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中小企業に義務付けられている働き方改革【まとめ】

政府の働き方改革によって労働基準法などが改正され、2019年4月から企業にはさまざまな事項が義務付けられています。

これらの改正事項は企業規模を問わず一律に適用されるものもあれば、中小企業には1年遅れで適用されるものもあります。

今回は、中小企業に義務付けられているものなどについて説明します。

働き方改革における法改正の概要

まずは、働き方改革による労働基準法などの改正事項がどのように施行されているのか、また、改正事項の大企業と中小企業への適用時期の考え方について説明します。

改正事項の施行までの流れ

政府の働き方改革としては、「長時間労働の是正」や「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」などいくつかの目標があります。

これらを推し進めるためには、まずは労働関係法の改正が必要になるため、政府は2018年6月に働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)を成立させ、労働基準法をはじめとする労働関係法をまとめて改正しました。

改正された各法律の多くは2019年4月から順次施行されており、「残業(時間外労働)の上限規制」などさまざまな事項が企業に義務付けられています。

改正事項の大企業と中小企業への適用時期

改正事項は、大企業と中小企業で同時に適用されるものもあれば、中小企業への適用は大企業よりも1年遅れになっているものもあります。

大企業と中小企業とで適用時期に差が設けられているのは、大企業と比べると労務基盤が整っていないと考えられる中小企業への配慮であり、にわかに導入が難しい事項についてはこのような整理になっています。

中小企業の範囲について

働き方改革における中小企業の定義については、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者数」のいずれかが以下の基準に該当すれば、中小企業とされ、該当しなければ、大企業とされることになっています。

この判定は、本社や支店、工場などのいわゆる「事業場」単位ではなく、企業単位でなされます。

【中小企業の範囲】

業種

資本金の額または出資の総額

常時使用する労働者数

小売業

5000万円以下

50人以下

サービス業

5000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

製造業、建設業、運輸業、その他

3億円以下

300人以下

中小企業に義務付けられている主な改正事項

改正事項には、企業に何らかの対応を義務付けるものや努力義務とするもの、また、これまでの制度を運用しやすくするための見直しなど様々なものがあります。

ここでは、中小企業に義務付けられているものに絞り、主にどのようなものがあるのかついて説明します。

年5日の年次有給休暇の取得

施行時期:大企業、中小企業とも2019年4月1日

今回の改正により、10日以上の年次有給休暇がある労働者については、年5日、時季を指定(労働者の意見を尊重する必要あり)して取得させなければならないことになっています。

ただし、労働者が自ら申し出て取得した日数や、労使協定で取得時季を定めて与えた日数(いわゆる「計画的付与制度」により取得させた日数)については、上記の5日から除外することができます。

これに違反した場合には、「30万円以下の罰金」とする罰則規定も設けられています。

労働時間の客観的な把握

施行時期:大企業、中小企業とも2019年4月1日

これまで、労働時間の把握義務については、労働基準法に明確に規定されておらず、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」というもので、管理監督者やみなし労働時間制が適用される労働者を除く労働者について、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録で把握することが示されていました。

今回、労働安全衛生法が改正され、高度プロフェッショナル制度の適用者を除くすべての労働者の労働時間を把握し、その労働時間の記録を3年間保存しなければならないことになっています。(高度プロフェッショナル制度の適用者の労働時間についても、別枠で一定の把握義務があるとされています。)

残業の上限規制

施行時期:大企業 2019年4月1日/中小企業 2020年4月1日

これまで、残業(時間外労働)の上限時間については、「時間外労働の限度に関する基準」という厚生労働省の告示において、原則として月45時間、年360時間とされていました。

また、この上限も「臨時的な特別の事情」(繁忙期など一時的な理由)があれば、36(サブロク)協定に「特別条項」というものを付記することで超えることができ、超えた場合の上限規制もほぼない状況でした。

改正後は次のような整理になっています。

①原則としての上限時間(月45時間・年360時間)を労働基準法上のものとし、「臨時的な特別の事情」がなければ、これを超えることができない。

②「特別条項」付きの36協定がある場合でも以下を守らなければならない。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」、「3か月平均」、「4か月平均」、「5か月平均」、「6か月平均」の全てが1月当たり80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

これに違反した場合には、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」とする罰則規定も設けられています。

同一労働同一賃金

施行時期:大企業、中小企業とも2020年4月1日

中小企業に2020年4月1日から適用されるのは派遣労働者に関する部分のみであり、パートタイム労働者・有期雇用労働者に関する部分については2021年4月1日から適用されます。

今回の改正により、賃金や賞与、各種手当、福利厚生などあらゆる待遇について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に不合理な差を設けてはならないことになります。

不合理な差とは、基本的には、有期契約社員や派遣社員、パート・アルバイトなどの業務内容や責任の程度が正社員と同じであるにもかかわらず、待遇に差を設けていることを意味しますが、該当する場合には是正しなければなりません。

月60時間を超える残業の割増賃金率引き上げ

施行時期:中小企業 2023年4月1日

2010年の労働基準法の改正で、月60時間を超える残業(時間外労働)については割増賃金率を50%以上とすることが義務になりましたが、中小企業にはその適用が猶予されていました。

今回の改正により、中小企業も2023年4月1日から、月60時間を超える残業については割増賃金率を50%以上とすることが義務になります。

これに違反した場合には、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」とする罰則規定も設けられています。

まとめ

働き方改革として企業には様々な事項が義務付けられていますが、それらに対応していくためにはかなりの労力や時間を要します。

中小企業で細かに対応していくことは容易ではありませんが、罰則があるものに注意しながら、今後の業務効率化なども踏まえて取り組んでいくようにしましょう。