新型コロナウイルスの影響による解雇・休業の手続きは?
新型コロナウイルスの感染拡大によって業績が悪化したことで、多くの企業が従業員の解雇や休業の実施、あるいは、その検討をしています。
今回は、新型コロナウイルスの影響でやむを得ず従業員を解雇したり、休業させたりする場合の手続きなどについて解説します。
従業員を解雇できるのか?
解雇には、「普通解雇」や「懲戒解雇」などいくつかの種類がありますが、業績悪化による解雇はいわゆる「整理解雇」にあたります。
この「整理解雇」を行うためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
整理解雇の要件を満たす必要がある
まず、「解雇」について、労働契約法第16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして無効とする。」と規定されています。
つまり、従業員を解雇するためには、その従業員に非があるなどの明確な理由がなければならないということです。
さらに、業績悪化による「整理解雇」については、そもそも従業員に非がある解雇ではないため、判例により、次の4つの要件を満たしているかどうかでその正当性が判断されることになっています。
※コロナ禍で業績が悪化したとしてもこの要件は緩和されません。
①人員削減の必要性
人員を削減しなければならない経営上の理由(業績悪化など)があること。
②解雇回避の努力
出向や転籍、希望退職者の募集、一時休業の実施など、解雇を回避するための努力をしたこと。
③人選の合理性
解雇対象者を決める基準が客観的かつ合理的であり、その運用も公正であること。
④解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模、方法について納得を得るために説明を行ったこと。
整理解雇を行うために企業に求められる手続きとしては、まずは、上記のとおり出向や転籍、希望退職者の募集、一時休業、また、政府の助成金(雇用調整助成金など)への申請など、解雇を回避するための努力をしなければなりません。
そのうえで、やはり解雇せざるを得ないということであれば、解雇する対象者を決定し、労働組合または従業員に丁寧な説明をしたうえで解雇することになります。
一般的な解雇の手続きについては以下の記事で詳しく解説しています。
まずは休業を検討する
整理解雇を行うためには、上記のとおり、まずは、解雇を回避するための努力をしなければなりません。
しかしながら、今回のコロナ禍のように急速に業績が悪化していく中では、大企業でもなければ、希望退職者を募集するなどの余裕はありません。
このため、一般的にまず検討すべきは従業員の一時休業ということになります。
従業員を休業させるときの休業手当について
コロナ禍で従業員を休業させる場合によく議論になるのが、企業側に休業手当を支払う義務があるのかどうかという点です。
この休業手当を企業としてどう考えるべきかについて説明します。
休業手当は義務にかかわらず支払うべきである
まず、「休業手当」について、労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中、当該労働者にその平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と規定されています。
簡単に言えば、会社の都合によって従業員を休業させる場合には休業手当の支払いが必要になるということです。
この点を踏まえると、コロナ禍によって業績が悪化し、そのことが原因で休業させるのであれば、それは不可抗力の休業と言え、企業側に休業手当の支払義務は生じないように思います。
しかしながら、厚生労働省は、ここで言う「不可抗力」とは次の2つの要件を満たしていなければならないとの見解を示しています。
①その原因が事業の外部より発生した事故であること。
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること。
※「事故」としているのは、東日本大震災ときの見解をそのまま用いているためです。
例えば、業務的にテレワークに切り替えられるにもかかわらず、その導入について検討もしていないような場合(②の要件を満たしていない)には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当すると判断されて、休業手当の支払いが必要になることがあるということです。
この「不可抗力の休業」と認められるかどうかの基準は、ある意味グレーゾーンとも言えますが、コロナ禍が落ち着いたあとの従業員との信頼関係を考えれば、休業手当の支払い義務に固執せず、企業責任として支払うことが求められます。
> 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)/厚生労働省
雇用調整助成金で補てんする
国の緊急事態宣言や都道府県からの休業要請前の休業については、あくまで自粛の流れの中での企業判断による休業とも言えますが、少なくとも、緊急事態宣言後の休業については、上記①②の要件以前に、やはり「不可抗力の休業」ではないかという声があがっています。
この点について政府は言及していませんが、その代わりに打ち出したのが休業手当を支払った企業に支給する「雇用調整助成金」の拡充です。これまでよりも支給割合を引き上げ、また、申請しやすくするなどの見直しを行って、休業手当の支払いを求めています。
いずれにしても、従業員を休業させて休業手当を支払ったのであれば、少しでも資金の減少を防ぐために「雇用調整助成金」に申請しておく必要があります。
まとめ
コロナ禍による業績悪化は企業の責任ではありませんが、そのことをもって従業員を簡単に解雇することはできませんし、休業させる場合にも義務にかかわらず休業手当を支払うべきです。
企業側からすれば、矛盾を感じる点もあるかもしれませんが、企業責任として従業員の生活を保障するために最大限の努力をすることが求められます。