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古物商許可に求められる営業所とは何か
古物商許可を取得するには、まず営業所(事務所)の設置が不可欠です。ただの住所貸しや名義上の拠点では認められず、実際に古物営業を行うための実体ある拠点であることが求められます。
警察(公安委員会)のガイドラインでは、営業所には以下のような条件が必要です。
- 「一定期間の契約」:賃貸借契約などにより、継続的に使用できる権限があること
- 「独立管理のできる構造設備」:仕切られた区画で、管理者が常駐し、古物台帳や古物商品を保管できる構造であること
つまり、営業所は現実に存在し、業務が可能な物理的空間でなければなりません。これは自宅でも賃貸オフィスでも構いませんが、「独立性」と「実在性」が重視されます。
さらに、古物営業法第13条では、営業所ごとに1名の管理者(古物営業管理者)を置くことが義務付けられています。許可申請時には営業所の住所とともに、この管理者の情報も届け出る必要があります。
近年では、インターネットのみで古物取引を行うケースも増えていますが、それでも営業所の設置は免除されません。ネットショップで完結するビジネスであっても、帳簿を保管し、標識を掲示し、必要に応じて警察の立ち入りが可能な拠点が必要です。
要するに、営業所とは単なる書類上の所在地ではなく、古物営業を「実体として行う」場であり、そのための最低限の機能と設備を備えている必要があります。
バーチャルオフィスは営業所として認められる?
結論から言うと、原則としてバーチャルオフィスを古物商の営業所とすることはできません。古物商許可の申請では、独立した実体のある営業所を用意することが前提条件だからです。
バーチャルオフィスとは、他社が提供する住所や電話番号を借りるサービスで、自分は住所のみを借りている状態です。その住所で実際に業務を営んでいるわけではないため、営業実態が存在しないとみなされます。
たとえば「出張買取専門」などで自宅住所を公開したくないという理由から、バーチャルオフィスを営業所として申請しようとするケースがありますが、これは認められません。実態のない場所では、取引相手が訪れても誰にも会えず、古物営業が行われていないため、公安委員会は営業所と認めることができません。
バーチャルオフィスが使えない主な理由を整理すると次のとおりです。
- 物理的な拠点がない:帳簿の備付け、契約書の管理、商談の場といった機能が果たせません。
- 管理者が常駐できない:営業所には責任者が常駐する必要がありますが、バーチャルオフィスには常駐できません。
- 古物商プレート等の掲示ができない:許可証の標識を掲示できる場所が確保できません。
- 古物の保管ができない:鍵付きの保管棚や金庫などを設置できる環境がありません。
このように、バーチャルオフィスは古物商の営業所として必要とされる実在性・独立性の要件を満たさないため、許可が下りないのが一般的です。行政書士や警察でも「原則不可」「まず無理」と説明されることが多く、別の実体ある拠点を用意する必要があります。
都道府県による取り扱いの違いは?
古物商許可に関する基準は全国共通の古物営業法に基づいており、基本的にはどの都道府県でもバーチャルオフィスは認められない方針です。もっとも、一部では「形式上は申請自体は可能」といった解釈をするところもあるとも言われますが、実質的には限りなく黒に近いグレーであり、後々問題になる可能性が高いでしょう。
実務的にも、バーチャルオフィスのみで許可が下りた確実な事例はほとんど聞かれません。都道府県ごとの差異があるとしてもわずかで、原則どの地域でも実体のない住所での許可取得は難しいと考えるのが無難です。
申請先となる管轄警察署も、提出書類の審査や必要に応じた現地確認を行いますので、形だけの住所ではいずれ明らかになってしまうでしょう。
レンタルオフィスやシェアオフィスなら許可は取れる?
レンタルオフィス(貸事務所)については、条件を満たせば古物商の営業所として認められるケースがあります。ポイントは前述の「独立性」を確保できるかどうかです。具体的には 専有の個室スペース を借りており、そこに自由に出入り・使用できる状態であることが求められます。
たとえば、壁と扉で仕切られた完全個室タイプのレンタルオフィスを中長期契約で借りている場合は、この条件を満たします。その部屋なら管理者が常駐できますし、帳簿や古物も置けます。実際、完全個室のレンタルオフィスで許可を取得した例は数多くあります。
一方、シェアオフィスやコワーキングスペースのように他人と共有するオープンスペースの場合は基本的に営業所として認められません。簡易なパーティションで区切っただけの半個室やフリーアドレス形式のブースでは、実質的に他者から独立した空間とは言えないからです。このような環境では古物商プレートの掲示や古物の安全な保管ができず、警察も営業所とはみなさないでしょう。実務上も「単なるパーテーションで区切っただけのスペースでは許可が下りないことが多い」ことが指摘されています。
ただし、レンタルオフィスであっても運営会社側のルールに注意が必要です。いくら部屋が独立していても、貸主が古物商営業への利用を禁止している場合があります。中古品を大量に持ち込まれて他の利用者に迷惑がかかることを懸念し、契約約款で在庫の保管を制限しているケースもあるためです。
そのため、レンタルオフィスを借りる際には事前に運営会社から「古物商の営業所として使用する承諾」を得ておくことが必須です。承諾書を発行してもらい、許可申請時に提出できるようにしましょう。これがないと、申請のスタートラインにも立てません。
実際にあった許可・不許可の事例
古物商許可においてバーチャルオフィスを営業所とすることは基本的に不可能です。多くの申請希望者がバーチャルオフィスでの開業を相談しますが、最終的には断念しています。一部で「○○県では通ったらしい」といった噂があっても、前述の通り実態が伴わない営業所は法令上の義務を果たせないため、許可を受けても後から取り消しや指導の対象になりかねません。公式にも「実在しないため認められない」と明言されています。したがって、バーチャルオフィス住所だけで強行申請すれば高い確率で却下されると考えてください。実際、各地の警察でも申請時の相談で「バーチャルオフィスでは許可できません」と指導されるのが一般的です。
一方、レンタルオフィスの個室を営業所とするケースでは多くの許可取得事例があります。例えば東京や大阪など大都市でも、完全個室タイプのレンタルオフィスを借り、必要書類(賃貸契約書や使用承諾書等)を揃えて申請することで許可が下りることもあります。逆に、半個室や共有スペースで申請した結果「独立性がない」と判断されて不許可になった例も報告されています(「区画が不明確」「専有スペースで営業していない」とみなされるため)。許可が下りるかどうかの分かれ目は、結局のところ「その場所で本当に営業できているか」を警察が納得できるかに尽きます。要件を満たす物件選びと書類準備ができていれば、たとえ自宅以外でも許可取得は十分可能です。

許可を取るための代替案と注意点
1. 自宅を営業所にする
もっとも確実なのは自宅住所を営業所として申請することです。自宅であれば実体があり独立性も問題ありません。集合住宅(賃貸アパート・マンション)の場合でも、一室を事務所用途で使うこと自体は可能です。ただし賃貸物件では契約上、居住専用になっていることが多いため、貸主(大家)の承諾を得ておく必要があります。警察署への申請書類として「使用承諾書」の提出を求められる場合がありますので、事前に管理会社や大家と相談して許可をもらいましょう(承諾してもらえないケースもあるので注意が必要です)。自宅を営業所とする場合は、玄関先などに名字と「古物商許可票」を掲示し、帳簿や在庫品を保管できるスペース(鍵付きの棚など)を用意します。
2. 会社設立時に本店と営業所を分ける
法人の場合、登記上の本店住所としてバーチャルオフィス等を利用しつつ、古物商許可の営業所は別の実在する場所に設定する方法があります。法律上、古物商の「営業所」と会社の「本店所在地」は一致している必要はありません。例えば、会社の登記は都心のバーチャルオフィス住所で行い、古物商許可申請では代表者の自宅や郊外のレンタルオフィス個室を営業所として届け出ることも可能です。こうすることで、法人の登記情報として自宅住所を公開せずに済み、かつ古物商許可も取得できます。一点注意すべきは、許可申請時には営業所の賃貸契約書など所在地の証明が必要になるため、実際に使用できる物件を確保しておくことです。会社の定款目的にも「古物営業」を入れ、法人名義で営業所を契約する場合は契約者名義も統一しておくとスムーズです。
3. 特定商取引法上の表示対策
個人でネット販売を行う場合、「特定商取引法に基づく表示」で住所を公表する義務があります。自宅を営業所にして許可を取ったものの、サイトに住所を載せたくないという場合は、連絡用にレンタルオフィスの住所を別途利用するのも一つの手です。
古物商の許可証上の住所(実際の営業所)は自宅としつつ、ウェブサイト上のお問い合わせ先住所をレンタルオフィスにすることで、プライバシーを守りながらネット販売を行えます。ただし郵便転送等のサービスを利用し、ちゃんと連絡が取れるようにしておく必要があります。許可証の住所と異なる場所をネット表示すること自体は禁止されていませんが、あくまで購入者との連絡用であり、実際の営業実態は許可証の住所である点に留意してください。
4. その他の注意点
営業所には古物商プレートを掲示する義務があります。賃貸オフィスビルの場合、社名板の掲出ルールや掲示場所も確認しましょう(部屋の扉や壁にプレートを貼ることになる場合が多いです)。
また、盗難品発見の協力など警察から要請があった際にすぐ対応できるよう、営業所にはできるだけ管理者または連絡が取れる人間が常駐する体制を整えておくのが望ましいです。在庫を多く抱える業態では、置き場が手狭にならないよう倉庫なども検討してください。
万一営業所を引っ越す場合、事前に住所変更の届出が必要となります。許可取得後も営業所の実態が維持されていることが大切です。各都道府県警察の古物担当部署や専門の行政書士に相談すれば、物件選びや申請書類のチェックなど具体的なアドバイスを受けられます。
まとめ
バーチャルオフィスを活用した起業は近年注目されていますが、古物商許可の取得においては「実体のある営業所」が必要不可欠です。法律や運用上の要件を誤解したまま申請を進めると、許可が下りなかったり、後から取り消されたりするリスクがあります。
一方で、適切な形でのレンタルオフィス活用や、自宅営業所の工夫により、バーチャルオフィスと併用した柔軟なビジネス展開も可能です。この記事で紹介したポイントを参考に、しっかりと準備を整えれば、許可取得のハードルは決して高くありません。必要に応じて専門家のサポートも活用し、堅実かつ合法的に古物営業をスタートさせましょう。