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産業医は必要? 事業者に選任義務が生じるケースとは?

労働安全衛生法では、一定規模の事業場に産業医の選任が義務付けられています。産業医は、従業員の安全や身体的な健康を管理するだけでなく、メンタルヘルス(心の健康)を守る重要な職務を担っています。

今回の記事では、産業医の選任義務が生じるケースを中心に、産業医の役割や要件についても解説します。法律上の基準を満たすことは勿論ですが、従業員の安全と健康を守り安心して働ける職場をつくるために、産業医の活用は効果的です。

産業医とは

産業医とは、従業員が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。産業医の役割や職務内容については、労働安全衛生法で具体的に定められています。

産業医の役割

産業医の役割は、労働安全衛生規則第14条第1項に次のとおり定められています。

  • 健康診断や面接指導の実施と、その結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  • 作業環境の維持管理に関すること。
  • 作業の管理に関すること。
  • 上記以外の労働者の健康管理に関すること。
  • 健康教育や健康相談、その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  • 衛生教育に関すること。
  • 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

大きく分けると、「労働者の健康管理」「作業内容や作業環境の管理」「安全衛生教育」の3つです。働き方改革が進む中で、次の健康管理の重要性が高まっています。

  • 長時間労働者への面接指導
  • ストレスチェックの実施とメンタルヘルスケア
  • 休職前や復職前の面談

働き方改革関連法により、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないように産業医による面接指導等の強化が図られました。

産業医の要件

産業医の要件は、労働安全衛生規則第14条第2項に次のとおり定められています。

  • 厚生労働大臣が定める次の産業医研修の修了者
  1. 日本医師会認定の産業医学基礎研修
  2. 産業医科大学の産業医学基本講座
  • 労働衛生コンサルタント試験(試験区分が保健衛生)の合格者
  • 大学において労働衛生に関する科目を担当する教授や准教授、講師、経験者
  • 上記のほか、厚生労働大臣が定める者

上記要件を満たさない医師は、産業医になることはできません。平成31年度の日医ニュースによれば、日本医師会認定の産業医数は10万人を超えました。

産業医の選任が必要なケース

産業医の選任が必要になるのは、常時雇用従業員数が50名以上の事業場で、次のとおり産業医と事業場に常勤する「専属産業医」の人数が定められています。

  • 従業員50名以上:1名
  • 従業員1,000名以上:1名(うち専属産業医1名)
  • 従業員3,001名以上:2名(うち専属産業医1名)

また、「所定の有害業務を扱う従業員500人以上の事業場」は専属産業医の選任が必須です。所定の有害業務は、下記業務など労働安全衛生法第13条1項2号に定められています。

  • 多量の高熱(低温)物体を取り扱う業務及び著しく暑熱(寒冷)な場所での業務
  • ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • 重量物の取扱い等重激な業務
  • 坑内における業務
  • 深夜業を含む業務 など

産業医の選任方法

産業医を選任するために、まずは次の方法などで産業医をしてくれる人を探します。

  • 医師専門の人材紹介会社の紹介
  • 医師会などの紹介
  • 地元の医療機関に相談
  • 知人などの紹介

産業医が決まったら、労働基準監督署に報告が必要です。

「産業医選任報告書」を、産業医を選任しなければならなくなった日(従業員数が選任基準に達した日)から14日以内に所轄の労働基準監督署に提出します。

報告書は下記リンクからダウンロードできます。

参考:厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」

主な添付書類は、次の2つです。

  • 医師免許の写し
  • 産業医の資格を証する書面

また、「e-Gov(イーガブ)」から電子申請を行う方法もあります。

産業医を選任しないとどうなる?

産業医を選任しないと労働安全衛生法違反になります。

労働安全衛生法第13条で義務付けられた「産業医の選任」をしなかったことになるため、第120条によって「50万円以下の罰金」に処せられます。

(労働安全衛生法第13条)

事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

(労働安全衛生法第120条)

次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 ・・・、第十三条第一項、・・・の規定に違反した者

法律違反となるだけでなく、事業場内に「従業員が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう専門的な立場から指導・助言を行う」人がいなくなってしまいます。

まとめ

産業医とは、従業員が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。産業医の要件や選任基準、報告義務など産業医に関する主な内容は、労働安全衛生法に定められています。

長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を守るためにも、産業医に求められる役割は大きくなっています。