の理由で氏名(正確には「氏」)が変わったときなどです。
取締役の役員報酬を変更するときの手順
上記で説明した役員報酬の決定・変更に関するルールを踏まえて、まずは、役員のうち取締役の役員報酬を変更するときの手順について説明します。
なお、ここでは、指名委員会等設置会社(指名委員会、監査委員会、報酬委員会を置く株式会社)ではない株式会社において、取締役の役員報酬を変更するときの手順について説明します。
手順①:株主総会の決議
上記で説明したとおり、役員報酬の変更は、事業年度の開始から3か月以内に株主総会で決議しなければなりませんが、一般的には、決算後3か月以内に定時株主総会を開催するため、そこで決議(※)することになります。
また、会社法上は、株主総会で取締役ごとの役員報酬を決議することまで求めていませんので、株主総会では変更する取締役の役員報酬の総額を決議し、各取締役への配分については取締役会に一任(取締役会を設置していない会社では、取締役の過半数の決定に一任)するか代表取締役に一任することが通常です。
※この際、求められる決議は普通決議であり、議決権(株主1人1票ではなく株の保有数で決まります。)の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成が決議の要件となります。
また、この株主総会で取締役の役員報酬の総額を変更したことなどについては、議事録を作成して保管しておく必要があります。議事録を作成しておかないと、税務調査が入ったときに、役員報酬の損金算入が否認されて、追徴課税などが発生することもありますので注意が必要です。
手順②:取締役会の決議
株主総会の決議によって、役員報酬を各取締役に配分することについて委任を受けた取締役会では、役員報酬の総額の範囲内で各取締役に配分する額を決議(※)します。(取締役会を設置していない会社では取締役の過半数で決定します。)
※原則として、取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数の賛成が決議の要件となります。
また、株主総会と同様ですが、この取締役会で各取締役の役員報酬を決定したことについては、議事録を作成して保管しておく必要があります。
手順③:年金事務所に「月額変更届」を提出
取締役の役員報酬を変更したことで、その取締役の社会保険上の標準報酬月額が2等級以上変わる場合には、役員報酬を変更してから3か月後(※)に、年金事務所または事務センター(日本年金機構)に「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」(一般的には「月額変更届」)を提出しなければなりません。
※この届出書類は、報酬が大幅に変わった状態が3か月続いたあとに提出することになっており、新たな標準報酬月額は報酬額が変わった月から4か月目に適用されます。
「月額変更届」については、以下の記事で詳しく解説しています。
監査役・会計参与の役員報酬を変更するときの手順
役員として、監査役や会計参与を設置している会社もありますが、監査役や会計参与の役員報酬を変更する場合でも、取締役の役員報酬の変更と同様に株主総会における決議(普通決議)を経て、その議事録を保管しておかなければなりません。
ただし、取締役の役員報酬の変更のように、そのあと取締役会でさらに配分額を決めるなどの手続きはなく、基本的には株主総会で決定することになります。これは、監査役や会計参与は取締役と違って独立性を確保すべき立場にあるためです。
また、監査役や会計参与がそれぞれ2人以上である場合には、取締役の役員報酬の変更のように株主総会では総額だけを決議して、個別の配分については監査役と会計参与との協議によって決定することもできます。
まとめ
上記のとおり、役員報酬の変更は、会社法や法人税法のルールに従って行わなければなりません。
役員報酬の変更が正しく行われているかどうかについては、税務調査でもよくチェックされますので、各法におけるルールを十分理解したうえで変更するようにしましょう。