起業家が知っておくべき「無限責任と有限責任」「直接責任と間接責任」の違いとは?
事業を法人化して会社の設立を行うと、社長個人と会社は法律上全く別の人格として扱われるようになります。
社長個人の財産は社長のもの、会社の財産は会社のもの、といったように、お互いに勝手に財産を処分することができなくなるのです。
こうした問題は、会社の借金についても同様です。
つまり、会社が会社名義で借金を負った場合に、その返済義務は社長や出資者にも及ぶのか?が問題となるわけです。
この問題のことを、専門用語では「無限責任と有限責任」「直接責任と間接責任」と呼んでいます。
無限責任と有限責任の違い
無限責任とは、会社が外部の人に対して負っている借金の支払い義務を、会社の出資者も一緒になって負わなくてはならないことをいいます。
例えば、会社が会社名義で銀行から1000万円を借り、約束通りに返済ができなかった場合には、その会社の出資者となっている人も借金の返済をしなくてはなりません。
一方で、有限責任とは、同じような状況のときに、会社の出資者は出資額の範囲内で返済義務を負います。
例えば、会社が銀行から1000万円のお金を借りて返済できなくなったときに、出資者が会社に対して800万円を出資していたとします。
当然ながら銀行は会社の所有物である800万円から借金を回収しようとしますが、全額を借金の返済にあてさせたとしても、まだ200万円が回収できていません。
銀行としては出資者に対しても「借金を払え」と言いたいところですが、有限責任の会社の場合には言えません。
出資者の側から見れば、自分が出資した800万円さえあきらめれば、残りの200万円については返済義務を免れることができるというわけです。
わかりやすくいえば、無限責任の場合には「出資者は会社の債務について、無限に責任を負わなければいけない」のに対して、有限責任の場合には「会社の債務に対する出資者の責任は有限になる」というわけです。
株式会社・合同会社は有限責任の会社
もっともポピュラーな会社形態である「株式会社」の株主や「合同会社」の社員は、有限責任となります。
合名会社や合資会社の場合には、無限責任の出資者がいることになりますが、これらの会社の設立が選択されることはめったにありません。
2019年3月20日付の帝国データバンクの資料によると、長野県において、2018年の1年間で新しく設立された会社の数は1091件ですが、その内訳は以下のようになっています。
- 株式会社:778件
- 合同会社:312件
- 合名会社:0件
- 合資会社:1件
なお、有限会社という会社の名前に馴染みがある方もいらっしゃるかと思いますが、2006年以降は有限会社を新たに設立することはできなくなりました。
2006年以前においてすでに設立されていた有限会社は、法律上は株式会社として扱われます。
直接責任と間接責任の違い
次に、直接責任と間接責任の違いについてです。これは間接責任の意味から考えたほうが理解しやすいと思います。
間接責任とは、「出資者は会社の債務について、間接的にしか責任を負わないこと」をいいます。
出資者は会社にお金を出資するという形で会社の活動に参加していますが、間接責任の会社においては、出資者は会社を通して責任を追及されます。
一方で、直接責任の場合には、会社の債権者から直接返済請求を受けることになります。
「無限責任と有限責任」「直接責任と間接責任」の違い
「無限責任と有限責任」・「直接責任と間接責任」と、2つの問題についてみてきました。
ここまで読まれた方の中には、「無限責任と直接責任、有限責任と間接責任の違いが、まだよくわからない」という方もいらっしゃるかと思います。
結論から言うと、これらは同じものと考えておいて問題はありません。つまり、同じことを違う意味でいっているだけの話です。
具体的には、以下のような対応関係になります。
- 直接責任=無限責任
- 間接責任=有限責任
「直接責任の会社であれば、その会社の出資者は無限責任であり、間接責任の会社であればその会社の出資者は有限責任である」と考えておいて問題ありません。
通常はこのように理解しておいて問題ありませんが、唯一の例外として「合資会社」という特殊な形の会社をつくるときだけは、これらの言葉の意味の違いが問題となります。
合資会社とは、会社としては直接責任の会社であるものの、その会社の出資者には無限責任の人と、有限責任の人の2種類がいるという特殊な性質の会社です。
現在は、合資会社の設立はめったに行われることがありませんので、上で見たように「直接責任=無限責任」「間接責任=有限責任」と考えておけば問題はありません。
まとめ
無限責任と有限責任、直接責任と間接責任の意味の違いについて解説いたしました。
会社の設立にあたっては、こうした用語の意味を正しく理解しておくことはとても大切です。会社が借金を負ったときに、出資者となっている人にどのようなリスクが生じるのかを理解することにつながるからです。
法律用語には、日常用語とはまったく意味が異なるものが少なくありませんので、注意するようにしましょう。