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有限会社から株式会社へ移行する前に…検討すべき5項目

会社の形態には株式会社の他に、合名会社、合資会社、合同会社があります。現在、会社法で設立が認められているのはこの4種類ですが、「有限会社」を名乗る企業も少なくありません。

はたして、有限会社は他の会社形態とどのような違いがあるのでしょうか。

また、株式会社への移行は得策ではないのでしょうか。

当記事では、有限会社と株式会社の違いにスポットをあて、有限会社のままで経営を進めることのメリット・デメリットに迫ります。

有限会社と株式会社の違い(会社法施行前)

有限会社と株式会社の最大のターニングポイントは、2006年5月の会社法施行です。会社法が施行される前は、下表のような違いがありました。

<会社法施行前の有限会社と株式会社の特徴>

 有限会社株式会社
設立時の資本金300万円以上1000万円以上
社員数50人以下上限なし
役員の人数取締役1人以上

取締役3人以上

監査役1人以上

役員の任期定めなくてよいあり
決算公告の義務なしあり

上の表を見ると、有限会社は株式会社よりも設立しやすかったことがわかります。ところが、会社法の施行により、有限会社と株式会社の違いがほとんどなくなります(後述参照)。それにともなって有限会社法は廃止され、有限会社を新たに設立することができなくなりました。現在の有限会社は、正式には「特例有限会社」といいます。

有限会社と株式会社の違い(会社法施行後)

2016年の会社法施行により、株式会社は資本金の下限額が1円になったり必要な役員の人数が取締役1人に減ったりと、要件が大幅に緩和されました。

先ほど有限会社と株式会社の違いはほとんどないと述べましたが、すべてが要件の同じになったわけではありません。現在でも有限会社が多数存在するのは、株式会社に移行しないことにメリットを感じている企業が多いからでしょう。

そのメリットとは、何でしょうか。5つの検討項目から、その答えを探ります。

検討項目①:有限会社は任期を定める必要がない

株式会社の役員(取締役、監査役、会計参与)にはそれぞれ任期が定められており、任期満了時には選任(再任)・解任などの手続きが発生します。一方、有限会社の場合はあえて任期を定めない限り、任期満了時にかかる手間やコストは発生しません。

検討項目②:有限会社には決算公告の義務がない

決算公告とは、定時株主総会の終結後遅滞なく、決められた方法で計算書類を公衆に告知することです。

株式会社(有価証券報告書提出会社は除く)の場合、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)は貸借対照表と損益計算書、大会社以外は貸借対照表を公告する義務があります。有限会社には決算公告の義務がないので、株式会社と比べて手間がかかりません。

検討項目③:有限会社はIPOできない

IPO(新規上場)は多額の資金調達や知名度の向上など多くのメリットがあり、急成長する新興企業を中心に相次いでいます。

IPOは自社の発行する株式を、証券取引所を介して自由に取引し、資金調達等を行います。有限会社は株式を発行できますが、そのすべてが譲渡制限株式になるためIPOはできません。上場を目指す場合は株式会社への移行が必須です。

検討項目④:有限会社は組織再編に制限がある

有限会社は合併、株式交換・株式移転、会社分割といった組織再編において、次のような制限があります。

  • 合併による存続(新設)会社にはなれない
  • 株式交換・株主移転による完全親会社および完全子会社になれない
  • 会社分割による承継(新設)会社にはなれない

検討項目⑤:商号に使用する会社形態名が違う

株式会社は「株式会社」、有限会社は「有限会社」を商号(会社の名前)に用いなければなりません。

つまり、有限会社は必ず「有限会社○○」か「○○有限会社」となります。

有限会社は中小規模の企業を対象とした会社形態であった歴史的背景から、株式会社とは異なるイメージを持たれがちです。場合によっては、取引先や求職者から“規模の小さな会社”という印象を持たれる懸念があります。

まとめ

以上が有限会社と株式会社の違いです。有限会社のままでいることは、メリットだけでなくデメリットもあることがお分かりいただけたでしょうか。

現在、有限会社として運営している企業は、今後の計画等を十分に考慮し、必要に応じて株式会社への移行を進めるとよいでしょう。ただし、一度株式会社になると有限会社に戻れなくなりますので、注意が必要です。