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【独占禁止法】不公正な取引方法をわかりやすく解説

企業間の取引方法は本来自由であるはずですが、力の差などによって不公平な条件を押し付けられるケースがあるものです。

その状態を放置しておくと、公正な競争が阻害されるおそれがあります。そこで独占禁止法では「不公正な取引方法」が禁止されています。

本記事では、不公正な取引方法の内容や違反した場合の罰則について解説します。

不公正な取引方法とは?

独占禁止法が禁止している不公正な取引方法とは、同法第2条9項に規定されている行為の他、公正な競争を阻害するおそれがある行為のうち、公正取引委員会が指定するもののことをいいます。

公正取引委員会の指定には、全業種に適用される一般指定と、特定の業種にのみ適用される特殊指定とがあります。

この記事では、多くの企業にとって取引上問題となりやすい一般指定に該当する取引方法についてご説明します。

共同の取引拒絶

正当な理由がないのに、自己と競争関係にある他の事業者と共同して、特定の事業者との取引を拒んだり、他の事業者に特定の企業との取引を拒絶させたりすることを「共同の取引拒絶」といいます。

例えば、商品の販売価格を高く設定するために、競争関係にある企業と示し合わせて、安く売る販売店には商品を供給しないようにするようなケースがこれに当たります。

この場合、安く売る販売店が市場から締め出されてしまい、消費者は高い価格でしか購入できないというデメリットを被ってしまいます。

その他の取引拒絶

不当に、単独の事業者が取引拒絶を行う場合でも、公正な競争を阻害するおそれがある場合は独占禁止法による禁止の対象となります。

例えば、市場における有力事業者が、競争関係にある事業者を排除する目的で取引を拒絶するような場合です。

有力事業者に当たるかどうかの判断においては、当該市場でのシェアが20%を超えるかどうかが一応の目安となるとされています。

差別的対価

商品や役務を提供したり供給を受けたりする際に、不当に、地域または相手方によって差別的な対価を設定することは独占禁止法上、禁止されています。

本来、自社の商品や役務の対価をどのように設定するかは事業者の自由です。しかし、有力事業者が不当な価格差を設けることによって競争相手の事業活動を困難にしたり、取引の相手方を著しく有利または不利に扱ったりすると、公正な競争が阻害されるおそれがあります。

そのため、不当な差別的対価の設定は禁止されているのです。

取引条件等の差別的取扱い

特定の事業者に対して取引の条件や実施について、不当に有利または不利な取り扱いをすることも独占禁止法上禁止されています。

このような取引条件等の差別的取り扱いも自由競争の範囲内と認められる場合は違法となるものではありません。

しかし、有力事業者が特定の事業者のみに対して差別的な取り扱いをする場合は公正な競争が阻害されるおそれがあるため、不当な差別的取り扱いは禁止されるのです。

事業者団体における差別的取扱い等

事業者団体や複数の事業者による共同行為において、特定の事業者を不当に排斥したり、不当に差別的に取り扱ったりすることでその事業者の事業活動を困難にすることも、独占禁止法上禁止されています。

例えば、ある業種において特定の事業者団体に加入しなければ事業活動を行うことが難しい状況で、新規加入事業者や加入期間の短い事業者に対して不当に高額の入会金や会費の納入を課すようなことは、公正な競争を阻害するおそれがあるため、違法となる可能性があります。

不当廉売

正当な理由がなく、商品や役務を著しく低額の対価で継続して供給したり、不当に商品や役務を低い対価で供給したりすることで他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合は、「不当廉売」として禁止されます。

ただし、「廉売」することに正当な理由がある場合は、公正な競争を阻害するおそれがあるとはいえないため、禁止の対象とはなりません。

例えば、需給バランスによって商品の販売価格相場が低下している場合に安価で販売したり、在庫を処理するために廉売をすることが経営判断上やむを得ないような場合は違法とはいえない場合が多いでしょう。

不当高価購入

不当廉売とは逆に、商品や役務を不当に高い対価で購入することも、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合は「不当高価購入」として禁止されます。

ただ、実際には不当高価購入が問題となった事例は見当たらず、重要度は低いと考えられます。

ぎまん的顧客誘引

自己が供給する商品や役務の内容や取引条件などについて、実際のものや競争相手である事業者が提供するものよりも著しく優良または有利であると顧客に誤認させることによって、競争相手の顧客を自己と取引するように不当に誘引することは「ぎまん的顧客誘引」として禁止されます。

このような行為は競争手段そのものが不公正であり、当然に公正な競争を阻害するおそれがあると考えられます。

不当な利益による顧客誘引

正常な商慣習上、不当と認められる利益をもって、競争相手の顧客を自己と取引するように誘引することは「不当な利益による顧客誘引」として禁止されます。

公正な競争は、商品や役務の内容や価格によって行われるべきものです。不当な利益をもって顧客を競争相手よりも自己に誘引しようとする行為は競争手段そのものが不公正であり、公正な競争を阻害するおそれがあるといえます。

抱き合わせ販売等

相手方に対して、不当に、商品や役務を供給するに併せて自己または自己の指定する事業者から他の商品や役務を購入させたり、他の取引をすることを強制することは「抱き合わせ販売等」として禁止されます。

このような販売方法がただちに違法となるわけではありませんが、有力事業者がこのような販売方法を用いることによって他の事業者が排除されるようなときは、自由な競争の基盤が侵害されるおそれがあります。

このような場合は、公正な競争を阻害するおそれがあるものとして禁止の対象となります。

排他条件付取引

不当に、取引の相手方が自己の競争者と取引をしないことを条件として取引をし、競争者の取引の機会を減少させるおそれがある行為は「排他条件付取引」として禁止されます。

もっとも、現在の企業社会において排他条件付取引は、特約店契約や専売店制などにみられるように、よく行われているものであって、ただちに違法となるものではありません。

しかし、市場における有力事業者が競争品の取扱いを制限し、それによって新規参入者や既存の競争者が排除されるおそれがあるような不当な場合には、公正な競争を阻害するおそれがあるものとして禁止の対象となります。

拘束条件付取引

排他条件付取引や再販売価格を拘束する行為のほかにも、相手方とその取引の相手方との取引や、その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけたうえで、その相手方と取引することは「拘束条件付取引」として禁止されます。

このような行為についても、拘束する形態や程度のほか、その事業者の市場における優位性などを考慮し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる場合に違法となる可能性があります。

取引の相手方の役員選任への不当干渉

取引の相手方である会社に対して、その会社の役員の選任について事前に自己の指示に従わせたり、自己の承認を受けさせるような行為も禁止されています。

ただ、このような行為はさまざまな目的で行われることがあり、全ての場合が違法となるわけではありません。

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に上記のことを行う場合は、競争手段として不公正であるため、公正な競争を阻害するおそれがあるとして違法となる可能性があります。

競争者に対する取引妨害

自己または自己が株主や役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害する行為も禁止されます。

このような行為も競争手段として不公正であり、公正な競争を阻害するおそれがあると考えられるからです。

妨害の手段としては、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すると認められる場合は禁止の対象となります。

競争会社に対する内部干渉

自己または自己が株主もしくは役員である会社と国内において競争関係にある会社の株主または役員に対して、その会社の不利益となる行為をするように不当に誘引したり、そそのかし又は強制するような行為も禁止されます。

理由はやはり、競争手段として不公正であり、公正な競争を阻害するおそれがあると考えられるからです。

競争会社に対する内部干渉の手段としては、株主権の行使、株式の譲渡、秘密の漏えいその他いかなる方法をもってするかを問わず、禁止の対象となります。

違反した場合の罰則

不公正な取引方法の禁止規定に違反した場合、公正取引委員会による排除措置命令を受けることがあります。

ただし、刑事罰はありません。

課徴金についても原則として対象となりませんが、例外的に以下の場合は課徴金納付命令の対象となります。

・共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販価格の拘束に対する公正取引委員会の排除措置命令や課徴金納付命令を10年以内に繰り返した場合

・優越的地位の濫用を継続した場合

また、不公正な取引方法により損害を被った被害者から民事上の損害賠償請求や差し止め請求を受ける可能性もあります。

まとめ

本記事では、独占禁止法で禁止されている不公正な取引方法についてご説明してきました。

行為の外形だけをみると取引上しばしば行われているものも多いですが、禁止の対象となるのは「不当に」または「正当な理由がなく」行われた場合です。つまり、公正な競争を阻害するおそれがある場合に違法となります。

意外な行為が独占禁止法の禁止規定に抵触して違法となる場合もあるので、事前に十分に確認することが重要です。