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所得控除を受けるために知っておきたい、小規模企業共済等掛金控除とは?

所得控除とは?

所得控除には、社会保険料控除や生命保険料控除、配偶者控除など合計15種類ありますが、小規模企業共済等掛金控除もこの所得控除の1つです。

そもそも所得控除とは、所得税の額を計算する際に、所得から一定の金額を差し引くことをいいます。要件に当てはまるものがあれば年末調整や確定申告の際に申告することで、所得控除ごとに定められている額を所得額(年間収入額から、会社員であれば給与所得控除額、個人事業主であれば必要経費を差し引いた額)から差し引くことができます。

所得額から所得控除額を差し引いた額を「課税所得額」(所得額-所得控除額=課税所得額)と言いますが、所得税額はこの課税所得額に所得税率を乗じて計算することになっています。このため、所得控除額が多ければ多いほど課税所得額が少なくなり、その結果、納付すべき所得税が少なくなる、つまり、節税につながるということです。

小規模企業共済等掛金控除とは?

小規模企業共済等掛金控除の対象となるものは、次の3つの制度に支払った掛金になります。

小規模企業共済

小規模企業共済とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(一般的に「中小機構」と言われています。)が運営しているもので、個人事業主が廃業、会社の役員が退任した場合に、それまでに支払ってきた掛金に応じた共済金を受け取ることができれるという制度です。

個人事業主や会社の役員には退職金が支給されないため、これらの方のための退職金制度と言えるものです。

確定拠出年金

確定拠出年金には、企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。

※「DC」とは「確定拠出年金」の英語表記「Defined Contribution」の略です。

企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業型年金規約の承認を受けた企業(事業主)が実施主体となり、企業が掛け金を毎月積み立てて(拠出)、従業員(加入者)が年金資金を運用していく制度です。

従業員(加入者)は運用商品を選んで資産運用を行い、一般的に定年退職となる60歳以降から積み立てた年金資産を一時金(退職金)または年金で受け取ることができます。(企業によっては一時金と年金の組み合わせで受け取ることも可能です。)

 一方、個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、国民年金基金連合会が実施主体となるもので、個人事業主や会社員個人などが自身で加入者となり、掛金を拠出し、年金資金を運用していく制度です。

こちらも加入者は運用商品を選んで資産運用を行い、原則として60歳以降から積み立てた年金資産を一時金や年金、また、一時金と年金の組み合わせで受け取ることができます。

心身障害者扶養共済制度

心身障害者扶養共済制度(一般的に「障害者扶養共済制度」と言われています。)とは、各都道府県・指定都市が条例に基づいた実施主体となるもので、障害のある方を扶養している保護者が任意に加入する制度です。

保護者(加入者)が毎月、掛金を支払うことにより、保護者(加入者)が死亡したり、重度障害に陥ったりした場合に、障害のある方に終身一定額の年金が支給されます。

なお、この制度において加入者(保護者)が支払う掛金の管理や運用などは、各都道府県・指定都市ではなく独立行政法人福祉医療機構が行っています。

小規模企業共済等掛金控除を受けるための手続き

小規模企業共済等掛金控除を受けるための手続きは、会社員であるのか個人事業主等であるのかによって異なります。具体的には次のとおりです。

会社員の手続き

会社員等の給与所得者については、一般的に年末調整(会社員であっても別に確定申告することも可)の際に上記で説明した対象となる制度の掛金(1年間で支払った額の合計)を「給与所得者の保険料控除申告書」に記載し、制度を運営実施する団体が発行した掛金の支払い証明書(掛金払込証明書など)を添付して会社に提出します。

なお、企業型確定拠出年金(企業型DC)などで企業側が掛金を支払っている場合には企業側がその額を把握していますので従業員が年末調整時に申告する必要はありません。

個人事業主等の手続き

個人事業主等については、確定申告書の小規模企業共済等掛金控除の欄に掛金の額を記入(入力)するほか、会社員と同様に制度を実施する団体が発行した掛金の支払い証明書(掛金払込証明書など)を確定申告書に添付または提示します。

小規模企業共済等掛金控除を受ける場合の注意点

 小規模企業共済等掛金控除を受ける場合の注意点として、まず挙げられるのは、控除対象となる掛金は共済契約者や加入者である本人が支払った掛金に限られるということです。

例えば、小規模企業共済では個人事業主本人だけでなく個人事業主の配偶者や後継者などの共同経営者も加入できるようになっています。このため、個人事業主本人とともに共同経営者である配偶者も加入し、配偶者の掛金を個人事業主の方が支払っているケースも多々あります。しかし、そのような場合に配偶者分の小規模企業共済の掛金は控除の対象となりません。控除を受けることができるのは、あくまで個人事業主本人分の掛金のみになります。

これは、小規模企業共済の毎月の掛金は本人名義の預金口座からの振替による払込みであり、本人以外の名義で支払うということがあり得ないため、という考え方によります。生命保険料控除などでは、本人以外の保険料を控除対象とすることが可能ですが、これとは考え方が異なるので注意が必要です。

また、小規模企業共済等掛金控除の対象となる制度の掛金が複数ある場合には、すべての掛金の合計額で控除を受けることができます。対象となる制度ごとに掛金の上限が定められていますが、控除額自体に上限はありませんので、対象となる制度の掛金が複数ある場合には必ずそのすべてを申告するようにしてください。

最後に、小規模企業共済等掛金控除を受けるためには、対象となる制度を運営実施する団体から11月頃に送られてくる掛金の支払い証明書(掛金払込証明書など)が必要になります。年末調整や確定申告まで大切に保管するようにしてください。

なお、対象となる制度に10月以降に加入した場合、その加入時期に応じて掛金の支払い証明書の送付は遅くなります。このため、会社員でも所属する会社の年末調整の締め切りまでに掛金の支払い証明書を入手できていなければ、自身で確定申告をしなければなりません。

小規模企業共済等掛金控除の税務上のメリット

所得控除を大きく2つに分けると、小規模企業共済等掛金控除や社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除のように所得税を納めるべき者が支払った掛金や保険料、医療費の額を基準として控除額が決まるもの(物的控除)と、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除のように所得税を納めるべき者に一定の要件を満たす方がいる場合にその状況に応じて控除額が決まるもの(人的控除)があります。

前者の所得税を納めるべき者が支払った掛金や保険料、医療費の額を基準として控除額が決まるもの(物的控除)で言えば、その支払った全額が控除額となるのは、小規模企業共済等掛金控除と社会保険料控除だけです。

例えば、小規模企業共済の月額掛金は、1,000円から7万円までの範囲内(500円単位)で設定できることになっていますが、月額掛金を最大の7万円としている場合には、7万円×12か月=84万円を所得から控除できます。

このため、小規模企業共済等掛金控除の対象となる制度に加入しているのであれば、その掛金を申告することで大きな節税につながりますし、そもそも小規模企業共済や確定拠出年金などは社会保険料と違って、老後のための貯蓄的な意味合いを持つものであるため、貯蓄をしつつ節税もできるというのが最大のメリットと言えるでしょう。

まとめ

上記で説明したとおり、小規模企業共済等掛金控除の対象となる小規模企業共済や確定拠出年金などの掛金を支払っている場合、支払った掛金の全額を所得額から控除することが出来るため、かなりの節税効果があります。

一方で、小規模企業共済は、掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約をした場合は元本割れしますし、確定拠出年金は原則として60歳まで引出しすることができないなど一定の制限があります。これから小規模企業共済等掛金控除の対象となる制度に加入しようと考えている方は、節税以前にリタイア後の生活を考えて各制度の内容を十分に確認、理解したうえで加入するようにしましょう。