【2023年4月中小企業対象】60時間超え割増賃金率引き上げについてわかりやすく解説
大企業では時間外労働が月60時間を超えると、計算した割増賃金率を50%以上とすることが労働基準法で定められています。
2023年4月1日からはこの「60時間超え割増賃金率引き上げ」ルールが中小企業にも適用されます。
本記事では2023年3月における最新情報を元に、中小企業の方向けに「60時間超えの割増賃金率引き上げ」ルールについて、わかりやすく解説します。
現行制度との比較
以下の図のように中小企業の場合、2023年3月までは時間外労働が月60時間を超えても割増賃金率は25%です。
しかし2023年4月以降は、時間外労働時間が月60時間を超えると、大企業も中小企業も割増賃金率が50%以上に引き上げられます。
出典 厚生労働省ウェブサイト https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
(参照2023.03.13)
中小企業とは
「①資本金の額または出資の総額」または「②常時使用する労働者の数」のどちらかがつぎの表に記載する数字以下であれば中小企業として扱います。
例えば小売業の場合は、資本金の額が5,000万円以上であっても、常時使用する労働者の数が50人以下であれば中小企業となります。
出典 厚生労働省ウェブサイト https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
(参照2023.03.13)
時間外労働が月60時間を超えた場合
冒頭で記載したとおり、中小企業も2023年4月1日より、時間外労働が月に「60時間を超える」と割増賃金率が引き上げられます。
改正ポイントは次の2点です。
- 時間外労働が月に60時間超える場合は割増賃金率が50%以上
- 割増賃金率引き上げ分の代わりに代替休暇を与えることができる
1.時間外労働が月に60時間超える場合は割増賃金率が50%以上
中小企業は2023年3月31日までは60時間を超えても割増賃金率は25%以上支払えば良いとされていましたが、2023年4月1日からは時間外労働が月に「60時間を超える」と割増賃金率が50%以上に引き上げられます。
「60時間を超える」とは、以下のとおりです。
- 月の残業時間が60時間まで:25%以上50%以下
- 月の残業時間が61時間から:50%以上
例えば、月に70時間残業をした場合、60時間までは25%の割増賃金率で計算し、61時間から70時間までは50%の割増賃金率で計算します。
- 月の残業時間60時間までの計算方法
1時間当たりの賃金額 × 60時間 × 1.25(25%) - 月の残業時間61時間から70時間までの計算方法
1時間当たりの賃金額 × 10時間 × 1.5(50%)
2.割増賃金率引き上げ分の代わりに代替休暇を与えることができる
時間外労働が月に「60時間を超える」と割増賃金率が50%以上に引き上げられますが、割増賃金を支払う代わりに、代替休暇を与えることができます。
あくまでも、代替休暇を取得すると決めるのは個々の労働者です。
事業主側が代替休暇の取得を強制することはできないため、注意しましょう。
この場合のポイントは次のとおりです。
- 労使協定が必要
- 代替休暇は1日または半日単位で取得する
- 代替休暇は2か月以内に取得する
一つずつ詳しく解説しますので、確認しましょう。
1.労使協定が必要
労使協定とは労働者と使用者との取り決めを書面により契約した協定のことです。
労使協定を締結することで、割増賃金の支払いに代えて代替休暇を与えることができます。この代替休暇を与えた場合は、通常の労働時間の賃金を支払うことになります。
代替休暇労使協定の締結事項
- 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
- 代替休暇の単位
- 代替休暇を与えることができる期間
- 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
2.代替休暇は1日または半日単位で取得する
代替休暇の単位は1日または半日に決められています。時間単位では付与できないため注意しましょう。
3.代替休暇は2か月以内に取得する
時間外労働の時間が1か月について60時間を超えた月の翌月から2か月以内に代替休暇を与えるようにしましょう。
例えば、4月に時間外労働が60時間を超えた場合、5月~6月に代替休暇を付与する必要があります。
時間外労働とは
そもそも時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働を指します。
例えば、1日に10時間働いた場合、法定労働時間(8時間)を超える分(2時間)を時間外労働として計算します。
原則時間外労働は禁止ですが、労使協定を締結し労働基準監督署に届出をすることで、時間外労働をおこなうことができます。
休日労働とは
労働基準法では、法定休日を週1回と定めています。
会社の休日を土曜日・日曜日と定めていても、法定休日は週1回となるため、土曜日に出勤しても、休日出勤ではなく時間外手当を支給します。
なお、休日労働の割増賃金率は35%以上です。
また、休日労働した場合は、時間外労働は適用されません。
例えば、1日の所定労働時間が8時間の会社で、休日に10時間働いたとしても所定労働時間を超える分(2時間)に時間外手当はつかず、10時間に休日労働の割増賃金率(35%以上)で計算した割増賃金を支払います。
深夜労働とは
深夜労働とは22時~翌朝5時に労働したことをいいます。
深夜労働の割増賃金率は25%以上です。
深夜労働と時間外労働は同時に適用することができるため、時間外労働が深夜まで続いた労働者には以下のとおりに割増賃金率で計算した割増賃金を支払いましょう。
- 時間外労働+深夜労働
25%以上+25%以上=50%以上 - 時間外労働60時間超え+深夜労働
50%以上+25%以上=75%以上
割増賃金率早見表
時間外労働や休日労働などの割増率の早見表を作成しましたので、ぜひご活用ください。
労働 | 割増率 |
①時間外労働 | 25%以上 |
②休日労働 | 35%以上 |
③時間外労働60時間超え | 50%以上 |
④深夜労働 | 25%以上 |
⑤時間外労働+深夜労働 | 25%以上+25%以上=50%以上 |
⑥時間外労働60時間超え+深夜労働 | 50%以上+25%以上=75%以上 |
⑦休日労働+深夜労働 | 35%以上+25%以上=60%以上 |
⑧時間外労働+休日労働 | 35%以上 |
【時間外労働の計算方法】
具体例で割増賃金の計算方法を確認しましょう。
【条件】
時間外労働 70時間
1時間当たりの賃金額 1,500円
月60時間以下の割増賃金率25%
月61時間以上の割増賃金率50%
【計算式】
1,500円×1.25×60時間=112,500円
1,500円×1.5×10時間=22,500円
112,500円+22,500円=135,000円
上記の条件の場合、時間外労働の賃金は135,000円です。
中小企業の対策
中小企業は以下の3点を実施しましょう。
- 就業規則を変更する
- 労働時間と個人の能力を正確に把握する
- 業務の効率化を図る
1.就業規則を変更する
2023年4月から中小企業の「60時間越え割増賃金率引き上げ」ルールが適用されるため、それに合わせて就業規則を変更する必要があります。
時間外労働が月60時間を超える場合は割増賃金率が50%以上になる旨を加えましょう。
また、割増賃金を支払う代わりに代替休暇を付与する場合は、代替休暇についての記載も必要です。
厚生労働省が就業規則の記載例を発表しています。
以下の記載例を参考に、自社の就業規則の見直しをおこないましょう。
出典 厚生労働省ウェブサイト https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
(参照2023.03.13)
2. 労働時間と個人の能力を正確に把握する
時間外労働が常態化していて、従業員の労働時間を把握できていない会社は、勤怠管理システムを整備し、従業員の労働時間を正確に把握することから始めましょう。
労働者と使用者が残業に対する意識を変えることで、時間外労働の削減につなげることができます。
また、労働者個人の能力と業務量が適正か確認することも重要です。
能力に合わない業務量を抱えている労働者には、業務量の調整をおこなうことも使用者の責務です。
3.業務の効率化を図る
時間外労働の削減のみを指導しても、業務量が通常のままであれば、労働者は不満がたまり、人材の流出につながります。
無駄な作業を洗い出し業務の効率化を図ることで、従業員の負担を減らしましょう。
フレックスタイム制を導入すると、その日の仕事量や時間に合わせて労働時間を調整することができます。忙しくない日は早く帰宅し、その分の時間を忙しい日に充てることできるため、無駄な時間外労働をカットすることにつながります。
まとめ
自社で時間外労働の削減を図っても、取引先から連絡がくると、結局時間外労働をしてしまうケースが多くあります。
社会全体で時間外労働を削減する取り組みをする必要があるといえるでしょう。
時間外労働は健康を害する恐れがあり、月60時間を超える時間外労働は、脳や心臓疾患の発症そして過労死のリスクが高まります。
時間外労働が多くなりすぎないように、適正な人員の確保や生産性の向上を図ることは、企業側にも労働者側にもメリットがあります。
そして時間外労働を減らし、ワークライフバランスに配慮することで、従業員のモチベーションの向上や、優れた人材の確保につながります。
今回の改正をきっかけに、時間外労働を削減し、従業員の健康に配慮したより働きやすい環境を整えてみてはいかがでしょうか。