会社役員の義務や責任とは?就任するとリスクは生じる?
会社役員に就任すると、従業員と比べれば高い報酬を得ることができますが、会社役員として様々な義務があり、その責任は重くなります。
今回は、会社役員の義務や責任、また、会社役員に就任するリスクなどについて解説します。
会社役員とは?
まずは、会社役員の会社法上の定義や、会社との契約関係について説明します。
会社法上の定義
株式会社の役員とは、会社法第329条第1項では取締役、会計参与、監査役と定義されており、会社法施行規則第2条第3項第4号では、さらに執行役も加えて会社役員とされています。
また、会社法では「役員等」という用語も使われていますが、この「役員等」とは、会社法第423条第1項では、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人と定義されています。
なお、会社によっては、執行役員という役職を設けているところもありますが、この執行役員は会社法上の役員ではありません。
取締役や会計参与などの役割については、以下のページの各記事でご確認ください。
会社とは委任契約関係にある
会社役員は、会社と雇用契約ではなく委任契約を締結します。
従業員のように会社から雇用されていないということは、労働基準法第9条で定義される労働者(事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者)に該当しないため、労働基準法やその他の法律における労働者としての保護を受けることはできません(これについてはこのあとで詳しく説明します)。
会社役員の主な義務と責任
会社役員の義務と責任について、会社法では次のようなものが規定されています。
※会社役員のうち、業務執行に関する意思決定を行うのが取締役であるため、義務や責任については取締役を中心に規定されています。
善管注意義務・忠実義務
会社役員の一般的な義務としては、次の善管注意義務と忠実義務があります。
・善管注意義務
会社役員は、民法上の委任契約の受託者として、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理しなければなりません。(会社法第330条、民法第644条)
・忠実義務
取締役は、法令および定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のために忠実に職務を行わなければなりません。(会社法第355条)
競業避止義務
取締役は、自己または第三者の利益を図るために、会社(自らが取締役を務める会社)の事業の部類に属する取引(競業取引)を行う場合には、原則として事前に株主総会(取締役会設置会社では取締役会)において、その取引についての重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません。(会社法第356条第1項第1号)
これを一般的に「競業避止義務」と言いますが、簡単に言えば、取締役は勝手に会社と同じような事業を行ってはいけないということです。
利益相反取引回避義務
取締役は、自己または第三者の利益を図るために、会社(自らが取締役を務める会社)と取引を行う場合(直接取引)、また、会社が取締役の債務を保証することや、取締役以外の者との間で会社とその取締役との利益が相反する取引を行う場合(間接取引)には、原則として事前に株主総会(取締役会設置会社では取締役会)において、その取引についての重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません。(会社法第356条第1項第2号、第3号)
これを一般的に「利益相反取引回避義務」と言いますが、簡単に言えば、取締役や会社は、勝手に、取締役個人が利益を得て会社に不利益が生じる取引(利益相反取引)を行ってはいけないということです。
この利益相反取引ついては、以下の記事で詳しく解説しています。
会社に対する損害賠償責任
取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人は、その任務を怠った(上記で説明した各義務に違反したときなど)ときは、会社に対して、そのことによって生じた損害を賠償する責任を負わなければなりません。(会社法第423条第1項)
第三者に対する損害賠償責任
取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人は、その職務を行うにあたって悪意、または、重大な過失があったときは、そのことによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負わなければなりません。(会社法第429条第1項)
会社役員に就任するリスク
会社役員に就任するリスクとしては、次のようなことが挙げられます。
株主の意向によって解任される
会社の従業員であれば、労働基準法上、簡単に解雇されることはありません。しかし、取締役や会計参与、会計監査人は、株主総会の普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成が必要)によって、また、監査役は、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)によっていつでも解任される可能性があります。
労働時間の規制がない
最初にも説明しましたが、会社役員は原則として労働者ではないため、労働基準法上の労働時間(原則、1日8時間・1週40 時間)の規制は適用されません。
会社によっては役員も含めて労働時間を管理しているところもありますが、そもそも会社としては役員の労働時間を管理する義務もなく、役員がどれだけ残業したとしても残業代を支払う必要もありません。
雇用保険・労災保険が適用されない
会社役員が労働者ではないということは、会社役員には雇用保険や労災保険も適用されないということです。
このため、解任されても失業保険(正しくは「基本手当」)を受給することはできませんし、業務中や通勤途中にけがをしても労災保険の各種給付を受けることもできません。
なお、代表取締役以外の役員で、その者が実態的には従業員のように業務を行っている場合には、雇用保険・労災保険の適用を受けられる場合もあります。
損害賠償責任を負う可能性がある
上記で説明したとおりですが、会社役員は、その責任を果たさなかったり、悪意をもって業務を行ったりしたことで会社や第三者に損害を与えれば、その損害を賠償する責任を負うことになります。
損害賠償責任を免除する手続き
会社役員の会社に対する損害賠償責任については、会社が次の手続きを行えば、その責任の全部または一部を免除することができます。
- 総株主の同意(責任の全部免除)
- 株主総会の特別決議(責任の一部免除)
- 定款の定めに基づく取締役会の決議(責任の一部免除)※1
- 責任限定契約(責任の一部免除)※2
※1 取締役会がない会社の場合は取締役の過半数の同意
※2 責任限定契約は、代表取締役と業務を執行するその他の取締役(業務執行取締役)などとは締結できませんので、取締役については基本的に社外取締役が対象になります。(業務を執行しない社内取締役とは締結可)
まとめ
会社役員には、社外から就任する者もいますが、社内の管理職がこれまでの業績などを評価されて就任することは、会社員としてはある意味、ゴールとも言えます。
しかしながら、会社役員になると、報酬など手厚い待遇が受けられるようになる反面、会社に対する責任は想像以上に重くなること、また、労働者としての保護を受けられなくなることを理解しておかなければなりません。
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