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「同一労働同一賃金」がもたらす中小企業へのメリット

働き方改革により、企業には「時間外労働の上限規制」や「年5日の年次有給休暇の取得」などが義務化されていますが、2020年4月1日からは「同一労働同一賃金」が施行されます。

今回は、この「同一労働同一賃金」がどのようなものであるのか、また、中小企業にとってのメリットや導入にあたっての注意点などについて説明します。

同一労働同一賃金とは

まずは、同一労働同一賃金の導入背景やその目的、具体的な施行内容などについて説明します。

導入背景・目的

現在の日本においては、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトなどの非正社員として働く者が増えている一方、それらの者の賃金水準は低く、生活は不安定なものになっています。

この状況を是正するために導入されるのが同一労働同一賃金であるわけですが、政府は導入目的を具体的に次のとおりとしています。

・同一企業内における正社員と非正社員の間の不合理な待遇の差をなくすこと
・どのような雇用形態を選択しても、待遇に納得して働き続けられるようにすること
・多様で柔軟な働き方を選択できるようにすること

少子高齢化が進み、労働者の働き方も多様化していることから、今後の経済成長を見出すためには非正社員の待遇を向上させることが必須であるということです。

施行内容

同一労働同一賃金の施行内容は次のとおりです。

1. 不合理な待遇差の禁止

同一企業内において、正社員と非正社員の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

2. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

短時間労働者や派遣労働者については、これまでも雇い入れ時や待遇決定に際して一定の説明義務はありましたが、今後は有期雇用労働者を含めた非正社員から、正社員との待遇差の内容や理由などについて説明を求められれば、これに応じなければならなくなります。

3. 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続の規定の整備

これは行政側の対応ですが、同一労働同一賃金の導入にあたっては、事業主と労働者のトラブルが予想されることから次のような見直しを行っています。

・行政による助言・指導
これまでは短時間労働者と派遣労働者が対象であったところを有期雇用労働者も対象としました。

・裁判外紛争解決手続(行政ADR)
これまでは短時間労働者(均衡待遇については対象外)だけが対象であったところを短時間労働者の手続き対象を広げるとともに有期雇用労働者と派遣労働者も対象としました。

これにより、すべての非正社員についての「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」にかかわることが行政ADRの対象になったということです。

なお、行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争について、裁判をせずに解決を図る手続きのことをいいますが、これを活用することで裁判のように費用をかけず、短期間での解決が期待できます。

施行時期

同一労働同一賃金にかかわる改正法は「パートタイム・有期雇用労働法」と「労働者派遣法」の2つで、施行はともに2020年4月1日からです。

ただし、2020年4月1日からこの2つの改正法が適用されるのは大企業だけであり、中小企業は「労働者派遣法」のみ2020年4月1日から適用、「パートタイム・有期雇用労働法」は2021年4月1日から適用されることになっています。

このため、中小企業については、派遣労働者の派遣元や派遣先でない限りは、2021年4月1日からの対応になります。

中小企業の定義

同一労働同一賃金に限りませんが、働き方改革関連の改正法について、中小企業は大企業よりも遅れて適用されることがあります。

どのような規模の企業が「中小企業」にあたるのかについては、業種により、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者数」のいずれかが以下の基準に該当すれば、「中小企業」とされることになっています。

業種

資本金の額または

出資の総額

 

常時使用する

労働者数

小売業

5,000万円以下

または

50人以下

サービス業

5,000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他(製造業、建設業、運輸業など)

3億円以下

300人以下

同一労働同一賃金の導入によるメリット

同一労働同一賃金を導入することで、企業や非正社員には次のようなメリットがあります。

業務効率・生産性の向上

非正社員は自身の仕事が正当に評価され、その評価に見合った賃金を得ることができるようになります。

結果として、非正社員のモチベーションは向上し、会社としても業務効率、生産性の向上が期待できます。

定着率の向上

非正社員はより賃金が高く安定的な仕事を求めるため、そのような仕事があれば退職してしまう傾向があります。

非正社員の労働条件が改善されれば、そのまま働き続けるという選択も可能になるため、定着率は向上すると言えます。

優秀な人材の獲得

求人の中には高い能力を持ちながらも、育児や介護などの家庭の事情によりフルタイムで働けない者もいます。非正社員の労働条件が向上すれば、これらの者を獲得できる可能性が高まります。

ただし、全企業が非正社員の労働条件を向上させるため、優秀な人材獲得に向けて動くためには、他の企業よりもアピールできるポイントが必要になります。

同一労働同一賃金の注意点

最後に同一労働同一賃金を導入するにあたっての注意点について説明します。

できる限り早めに着手する必要がある

同一労働同一賃金の導入準備として、まずは正社員と非正社員の業務内容を明確にし、その業務内容、業務内容・配置の変更範囲、その他事情に応じた待遇がなされているのかを確認しなければなりません。

そこで不合理な待遇差があるとわかれば、次のように改善に向けた取り組みを実施していく必要があります。

①非正社員の待遇改善方針を検討する。
②コストを試算し、実現可能かどうかを検証する。
③必要に応じて助成金の活用やコスト抑制対策を検討する。
④就業規則や人事制度を見直して新制度を導入する。
⑤労働者に対して制度の内容を周知する

このように、同一労働同一賃金はその方向性だけ決めればすぐに導入できるものではありません。不合理な待遇差があれば、それを改善するためにはかなりの期間を要します。

2021年4月1日まで(派遣労働者については2020年4月1日まで)に対応するためには、できるだけ早めに正社員と非正社員の業務内容を明確にし、不合理な待遇差の有無を確認する必要があります。

コストを試算する必要がある

正社員と非正社員の間に不合理な待遇差があり、非正社員の待遇を改善することになれば、非正社員にかかるコストはアップします。

このため、非正社員の待遇を改善する前には必要となるコストを試算したうえで、それで現実的に運用が可能であるのかを検証しなければなりません。

コストバランスを取るために、労使の合意は必要ですが、非正社員の待遇は引き上げつつ正社員の待遇の適正化や、人員を調整することなども考えられます。また、いよいよとなれば、非正社員の業務内容を現状の待遇にあわせて縮小することでこれまでどおりの待遇を維持することも不可能ではありません。

自社で対応できる方策を見出して導入していく必要があります。

まとめ

同一労働同一賃金を導入することで企業にも一定のメリットはありますが、短期的にみれば、従業員や求人側にメリットが多いと言えます。

中小企業の経営者の中には、日々の業務でそれどころではないと考える方もおられるかもしれませんが、少子高齢化が進む中で企業として生き残っていくためにはいずれにしても求められる対応です。

労務基盤が確立していないような中小企業で、同一労働同一賃金を導入することは簡単ではありませんが、少しでも早めに準備を進めてよりよい体制を構築しましょう。