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安全配慮義務とは? 違反が発覚したらどうなる?

会社には従業員に対する安全配慮義務が課せられていますが、具体的にはどのような義務でしょうか。また、会社がその義務を果たさなかった場合はどうなるのでしょうか。

今回の記事では、会社の安全配慮義務の内容と、違反となるケースについて解説します。従業員が安心して働ける環境を作るために、安全配慮義務を正しく理解し実践しましょう。

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、労働契約法第5条で定められた従業員に対する会社の義務です。義務の内容は、「職場において従業員の安全と健康を守ること」です。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

安全配慮義務違反となるケース労災事故に関する場面

労災事故を防ぐため、労働安全衛生法では企業に対し「安全衛生の管理体制」を求めています。次のようなケースでは、十分な「安全衛生の管理体制」が取られていないと判断され、安全配慮義務違反となる可能性があります。

  • 法定(※)の安全衛生管理体制(産業医の選任など)ができていない。
  • 法定の危険・有害な業務について適切な就業管理ができていない。
  • 法定の「職場の作業環境測定」や「従業員の健康診断」ができていない。

(※)労働安全衛生法で定められた義務など

長時間労働に関する場面

長時間労働、過重労働による過労死や自殺、精神疾患(うつ病など)などを防止するため、会社は次の対応を義務付けられています。

  • 長時間労働者の面接指導と事後措置
  • ストレスチェックの実施と事後措置
  • 法定労働時間の遵守と適切な労働者の勤務管理

上記を実施せずに、労働者が過労死したり精神疾患になったりした場合、会社の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。違反に該当するかどうかの主な判断基準は次の2つです。

  • 社員が健康を害することを予測できたかどうか(予見可能性)
  • 会社が健康を害することを回避することができたかどうか(結果回避性)

なお、「長時間労働者の面接指導」や「ストレスチェックの実施」は労働安全衛生法で義務付けられたものですが、「労働時間」は労働基準法の定めであるため、違反したら労働基準法違反です。

令和2年4月(大企業は平成31年4月)より、時間外労働の上限は「月45時間、年360時間」となりました。また、36協定の特別条項がある場合でも次の制限があります。

  • 時間外労働: 年720時間以内
  • 時間外労働+休日労働:月100時間未満、2か月~6か月平均80時間以内

ハラスメントに関する場面

令和2年6月(中小企業は令和4年4月)に改正法が施行される労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)では、パワハラやセクハラ、マタハラなどのハラスメントについて会社の義務が明確になりました。

会社(事業主)によるパワハラを禁止することは勿論、会社にパワハラ防止を義務付けました。会社は従業員に対し「働きやすい良好な職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)」を負っているのです。

社内で発生したハラスメントに対して会社が適切な対応を行わなければ、安全配慮義務違反となる可能性が高いでしょう。

安全配慮義務を違反した場合

安全配慮義務を違反した場合、会社は民法415条1項に定める「債務不履行」による損害賠償を請求される可能性があります。

民法415条1項(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

会社が従業員に対して「安全配慮義務」という債務を果たさなかったことによる損害賠償です。また、状況によっては次の責任を問われるケースもあります。

  • 不法行為(民法709条):会社が自ら不法行為を行った場合
  • 使用者責任(民法715条):会社の使用者(従業員)が不法行為を行った場合

その他、前述の通り「時間外労働の上限」を超える時間外労働をさせた場合、労働基準法違反を問われる可能性もあります。

まとめ

安全配慮義務とは、労働契約法第5条で定められた従業員に対する会社の義務で、「職場において従業員の安全と健康を守ること」です。

会社が積極的に法令違反を行っていないケースでも、法定の安全配慮がなされていない場合は安全配慮義務違反となり、「債務不履行」による損害賠償を請求される可能性があります。

安全配慮義務を国から強制された義務と捉えるのではなく、従業員が安心して業務に打ち込める環境を作ることで会社業績の向上に資するものであると考えるべきでしょう。