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2020年4月施行!中小企業の「時間外労働の上限規制」

働き方改革により導入された時間外労働の上限規制は、大企業には2019年4月から適用されていますが、中小企業には2020年4月から適用されます。

今回は、時間外労働の上限規制の内容や適用までに準備しておくべきことなどについて解説します。

中小企業は2020年4月から

時間外労働の上限規制は、大企業には2019年4月1日から適用されていますが、中小企業については1年間の猶予期間が設けられ、2020年4月1日から適用されることになっています。

ただし、企業規模にかかわらず、適用がさらに先になる事業や業務、また、そもそも適用が除外されている業務もあります。

中小企業の定義

ここで言う「中小企業」に該当するか否かは、業種ごとに企業の「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する労働者数」で判断されることになっています。

具体的には以下の基準に該当すれば、中小企業として扱われます。

業種

資本金の額または出資の総額

常時使用する労働者数

小売業

5,000万円以下

50人以下

サービス業

5,000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

製造業、建設業、運輸業など

3億円以下

300人以下

2024年4月から適用される事業・業務

企業に規模にかかわらず、次の事業や業務については、2024年4月1日から適用されることになっています(それぞれで適用される規制は多少異なります)。

1. 建設事業
2. 自動車運転の業務
3. 医師
4. 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業(原則的な規制は既に適用済み)

なお、4については原則的な規制はすでに適用済みであり、すべての規制が適用されるのが2024年4月1日からになっています。

適用が除外されている業務

新技術・新商品等の研究開発業務(例えば、システム、コンピュータ利用技術等の開発業務など)については、適用が除外されています。

時間外労働の上限規制の内容

時間外労働の上限規制の内容を簡単にまとめると、次のようになります。

原則の上限時間(月45時間・年360時間)が法律に規定

これまで、時間外労働の原則としての上限時間(月45時間・年360時間)は、法律ではなく「時間外労働の限度に関する基準」という厚生労働省の告示で定められていたため、強制力はありませんでした。

今回の改正では、この上限時間(月45時間・年360時間)が労働基準法に規定されました。

臨時的な特別の事情がある場合の上限時間も法律に規定

これまで、予算や決算業務のためなど臨時的な特別の事情がある場合には、36協定に「特別条項」というものを付記することで、原則としての上限時間(月45時間・年360時間)を超える労働が可能でした。これについても「時間外労働の限度に関する基準」(厚生労働省の告示)であり、何時間まで超えることができるのかまでは示されていませんでした。

今回の改正では、原則としての上限時間(月45時間・年360時間)を超えることができるのは、臨時的な特別の事情がある場合のみで、その場合でも以下を超えることはできないことが労働基準法に規定されました。

  • 時間外労働は年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月平均で80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月まで

違反した場合には罰則が適用

これまでも、36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、36協定で定めた延長時間を超えて時間外労働をさせた場合には罰則の適用対象になっていましたが、上記で説明した新たに労働基準法に規定された事項に抵触すると、企業には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科される可能性があります。

その他、詳細については厚生労働省のホームページでご確認ください。

【参考】[時間外労働の上限規制 わかりやすい解説/厚生労働省]
(https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf)

中小企業が2020年4月までに準備しておくべきことは?

最後に、時間外労働の上限規制が適用される2020年4月までに中小企業が準備しておくべきことについて説明します。

勤怠管理システムなどの導入

時間外労働を上限規制の範囲内で管理していくためには、各社員の時間外労働を正確に把握できていなければなりません。

タイムカードなどでも時間外労働は把握できますが、今後は複数月の平均が80時間以内であるかどうかなどの複雑な計算が必要になることも考えると、このタイミングで、時間外労働の上限規制に対応している勤怠管理システムなどを導入することが効率的です。

業務効率化の推進

時間外労働がほぼないという企業を除き、いまの業績を維持、また、さらに業績を伸ばしていくためには、時間外労働の上限規制が適用されるまでに業務効率化を進めておかなければなりません。

具体的には、各業務のフローを再確認し、無駄なものは排除、外注可能なものは外注するなどの見直しを図っていかなければなりませんし、クライアント対応が時間外労働につながっているのであれば、クライアントにも理解を求めていく必要があります。

新たな36協定の締結

時間外労働の上限規制の導入に伴って、36協定で定めなければならない事項にも見直しがあり、労働基準監督署に届け出る様式も変更されています。

今後、36協定を締結するにあたっては次の点に注意が必要です。

①時間外労働の限度を定める期間

これまでの36協定では、労働時間を延長することができる期間は、「1日」、「1日を超えて3か月以内の期間」、「1年」とされていましたが、上限規制適用後は上限時間の算定のために「1日」、「1か月」、「1年」となります。

これまで、「1日」、「3か月」、「1年」などの期間で延長することができる時間を定めていた企業では業務の進め方などを再検討しなければなりません。

②協定期間の起算日の定め

1年の上限時間を算定するために、協定期間の起算日を定める必要があります。

③時間外労働・休日労働の合計時間の労使間合意

上記1で定めた範囲内で労働させたとしても、実際の時間外労働と休日労働の合計が、月100時間以上または2~6か月平均で80時間超となれば、法律違反となります。

時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内とすることについてあらかじめ労使で合意しておかなければなりません。

④上限時間を超える労働者の健康・福祉確保措置

原則としての上限時間(月45時間・年360時間)を超えて労働させる労働者の健康および福祉を確保するための措置を講じ、労使で合意するよう努めなければなりません。

講じることが望ましい措置として、「医師による面接指導」や「深夜業の回数制限」などが厚生労働省の指針で例示されています。

36協定に関する指針の詳細や、新たな36協定の様式は厚生労働省のホームページなどでご確認ください。

まとめ

中小企業に対する時間外労働の上限規制は2020年4月1日から施行されます。

今回の改正で、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間であること、また、臨時的な特別の事情がある場合の上限が労働基準法に規定されました。

時間外労働の上限規制に違反した企業には、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が適用される可能性があります。

時間外労働の上限規制に対応していくためには、勤怠管理の徹底や業務効率化の推進を図っていく必要があります。