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発生主義、実現主義、現金主義…適切な計上タイミングは?

仕訳の計上タイミングには3つの種類があります。発生主義、実現主義、現金主義です。

この3つのうちどれを利用すべきなのかは、費用か収益・売上かどうかにより、または税務署に届出を行っているかどうかにより異なっています。

この記事では、3つの計上タイミングはそれぞれどう違うのか、またいつどの主義を利用すべきなのかについて解説していきます。

発生主義とは

発生主義とは、取引が発生した時点で費用を認識し、仕訳を計上する考え方です。その際、金銭のやり取りが終了しているかどうかは関係ありません。費用が発生した時点で支払に関係なく仕訳を計上します。

例えば4月分のスマホの通信料について考えてみましょう。4月分のスマホの月額料金は4月末日に確定します。しかし、実際にお金を支払うのは翌月の5月です。このような場合、発生主義では費用が確定した4月度に仕訳を計上します。

金銭のやり取りがいつかに関わらず、費用が発生したときに仕訳を確定させるのが発生主義です。

実現主義とは

続いては実現主義です。実現主義とは、収益や売上が実現した時点で仕訳を計上する考え方です。「収益が実現した時点」とは、商品を発送した時点(出荷基準)や納品した時点(納品基準)などのことを指します。

「商品をこれだけ売り上げるだろう」ということは、当然にして出荷や納品をする前にわかっています。出荷や納品前に注文を受けた数の商品を仕入れたり製造したりする必要があるからです。「だいたいこのくらいの売上だな」というのはその段階で認識できます。

しかし、実際に出荷や納品を行うまではその売上が本当に実現するかどうか不確かです。商品の仕入元が倒産したり製造する機械が壊れたりして、売上が実現することなく取引が流れてしまうかもしれません。

そのため、出荷基準や納品基準を用い、収益・売上が実現することが確定した時点で仕訳を計上します。この考え方が実現主義です。

現金主義とは

最後に現金主義についてみていきましょう。現金主義は非常にわかりやすく、現金や預金が動いたときに仕訳を計上する考え方です。

例えば発生主義でみたスマホの通信料について考えてみます。4月度の支払額(費用)は4月末日にわかりますが、実際にお金を支払うのは翌月の5月です。このような場合、現金主義では5月に仕訳を計上します。現金が動くのはお金を支払う5月だからです。

どの計上タイミングを利用すべきか

ここまで3つの主義についてみてきました。この3つをいつ利用するかはそれぞれ決まっています。

発生主義費用
実現主義売上・収益
現金主義家計簿や青色申告者で「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」等を提出した個人事業主

費用は発生主義で

企業会計原則に基づき、企業では費用は発生した期間にて仕訳を計上する必要があります。お金を支払うタイミングではなく「何月に使った(=発生した)費用なのか」がポイントです。費用が発生した月度で仕訳を計上しましょう。

ただし、企業会計原則では、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない、ともされています。これは費用収益対応の原則というもので、正しい期間損益を表すために費用は当期の売上や収益に関係があるもの以外は計上してはならないというものです。

したがって発生主義により認識された費用のすべてを当期の費用としていいというわけではなく、当期の売上や収益との個別的・期間的な対応関係を考えて計上しなければなりません。

また、法人税法上においても所得税法上においても当期において支払うべき債務が確定したもののみを当期の費用とすることができるとされている点にも注意が必要です。

売上や収益は実現主義で

売上や収益も、企業会計原則にて発生したときに計上が義務付けられています。しかし、売上や収益は費用とは違って実現主義での仕訳計上が基本です。

その理由は「実現主義とは?」で解説した通り、収益・売上が本当に実現するかどうかは発生したタイミングでは不確かだからです。企業会計原則では、未実現の収益は計上しないことになっています。そのため、売上や収益は発生主義ではなく実現主義で仕訳を計上するのです。

どのようなときに現金主義を利用できるのか

最後は現金主義についてです。現金主義は一般的に企業ではほとんど利用されていません。現金主義は「発生した期間で計上する」という企業会計原則に則さないためです。

では、どのようなときに現金主義が利用されているのかというと、個人の家計簿や青色申告者で「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」等を提出した個人事業主などの仕訳計上の際です。これらの場合は、企業会計原則に則った仕訳計上が必要とされていません。そのため、現金主義を利用することができるのです。

まとめ

企業会計原則に基づき、日本企業では費用は発生主義、売上や収益は実現主義での仕訳計上が求められます。中でも売上や収益は重要です。いつ仕訳を計上するかによって、利益や税金の額は変わってきてしまいます。「費用は発生主義」、「売上や収益は実現主義」をしっかりと頭に刻んで、仕訳計上に臨みましょう。