【労務】毎月行う手続き、必要に応じて行う手続きは?
労務とは、従業員の管理に関する事務のことで、具体的には給与計算や労働・社会保険関係の手続きなどのことを言います。
今回は、主な労務の手続きとしてどのようなものがあるのかについて解説します。
毎月行う手続き
毎月行う労務の手続きには次のようなものがあります。
給与計算
毎月、会社で定める給与計算の締め日が過ぎれば、給与計算に入りますが、一般的には全従業員について次のような作業が必要になります。
- 勤怠状況を確認して、残業や休日出勤の割増賃金などを計算する。
- 基本給に割増賃金やその他の手当を加えて総支給額を求める。
- 総支給額から所得税や住民税、社会保険料(被保険者のみ)を控除して差引支給額を求める。
※勤怠管理・給与計算システムなどを導入していれば、ほぼ自動化できます。
全従業員の差引支給額が確定すれば、インターネットバンキングなどを利用して給与支給日に各従業員の口座に振り込まれるように手続きを行います。
源泉所得税の納付
従業員の給与や税理士などへの報酬から控除した所得税(源泉所得税)については、給与や報酬を支払った月の翌月10日まで(月によって変更あり)に管轄の税務署や金融機関で納付するか、e-Tax(イータックス)により納付しなければなりません。
なお、給与を支給する従業員が常時10人未満である場合には、税務署の承認を受けることで、年2回の納付(6か月ごとにまとめて納付)にすることができます。
住民税の納付
従業員の給与から控除した住民税については、給与を支払った月の翌月10日まで(月によって変更あり)に金融機関で納付するか、Pay-easy(ペイジー)やeLTAX (エルタックス)により納付しなければなりません。
また、源泉所得税と同様ですが、給与を支給する従業員が常時10人未満である場合には、従業員が居住する市区町村の承認を受けることで、年2回の納付(6か月ごとにまとめて納付)にすることができます。
社会保険料の納付
社会保険の被保険者である従業員の給与から控除した健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料については、翌月末までに金融機関で納付するか、指定の口座から自動振替により納付しなければなりません。
※納付すべき額については、毎月20頃に日本年金機構(年金事務所)から送られてくる「保険料納入告知書」に記載されています。
必要に応じて行う手続き
必要に応じて行う労務の手続きには様々なものがありますが、主なものとしては次のような手続きが挙げられます。
従業員の入退社手続き
フルタイムの従業員を採用したときは、5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届」を管轄の事務センターまたは年金事務所に、採用日の翌月10日までに「雇用保険 被保険者資格取得届」を管轄のハローワークに提出しなければなりません。
※新卒採用に限定すれば、毎年4月、5月に行う手続きであると言えますが、ここでは必要に応じて行う手続きとしています。
上記の手続きを行った従業員が退職したときは、5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届」を管轄の事務センターまたは年金事務所に、退職日の翌々日から10日以内に「雇用保険 被保険者資格喪失届」と「雇用保険 被保険者離職証明書」(※)を管轄のハローワークに提出しなければなりません。
※退職者が59歳未満で離職票の交付を希望しない場合は提出する必要はありません。
従業員の入社、退社したときの手続きについては以下の記事で詳しく解説しています。
従業員の被扶養者に関する手続き
社会保険に加入している従業員が家族を被扶養者にするときは、事実発生から5日以内に「健康保険 被扶養者(異動)届/国民年金 第3号被保険者関係届」を管轄の事務センターまたは年金事務所に提出しなければなりません。
また、被扶養者とした者に異動(削除、氏名変更など)があったときは、その都度、上記の様式を管轄の事務センターまたは年金事務所に提出しなければなりません。
従業員の被扶養者に関する手続きについては以下の記事で詳しく解説しています。
給与額が大幅に変わるときの手続き
社会保険の被保険者および70歳以上被用者である従業員の報酬が昇給や降給などにより大幅に変わったとき(標準報酬月額が2等級以上変わったとき)は、毎年1回の定時決定を待たずに標準報酬月額が見直されることになっています。
これに該当する従業員が出た場合には、速やかに、「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」を管轄の事務センターまたは年金事務所に提出しなければなりません。
月額変更届については以下の記事で詳しく解説しています。
業務災害・通勤災害に関する手続き
従業員が業務上、また、通勤の途中で負傷または死亡したときは、所定の様式を指定医療機関や労働基準監督署に提出することで、療養(補償)給付や休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付など様々な給付を受けることができます。
なお、従業員が業務中などの事故により4日以上の休業または死亡したときは、遅滞なく「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなければならず、4日未満の休業については、1月~3月分、4月~6月分、7月~9月分、10 月~12月分として、それぞれの期間の最後の月の翌月末までに「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなければなりません。
業務災害や通勤災害、労働者死傷病報告については以下の記事で詳しく解説しています。
賞与の支給に関する手続き
賞与については、夏(6月~7月)と冬(12月)の年2回の支給としている会社が多いですが、一般的にはそれまでに各従業員の評価を行って、会社で定める計算式に基づいて総支給額を決定します。
その後は、総支給額から所得税と社会保険料(被保険者のみ)を控除して、差引支給額を従業員に支給、所得税と社会保険料は給与と同様にそれぞれ支給月の翌月10日、翌月末までに納付しなければなりません。※賞与には住民税はかかりません。
また、社会保険の被保険者および70歳以上被用者である従業員に支払った賞与については、「健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届/厚生年金保険 70歳以上被用者賞与支払届」にまとめ、支給日から5日以内に管轄の事務センターまたは年金事務所に提出しなければなりません。
賞与支払届については以下の記事で詳しく解説しています。
36協定の締結に関する手続き
従業員に残業や休日出勤をさせるためには、労働者の過半数で組織する労働組合、労働組合がなければ労働者の過半数を代表する者と36(サブロク)協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結して労働基準監督署に届け出なければなりません。
36協定の有効期間については法律で明確に規定されているわけではありませんが、労働基準監督署は1年間とすることが望ましいとしているため、多くの会社では毎年4月などに締結し直して労働基準監督署に届け出ています。
36協定や時間外・休日労働については以下の記事で詳しく解説しています。
毎年決まった時期に行う手続き
毎年決まった時期に行う労務の手続きには次のようなものがあります。
年度更新
年度更新とは、4月1日から翌年3月31日までの労働保険(労災保険・雇用保険)の保険料を概算で申告・納付し、あわせて、前年度に申告・納付した保険料を精算する手続きのことを言います。
年度更新に関する申告書は、毎年6月1日から7月10日までの間(年によって変更あり)に金融機関や管轄の都道府県労働局、労働基準監督署などに提出して保険料を納付しなければなりません。
年度更新については以下の記事で詳しく解説しています。
> 労務の手続き②〜労災保険・雇用保険の申告・納付について〜
算定基礎届の提出
社会保険料などの計算のもとになる標準報酬月額については、実際の給与額との間に大きな差が生じないよう、年に1回見直されることになっています。(これを「定時決定」と言います。)
この手続きのために、毎年、7月1日時点で在籍する社会保険の被保険者および70歳以上被用者(70歳で厚生年金保険の資格を喪失したあとも働く者)である従業員に支払った賃金(4月~6月)について「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」にまとめ、7月10日まで(年によって変更あり)に管轄の事務センターまたは年金事務所に提出しなければなりません。
算定基礎届については以下の記事で詳しく解説しています。
高年齢者・障害者雇用状況報告書の提出
企業全体で常用労働者が31人以上いる場合には、毎年6月1日現在の高年齢者の雇用に関する状況を「高年齢者雇用状況報告書」にまとめ、また、企業全体で常用労働者が45.5人以上いる場合には、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況を「障害者雇用状況報告書」にまとめ、ともに7月15日まで(年によって変更あり)に管轄のハローワークに提出しなければなりません。
なお、常用労働者が100人を超える企業で、障害者の法定雇用率(民間企業は2020年8月時点で2.2%)を達成できていない場合には、障害者雇用納付金を納付する手続きなども発生します。
年末調整
年末調整とは、従業員ごとに1年間の総所得から正しい所得税額を計算(扶養親族の変更や生命保険料控除なども考慮)して、毎月の給与や賞与から控除、納付した仮の所得税額との過不足額を精算する手続きのことを言います。
手続きの開始時期は会社によって異なりますが、概ね11月中旬に「扶養控除等(異動)申告書」や「保険料控除申告書」などを従業員に配布し、12月中旬にそれらを回収して過不足額を計算します。(給与計算システムなどに入力)その後、12月の給与で過不足税額を精算して従業員に源泉徴収票を配布します。
また、翌年1月31日まで(年によって変更あり)に、一定範囲の源泉徴収票を含む法定調書を管轄の税務署に、給与支払報告書を従業員が居住する市区町村に提出しなければなりません。
まとめ
労務の大部分はルーティンワークと言えますが、その範囲は広く業務量も膨大です。
労務担当者はどの時期に何をしなければならないのかをしっかりと把握し、できることは早めに準備しておくなど効率的に処理するようにしましょう。