有期契約→正規雇用の転換を助成「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」
キャリアアップ助成金とは、厚生労働省管轄の雇用関係助成金の1つであり、有期雇用労働者等を正社員にしたり、賃金を増額したりしたような場合に事業主に支給される助成金です。
このキャリアアップ助成金にはいくつかのコースが用意されていますが、この記事では「正社員化コース」の概要と受給までの流れについて解説します。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の概要
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、就業規則などに規定している制度に基づいて有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者、また、無期雇用であるものの正社員に適用される労働条件が適用されていない労働者(以下、「有期雇用労働者等」とします。)を正社員化し、かつ、一定の要件を満たした場合に支給される助成金です。
以下では、令和5年度のキャリアアップ助成金(正社員化コース)の主なポイントに絞って解説していきますが、詳細については下記の厚生労働省のホームページでご確認ください。
> キャリアアップ助成金/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
支給額
支給額は、申請企業が中小企業か大企業のどちらに該当するのか(※)、また、正社員化した労働者の前の雇用形態により1人あたり次の額になります(2023年11月29日以降に正社員化した場合)。
企業規模 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
中小企業 | 80万円 | 40万円 |
大企業 | 60万円 | 30万円 |
※ 申請企業の業種が小売業やサービス業、卸売業でない場合には、資本金の額・出資の総額が3億円以下または労働者数が300人以下であれば中小企業と判断されます。
加算額
次の①~④のケースに該当する正社員化である場合には、1人あたり上記で説明した支給額に表中に記載している額が加算されます。
措置内容 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
①派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合 | 28万5,000円 | |
②対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
③人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
うち、自発的職業能力開発訓練または定額制の訓練修了後に正社員化した場合 | 11万円 | 5万5,000円 |
④「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新たに設け、これらの正社員に転換した場合 | 中小企業:40万円 | |
⑤「正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合 | 中小企業:20万円 |
対象となる労働者
対象となる労働者の要件についてはかなり細かく規定されているため、ここでは3つだけ挙げますが、その他、要件として挙げているものすべてに該当する労働者が対象になります。
①申請事業主に通算6か月以上雇用されている有期雇用労働者または無期雇用労働者であること。
②正規雇用労働者として雇用することを約束して雇い入れられた有期雇用労働者等でないこと。
③正社員化の前日から過去3年以内に、申請事業主の事業所または資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係の事業主において正規雇用労働者として雇用されたことがある者、請負もしくは委任の関係にあった者または取締役、社員、監査役、協同組合等の社団もしくは財団の役員であった者でないこと。
その他の要件に関してはこちらを参考ください。【助成金支給要領】
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001172997.pdf#page=36
対象となる事業主
対象となる事業主の要件については次のとおりキャリアアップ助成金の全コース共通のものと正社員化コースだけに適用されるものの2種類があります。
全コース共通の要件
全コース共通で対象となる事業主は、次の5つのすべてに該当する事業主です。
①雇用保険適用事業所の事業主
②雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主
③雇用保険適用事業所ごとに対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
④実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
⑤キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
参考:キャリアアップ助成金のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001083208.pdf#page=4
正社員化コースの主な要件
正社員化コースにおいて対象となる事業主の要件については、対象となる労働者の要件と同様にかなり細かく規定されており、同じくここでは3つだけ挙げますが、その他、要件として挙げているものすべてに該当する事業主が対象になります。
①有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定している事業主であること。
②上記①の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正社員化した事業主であること。
③上記②により正社員化された労働者を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して正社員化後6か月分の賃金を支給した事業主であること。
その他の要件に関してはこちらを参考ください。【助成金支給要領】
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001172997.pdf#page=27
なお、ここでは有期雇用労働者または無期雇用労働者を正社員化する場合の事業主の要件を挙げていますが、派遣労働者を正規雇用労働者として直接雇用する場合の事業主の要件は別に定められています。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)手続きの流れ
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の受給までの流れは次のとおりです。
①キャリアアップ計画書の作成・提出
キャリアアップ助成金の全コース共通で、まずは、キャリアアップ計画書という書類を作成して事業所を管轄する労働局またはハローワーク(地域によってはハローワークを提出先としている場合あり)へ提出し、労働局の認定を受けなければなりません。
このキャリアアップ計画とは、有期雇用労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、3年~5年の期間を設定して今後のおおまかな取り組みをあらかじめ記載するものです。
正社員化コースであれば、一般的に有期雇用労働者等の正社員への転換制度を整備して社内に周知、希望する者に面接や筆記試験などを行って合格した者を正社員に転換するなどの流れなどを記載します。
なお、このキャリアアップ計画書は、一応、キャリアアップ計画期間の開始日の前日までに提出すればよいことになっていますが、労働局での認定にも時間がかかることから、一般的にキャリアアップ計画期間の開始日の1か月前くらいには提出することが推奨されています。
②就業規則などに正社員転換制度を規定
就業規則や労働協約などに有期雇用労働者等の正社員転換制度を規定します。
就業規則に規定した場合には、就業規則を変更したということで管轄の労働基準監督署への届け出も必要になります。
③有期雇用労働者等を正社員に転換
上記の就業規則などの規定に基づいて有期雇用労働者等を正社員に転換します。
④正社員に転換した者を6か月以上雇用
有期雇用労働者等を正社員に転換したあと、その者を少なくとも6か月以上雇用し、賃金を支払わなければなりません。
なお、正社員に転換したあと6か月間の賃金は、正社員にする前の6か月間の賃金よりも3%以上増額させていなければなりません。
⑤支給申請書の提出
上記のステップを踏んだところで、いよいよ助成金を申請できるようになります。
正社員に転換した者に6か月目の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内にキャリアアップ助成金支給申請書、就業規則や労働協約など(写)、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書(写)、その他の書類を事業所の所在地を管轄する労働局またはハローワーク(地域によってはハローワークを提出先としている場合あり)へ提出します。
⑥支給審査
キャリアアップ助成金支給申請書を提出した後は、労働局において支給要件を満たしているのかについての支給審査が行われます。
この審査にかかる期間は地域の労働局によっても異なりますが、短くて2、3か月、長ければ半年くらいはかかることが予想されます。
⑦支給決定、助成金の受給
労働局の支給審査においてすべての要件を満たしていると判断されると、労働局から支給決定通知書が送られてきます。その後、概ね1~2週間後に事業主が指定した口座に助成金が振り込まれます。
まとめ
今回、解説したキャリアアップ助成金に限った話ではありませんが、公的な助成金を受給するためには一般的にかなりの時間がかかり、多くの書類を提出しなければなりません。このため、特に少人数の企業などでは自社では対応不能と考えて申請すること自体、まったく考えていないところもあります。
しかしながら、もし、優秀な有期雇用の従業員を正社員にしようと検討しているのであれば、このキャリアアップ助成金(正社員化コース)に申請しない手はありませんし、自社で申請が難しいのであれば、社会保険労務士に申請してもらうこともできますので積極的に申請することをお勧めします。